「閻魔の教室」を支える秘伝のレシピ?「ちばリズム」
──「閻魔の教室」も電子ですごく売れた作品ですよね。
別チャン・RED 小口 「閻魔」は始めるときからバナーを意識して作ってたんでしょ?
週チャン K平 直接的にバナーを意識していたわけではないですが、連載を始める前から、田中先生はものすごく言葉の切れ味がある作家さんだと感じていたんです。普通じゃ思いつかないようなキレのいい言葉が出てくる。そういうセリフをコマ単位でSNSにアップするだけでも作品に興味を持っていただけるだろうと思っていました。それが結果的にバナー広告にもマッチして、いろんなコマでバナーをつくってもらって一気に火が着いた感じでしたね。単行本1巻が出る前に話売りですごく売れていました。
別チャン・RED 小口 1巻出る前に累計何部出たの?
週チャン K平 累計で10万部は突破していました。
ヤンチャン S.T ヤバい! 昔の編集だから「1巻出す前に10万部」の意味がわからない(笑)。私も「単行本出る前に10万部」になりたい。
週チャン K平 田中先生の力あってこそですね。ただ、スマホそのものはそれほど意識はしてなかったです。田中先生ご自身は板垣恵介先生が大好きなんです。秋田書店で描くきっかけも板垣先生がいらしたからってくらいなので。で、「刃牙」シリーズってすごく読みやすいじゃないですか。だから、自分の作品も「刃牙」くらい読みやすくしないといけないというのをすごく意識されてますね。
別チャン・RED 小口 「ちばリズム」なんだっけ?
週チャン K平 それ、知られたくないんですよ(笑)。
──なんですか、「ちばリズム」って。
週チャン K平 田中先生がおっしゃってたのは、板垣恵介先生や、何人かの大ヒット作家さん、大ヒット作が当てはまるんですけど、コマの運びやページの配分がちばてつや先生のリズムと同じだ、と。例えば、ちば先生の「あしたのジョー」もそのリズムで作られている。で、「バキ」や板垣先生に影響を受けた「閻魔の教室」もやっぱりちばリズムになっていて、比べるとコマの運びやページ割りが大筋同じになっていたりするんです。それはイントロがあってAメロがあってBメロがあったら次はサビだよねっていうようなことで、リズムがもう決まっているから、田中先生は描くときに迷うことがないっておっしゃってるんです。
別チャン・RED 小口 だから、「ちばリズム」のことを同じ雑誌の作家に知られたくないんでしょ?(笑)
週チャン K平 あまり言ってないですね(笑)。
別チャン・RED 小口 でも、「ちばリズム」の使い手がもう何人かいるといいよね。
──「悪役令嬢の兄に転生しました」も売れていますね。
ヤンチャン S.T 担当作なんですが、こんなに売れるなんてってびっくりしてます。メディア化しているとか、原作がものすごく売れているとか、そういう派手なとっかかりがあるわけではないのに、ありがたいことに1巻から売れていて。
──話を追うごとにどんどん読みたくなっていく作品ですよね。不思議な魅力がある。
ヤンチャン S.T マンガ家さんがすごくがんばって描いてるんです。オリジナルでデビューはしていない作家さんなんですけど、すごくマンガが上手な方で、でもご本人はその能力に気づいていない様子で(笑)。作家さんのマンガのうまさがあるうえで、編集としてもなるべく読みやすいようにというのは意識しています。スマホで読まれる今の環境に合うように、字はなるべく少なくとか、級数(文字の大きさ)はこれくらいにしてほしいとか、こういう決めゴマを入れたいとか、細かいことをけっこうお願いしていますね。
シーモア ひろ 展開も面白いんですよね。社内のメンバーとどんな広告を作るかって話をするときも、やっぱりなんとなく読者さんが思い描く大きなゴールがありつつ、その過程でいい意味での裏切りを作れると、すごく訴求力のある広告クリエイティブができるって話になったりするんですね。この作品も安心感のあるストーリー展開が基本にありながら、その中でうまく裏切ってくれる。「あ、じゃあ次はどうなるんだろう」と興味が湧いてくるんですよね。そこのバランスがすごくなんか素敵な作品なのかなと思っています。
ヤンチャン S.T 実はクセのあるキャラも多いんです。令嬢のお母さんとか。サブキャラまですごく楽しく読めるので、その辺もいいところだと思ってます。
すでにヒット作なのに「もっと売りたいっす」と担当が叫んだ作品
──「ババンババンバンバンパイア」も入っています。小口編集長は元担当、サイトウさんが現担当ですね。
