諦めることになっても「本気でやる」人間はカッコいい
──かっぴーさんは「エレン」以前には「フェイスブックポリス」や「おしゃ家ソムリエ おしゃ子!」など、あるある系の読者の共感を呼ぶタイプのタイトルを執筆していました。それまでのショートギャグとは打って変わる、初めての長編ストーリーとなった「エレン」を描くまでにどういった心境の変化があったんでしょう。
かっぴー 最近思い出したんですけど、「フェイスブックポリス」をネットで発表した1週間後には、「エレン」の読み切りを描いていたんですよ。「フェイスブックポリス」がめちゃくちゃバズったときに、「これだけの読者が読んでくれるとしたら何が描きたいだろう」って考えた結果、生まれたのが「エレン」のテーマだったんです。
──描きたかったテーマというのは?
かっぴー 作品にもモノローグとして出てくる「天才になれなかった全ての人へ」っていう部分です。僕は小さい頃マンガ家になりたいと思っていた時期があったんですけど、本気で努力をしたわけではなかった。マンガ家になりたいと思ったことがある人なら覚えがあるかもしれないんですけど、使いもしないGペンとインクを買ってきてその気になるみたいなことをしていて。
nifuni (笑)。すごいわかります。
かっぴー 小さい頃の夢なんてその程度のもので、大部分の人が夢に対して本気でトライしてないんですよね(笑)。でも甲子園に行ったけど野球選手になれなかった人とか、起業したけど上手くいかずに会社員に戻った知り合いとかを近くで見ていると、夢に本気で取り組む人間は、たとえその後それを諦めることになったとしてもカッコいいな、とずっと思っていたんです。
──たとえその人が天才ではなかったとしても。
かっぴー ええ。「フェイスブックポリス」を世の中の人に見てもらえるようになったとき、ふと「なんで自分はマンガ家を目指すのをやめたんだっけ」と振り返ったんですけど、そこに理由なんてなくて。そのときに「ダメだったとしてもいいから、一度本気でマンガを描いてみよう」と思ったんですよ。それで描くとしたら「『本気を出したけど、それがダメで諦める』っていうことをテーマにしたマンガ」かなと。それまであるある系のギャグばかり描いていたので、発表したときには驚いた人も多いと思うんですけど。ファンの人にすら「ギャグを描け」って言われましたし(笑)。
nifuni 学生時代からかっぴーさんのことを知っていた私からすると、「エレン」のテーマに含まれているような視点は当然持っているだろうなと思いましたし、「フェイスブックポリス」のあとに「エレン」が出てきてもすごく自然なことだと思いましたね。
──ちなみに原作版の「左ききのエレン」のラストには「第一部『朝倉光一』完」と表記されていましたが、第2部の構想もあるんでしょうか。
かっぴー ありますよ! 第2部をいつ描くのかっていうことは決めてないですけど、プロット自体はもう完成しています。大体第1部と同じくらいの長さになるんじゃないかな。ただリメイク版の「左ききのエレン」が盛り上がってくる前に第2部を始めちゃうと、読者が分散してしまう気もしているので、今はちょっと様子見というか。リメイク版が重版したら描こうかな(笑)。
nifuni もしかしたらすぐ描くことになるかもしれないですよ(笑)。
かっぴー そのときは……がんばって描きます!
手に取ればなんらかの感情が湧いてくる
──最後の質問なのですが、かっぴーさんは2016年末にnoteで、「2017年は漫画雑誌での原作者デビューを目指す」とおっしゃっていましたよね。ここでおふたりの2018年の目標をうかがいたいのですが。
かっぴー うーん……「左ききのエレン」がメディア化して欲しいです(笑)。
──これまで執筆してきた大体の作品には、なんらかのメディア化の話が来ていると以前おっしゃっていましたよね。
かっぴー 話自体は結構ありますけど、やっぱりそこからなかなか進まないんですよ。でもメディア化は自分でどうこうするものじゃないから、目標にしちゃうのはちょっと違うかもしれないな……。nifuniさんはなにかあります?
nifuni 順当に行けば来年も「エレン」を執筆し続けることになると思うんですけど、それは当たり前のこととして置いておいて。自分の努力でということで言えば、これまで描いてきたようなドローイングなんかを集めて自分の画集を作りたいですね。作品集としてまとめられるくらいに絵の数を増やしていきたいです。
かっぴー 僕はマンガの原作ものの仕事を何本か増やしたいですね! 描きたいテーマがたくさんあるので。
──ありがとうございます。では1巻をこれから読む読者にメッセージをお願いします。
nifuni どんなご意見も受け入れて力にしていきたいと思っているので、原作を知っている方はぜひリメイク版も読んでもらえるとうれしいです。原作を読んだことがない方には、原作のほうも全力でオススメします。私が「エレン」に触れて味わった感情をまっさらに一から読めるってとっても羨ましいですし、まずは手にとってみてほしいですね。
かっぴー そうですね。とりあえず読んでみてほしいです。読まないとわかりにくい内容だとは思うんですけど、一度手にとってもらえれば共感かもしくは反発か、なにかしらの感情が湧いてくる作品だと思うので、それを確かめてほしいですね。
- かっぴー、nifuni「左ききのエレン①」
- 2017年12月4日発売 / 集英社
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コミックス 432円
Kindle版 410円
- 作品紹介
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広告代理店勤務の若手デザイナー・朝倉光一。
納得できない理由で自ら勝ち取った仕事を取り上げられた彼は、やりきれない気持ちを抱えて横浜の美術館へと向かう。そこは、彼が初めて「エレン」という才能と出会った場所で……。
大人の心も抉るクリエイター群像劇、開幕!
- かっぴー
- 1985年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学でデザインを学んだ後、2009年に東急エージェンシーへ入社。アートディレクター、コピーライター、CMプランナーなどを務めた後、2014年に面白法人カヤックへと転職する。社内での自己紹介用に執筆したマンガを見た同僚に背中を押され、2015年9月に「フェイスブックポリス」をWebサイトに投稿し話題を集める。以降、「SNSポリス」「おしゃ家ソムリエ おしゃ子!」「バズマン」「いつか絶対おっさんになるキミへ」「みーはーちゃんねる」といった作品を発表。cakesにて発表した「左ききのエレン」のリメイク版は作画にnifuniを迎え少年ジャンプ+にて連載されている。「忙しく、遊ぶ」を社訓に掲げた株式会社なつやすみの代表取締役社長も務めている。
- nifuni(ニフニ)
- 1987年生まれ。国立高岡短期大学(現・富山大学芸術文化学部)にて金属工芸を学んだ後、株式会社ケイ・ウノへ入社。ジュエリーデザイナーとして8年間勤め、デザインだけでなくマネジメントや店舗の立ち上げにも携わる。
またその傍ら、ライフワークとして絵画やドローイング作品を自主制作し地元富山県で毎年美大出身のメンバーと共に展覧会を開くなど、絵描きとしての活動を続けてきた。現在漫画家デビュー作であるリメイク版「左ききのエレン」の作画を担当、少年ジャンプ+にて連載中。