「D・N・ANGEL New Edition」完結&豪華版発売 杉崎ゆきるロングインタビュー 「私にとって『DN』は親友のような存在」|入野自由、石田彰、置鮎龍太郎 アニメ版キャストコメントも

「時の秒針」は“映画版”

──作品を通して先生の中で特に手応えを感じたエピソード、物語のターニングポイントになったエピソードなどはありますか?

やっぱり「時の秒針」あたりがひとつのターニングポイントになったような気がします。あとは個人的に冴原回などが割と好きです。また、後半の方の氷狩の先祖の話は、日渡を知るうえで重要で、また、大助と違うパートナーのときのダークの印象が新鮮でした。

──描くのが楽しかったシーン、逆につらかったシーンについてもお聞かせください。

大助が活躍するシーンは、どれも描いていて楽しかったです。日渡と大助の変な間を醸し出す関係性も描いていて楽しいことが多く、何気に大助の母親もお気に入りでした。つらかったシーンは、やはり後半の、好きな人を傷つけるがゆえに明かせない、明かす訳にいかない秘密があるときの大助の苦悩はつらかったです。

──冴原回、大助の母親と杉崎先生は意外とコメディパートがお好きなのでしょうか?

本気でコメディを描くというのは、こだわった部分でもあります。ギャグでもバトルでも恋愛一本でもサスペンスでもバイオレンスでもなく、リアルでもない。だからこそ本気で描かないとコメディとして面白いものにはならない。そもそも成り立たない。奥が深いなあ、本気を試されるなあ、コメディ……といつもこだわって描いていました。

──ターニングポイントとして挙げられていた「時の秒針」のエピソードは、TVアニメでも終盤の盛り上がりどころにエピソードが配されていたりと、読者でも印象に残っている人が多いと感じます。このエピソードを描こうと思った、また生まれたきっかけを教えてください。

「時の秒針」vol.1の扉。

先ほどもありましたが「DN」の連載形式は変わっていて、1話を構成するときの感覚は、1話30分、または1時間ドラマをつなげて描く構成で作っていました。ですが、映画版のような豪華な構成で描きたいと思い描いたのが「時の秒針」です。

──確かに、大助が絵を描くことが好きな設定や意味に触れられていたり、丹羽と氷狩の因縁、ダークとクラッドの戦い、さらに先生が趣味とする「演劇」も絡むなど、作品の核を成す要素が、本当にうまく絡まり合っていますよね。

なのでネームのときも、いつもと違って意識してゆったりとした画面構成にしました。TVアニメなどで親しんだキャラクターが、映画版になってスケールアップした世界で思ってもいない大活躍をして見せたり、本編と違って意外と頼りになるキャラクターだったり、という、見ている側の意外な発見の楽しさが伝わるといいなーと思って描いていた記憶があります。

──「時の秒針」では、初めて美術品を救えなかった大助が感情を露わに涙したシーンも印象的でした。さらに、悲しみを乗り越えフリーデルトのために文化祭の劇を成功させようとする大助の姿は、とても彼の成長を感じさせました。「時の秒針」のエピソードで先生がこだわったポイントがあれば教えてください。

あのエピソードで、これまではぼんやり「美術品」として、「物」であったものが、実は感情を持ち、まるで人みたいな存在であるということをはっきり明記したように思います。それが大助の中でダークという存在をさらに深く考えるきっかけになります。そして、ずーっと一緒だと思っていた存在に疑問を感じる瞬間。その寂しさや不安の中で、自分のできることを精一杯やる、ということで大助の前向きさを描きたかったんだと思います。あのエピソード以降、大助の美術品への考え方や、別れを意識したからこそ一生懸命向き合おうとする姿勢が出てくるようになりました。やっぱり、成長がキーワードの物語なのでしょうね。

初期から一番デザインを変えたのはダーク

──「D・N・ANGEL」には、魅力的なキャラクターが数多く登場します。大助、日渡、梨紅、梨紗、ダークについて、どのようにキャラクターを作り上げていったのでしょう?