別チャン サイトウ 私は今年秋田書店に入ったばかりで、「バババ」に関してはもともと読者として読んでいた立場ですが、改めてすごい作品だなと思っています。まずあの題材でギャグに持っていったのがすごいですよね。で、もう1つ、内容以上に画力のすごさが大きかったのかな、と。主人公の吸血鬼・蘭丸をはじめ、裸のシーンも多いし、本来はメディア化しづらい作品だと思うんです。
別チャン・RED 小口 もともと「童貞」を連呼してる作品だから、広告にもしづらかったでしょ(笑)。
別チャン サイトウ でも、あの圧倒的な画力でいやらしさをなくしている。デッサン力も高いですし、今でも原稿をいただくとすごくきれいだなって感動します。今年はメディア化っていうわかりやすいきっかけがありましたけど、それがなくてももともとメディア化に負けないだけの力のある作品だったんだなと改めて思いました。
──広告にしても、切り抜き甲斐がありそうな気もしますけどね。蘭丸が日焼け止め塗ってるだけでももう面白いんですもん。
別チャン サイトウ あの絵の力があるから、作品の魅力が読者にパッと伝わったんだと思います。奥嶋先生は時代ともすごく合っていると思います。SNSの使い方も上手ですし。
──結果、今年は一気にメディア化されました。
別チャン・RED 小口 1年でアニメ、映画、舞台までやったんだもんね。ありがたすぎますよ。
別チャン サイトウ 舞台よかったですよね。
別チャン・RED 小口 めちゃくちゃよかったね。
別チャン サイトウ 舞台ってメディア化においては映画やアニメに比べるとどうしてもメインストリームではない印象になってしまうんですけど、「バババ」の舞台は同じ原作、同じセリフで、これだけ面白くしてくれるんだっていう驚きがありました。
別チャン・RED 小口 奥嶋先生は来年1月からは「家庭教師の岸騎士です。」のドラマも始まるしね。あれもいい作品だよね。
別チャン サイトウ あれももっと広がると思います。
シーモア ひろ 「岸騎士」もめちゃめちゃカッコいいですもんね。やっぱり描き方とかも「バババ」に通じるものとかもあるのかなって感じます。だから、「バババ」の読者さんにも読んでいただきたいですし、それ以外の読者さんにもこのタイミングで届けばいいなと思っています。
別チャン サイトウ 内容的にすごい嫌な人が出てこない話なんで、平日の深夜とかに読んでほしいですね。前向きになれるように。
──週チャンの若い作品も入ってます。「きみは四葉のクローバー」。
週チャン ダーニャ 今日は担当がいないんですけど、大人気です。僕らもこの作品が売れてすごくうれしい。というのは、作者のこうし先生は前作が思うような結果が出なくて、次の作品の結果がとても大事だったんです。そういう中で出てきた今作は、1話目から読者の目を引くような強い展開で、その後も毎回次を読みたくなるような仕掛けを丁寧に作ってます。
週チャン K平 すごいですよね。本当に毎回引きが強い。キャッチフレーズみたいになっちゃいますけど、「次の話を読まずに死ねない!」みたいな気持ちになる。
週チャン ダーニャ そういう積み重ねが反響につながっていったんだと思います。それこそテレビ番組で紹介してくださった野田クリスタルさんはじめ、いろんな人に読んでいただいて、作品としてもすごく盛り上がっている。
週チャン K平 SNSでちょっと公開しただけでも、読みたくなる作りになってますもんね。あらゆるところに続きを読みたくなるポイントがある。しかも、割とダークなことをやっているとは思うんですけど、なんか読んでて自然とエネルギーが湧く不思議な作品なんですよね。
──大きな括りでは復讐系みたいな作品ですけど、読み味としてはあんまりしんどくならないですよね。復讐系って胃が重くなって来がちなんですけど。
週チャン K平 そうなんです。重くならず、復讐系・サスペンスものの緊張感はある、いいとこどりになってるのがすごい。それはやっぱりキャラクターとか話のコミカルさが生み出してるのかなと思います。作品としてうまいな、素敵だなと思います。
週チャン ダーニャ まだまだ伸びる作品だと思うので、この先が楽しみです。本当に突出した作品だと思うので。
別チャン・RED 小口 「四葉」の担当編集者とこの前サシで飲んでたんだよ。そしたらさ、「小口さん、俺、この作品もっと売りたいっす……!」って言うんだよ。
週チャン ダーニャ 熱い……!
別チャン・RED 小口 どうしたらいいかって言うから、「電子書店さんにもっと仕掛けてもらえばいいんじゃねえか」って話をしたんで、あの夜の彼の熱い思いを、ぜひよろしくお願いします!