大助は最初っからもう、丹羽大助、でした。デザインも悩むことなく答えが最初からあって。私は、本当の優しさというのはとてつもない強さで構成されていると考えていて、それを形にしたようなキャラクターだと思います。日渡もデザインで悩むことはありませんでした。意識したのは透明度、薄い青。壊れそう、触ると冷たそうなのに、実際触ると脆くて冷たくない、というイメージです。最初の頃はあまり感情を表に出さないタイプだったので、断定的に話さないよう語尾に意識的に「…」を付けるようにしていました。どこか「どうでもいい」というような他人事的な冷たさがほしかったんだと思います。綺麗すぎて、笑われるとなんか逆に怖い、というそんなキャラクターです。

──大助と恋人になる原田梨紅、大助の初恋の人である梨紗の姉妹についてはいかがでしょう?

自分の取り扱いだけが一番上手くない、それが梨紅です。面倒見がよく意見もはっきりしているのに、自分のことだけが把握できない。切れ味が鈍くなる。また、ちょっと大助に似ている部分があります。梨紅で悩んだのが、言葉遣いで語尾に「だわ」などなるべく使いたくないと思って描いていました。とはいえマンガの中では女の子キャラクターの言葉遣いは本当に難しいものがありますが……。自分をよくわかっているのが梨紗で。欲しいものも嫌いなものもはっきり。見た目乙女ですが、梨紅より逞しく、自立心も高く、したたかなところが魅力。連載初期、梨紗は女子の読者から嫌われていました。でも次第に好きだと言ってくれる読者も増え、一安心しました。

──最後に、編集さんのアドバイスで設定を変えたとおっしゃっていたダークです。

ダーク・マウジー

先ほども少し話しましたが、初期から一番デザインを変えたのはダークでした。最初は見た目少年でしたが、今の姿に。背中から羽が生えてるなんて!と当時自分で描いていて照れと衝撃がありましたが、今では割と普通のことになったので、それはそれで一安心。ぴったりスーツみたいなのを着ていることも多く、うわ!と当時以下同文。目が紫だったり大助と同じ赤だったりします。

──ちなみにキャラクターの中で一番お気に入りのキャラクターと、動かすのが難しかったキャラクターを挙げるとしたら誰でしょう?

描きやすいのは、性格的にも作画的にも大助です。と、同時にダークも描きやすいキャラクターでした。描いていて感情が引きずられて疲れるキャラクターはいますが、動かしにくいキャラクターはいません。そう考えると「DN」という作品は、自分の好きな要素で構成されているような気がします。

──描き進めていくうちに想像とは違っていったキャラクターはいますか?

日渡父です。最終回付近で正体がわかりますが、これがまた意外なことに、最後に行くにつれ意識して描いているはずもないのに、父の表情がどんどん日渡に似てくるのです。

──物語は完結を迎えましたが、今後、番外編などを描く機会があったら掘り下げてみたいキャラクターがいたら教えてください。

とても長い期間をもらって丁寧に描けたので、さらに掘り下げて……というのではありませんが、パートナーが大助じゃないときのダークの話、は面白そうです。大助の次の代など、想像すると楽しそうですね。

──作中では、梨紅の想像でダークのような見た目をした大人の大助が登場したり、イケメンに成長するのではと噂されていたりする場面が登場します。先生の中で大人になった大助像はありますか?

日渡怜

見た目は大助父に似たような印象になるかと思います。ダークの見た目が引き継がれることは……なさそうです。将来的に、絵を描く職業、または絵を取り扱う美術関係の仕事をすると思います。内面も、今までの通り素直で優しい、時々男子独特のどこか扱いにくい感情も持ったまま成長する気がします。「DN」は女性キャラクターがやたらと強いので……。押され気味かもしれませんね。

──これは個人的に一番お聞きしたかったのですが、もしも、大助と日渡が因縁もなく普通の学生生活を送っていたとしたら2人はどのような関係になったと思いますか? また普通の学生生活を送った大助はそれでも梨紅と恋人になったでしょうか?

それは想像が難しい! どうでしょうか、大助は日渡と友達になれたとは思いますが、日渡のほうが歩み寄ったかどうか……? そもそも、出会っていないかもしれません。でも意外と正反対の親友というのも多いですし、大助はああ見えて割と人懐こいし、打たれ強くもあるので、出会っていたとしたら友達になったかもしれません。梨紅とは……これもどうでしょうか? きっかけがないとなかなか難しいかもしれませんが、ツンデレ気味の梨紅の押しの一手でやっぱり恋人同士になっているような気がします。