シーモア ひろ その熱意をうちのチームにも伝えます!(笑)
「弱虫ペダル」はズルい
──「弱虫ペダル」も入ってます。連載20年も見えてきましたが、相変わらずの人気ですね。
別チャン サイトウ 今、めちゃくちゃ面白いですよね。今年の3年生は熱い!
週チャン K平 熱いっすよねえ!
週チャン ダーニャ 杉元がね……。
──杉元、まさかのでしたよね。
週チャン K平 僕、以前3年半くらい担当させていただいていたんですが、担当外れてから思うんですよ。「ペダル」はズルいっすよ! いつ読んでも面白いんですもん!
一同 (爆笑)
──でもわかります(笑)。僕も一瞬追うのが止まってしまった時期があるんですけど、そういうときにいきなり最新話読んでも面白いんですよね。
週チャン K平 そう。どの回から読んでも面白いんですよ。
ヤンチャン S.T 悔しくなるのもわかる(笑)。キャラが強すぎるもん。すべてのキャラが強すぎてとうてい真似できない。
別チャン サイトウ 僕、シーモア読者に一番刺さるのは荒北だと思ってます。
ヤンチャン S.T わかる……! でも、私は巻ちゃん派だから。
週チャン K平 どのキャラも本当に魅力的なんですよね。インターハイでも、全然距離進んでなくて、ほとんどキャラクターの会話だけで終わる回なんかもあるじゃないですか。でも面白い。
──「1巻で何メートル進んだかな?」って巻もありますもんね(笑)。なのに盛り上がるし満足感がすごい。
週チャン K平 先生自身も本当に自転車が好きで、仕事も含め完全にルーチンができあがってるんです。日曜日は必ずチーム練習だし、毎週必ず走ってる。打ち合わせが夕方くらいに終わって、その後どうされるのかなと思ったら、2階のトレーニングルームでペダルを漕ぎ始めるんです。本当にプロの選手と同じくらい走るんですよ。
別チャン・RED 小口 「ペダル」は別チャンの編集長として語らせてもらわなきゃいけない。「SPARE BIKE」(「弱虫ペダル SPARE BIKE」。主人公・小野田坂道らが1年生時代に3年生だったキャラクターたちのサイドストーリーを描くシリーズ)、今めちゃめちゃ面白いんですよ。巻島と東堂がまさかね、同じチームで……今ついにレースが始まりますから。そっちもぜひ読んでほしいです。
──「売れ残りの奴隷エルフを拾ったので、娘にすることにした」も入ってますね。
ヤンチャン S.T ほっこりだよね。この世のほっこりのなかでもかなり上位に入るほっこり。最初はかわいそうなんだけど、すぐにこの子は絶対幸せになれるって思いながら読めるようになる。
ヤンチャン かな ありがとうございます! 原作がカクヨム発のファンタジーなので、最初はなろう系っぽいイメージの単行本にしたんですが、内容的にはほっこりファンタジーですし、特に女性に響きそうな作品だと思っていたので、なろう系っぽい方向じゃなかったかなと。そんなことを思っていたところで、2巻ではすごくかわいいエモ寄りのカバーイラストを描いていただけて。もともと反応はよかったんですが、この2巻が出たころから特に反響が大きくなったと個人的には感じています。
──ただ、思いっきり女性向けって作品でもないですよね。男性が読んでも面白いというか、もう本当にリリィがかわいい(笑)。
ヤンチャン かな そうなんです! 女性だけに向けた作品とかでは全然なくて。ターゲットを考えてみたりするんですけど、一応女性向けメインとはしているものの、イクメンパパものともいえるし、リリィのかわいさは男性にも響くと思うので、男性にも読んでほしいとすごく思っています。なので、みんなに……みんなに読んでほしい……!
別チャン・RED 小口 人類にね。人類に読んでほしい作品。
ヤンチャン かな すごくテンポのいい作家さんなので、パパッと読めるんですよね。ギャグの入れ方もいいですし。何も考えずに読めるっていうのは悪い言い方かもしれないですけど、疲れているときに読んでホッとできるような作品なんですよね。
週チャン ダーニャ でも、何も考えずに読めるって大事なことですよね。板垣恵介先生を担当していたことがあるんですが、板垣先生はネームをいただくタイミングが割とまちまちなんです。それで、あるときめちゃくちゃお酒を飲んでしまっているタイミングでネームをいただいたことがあって、さすがにこの状態じゃ読めないと思って「今めっちゃ飲んじゃってて」とお伝えしたんです。そうしたら板垣先生が「何言ってんだ、マンガなんてどんなにへべれけで読んでも面白くないとダメだろう」っておっしゃって。それってけっこう本質だなって思ったんです。実際マンガって酔っ払ってても響いたりするので。そういうところまで照準を合わせてるのが「バキ」の立派なところなんだなと思いました。
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