セックスしながら敵を撃ち殺す「シューテム・アップ」
──ここまでは「マンガ」で議論をしていただきましたが、やはり「シネマこんぷれっくす!」は映画語りマンガということで、ここからは「映画」でも議論をしてもらいたく。取材にあたり、おふたりには「自己紹介代わりのオススメの映画」というお題で5作品を選んできてもらいました。
ビリー選「自己紹介代わりのオススメの映画」
- メメント
- あの夏、いちばん静かな海。
- 斬る(1968、 岡本喜八監督)
- ガタカ
- シックス・ストリング・サムライ
とよ田みのる選「自己紹介代わりのオススメの映画」
- ダークマン
- ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ
- イコライザー
- シューテム・アップ
- プレデター2
ビリー これ、悩んだんですが……。
とよ田 難しいよね、5本って。
──と言いつつ、おふたりとも即リストを送ってくれましたよね。
ビリー いやあ、もうちょっと揉もうと思ってたんですけど、とよ田先生からすぐ送られてきたので「ぐずぐずしてる暇はない……!」と(笑)。実はとよ田先生の5本って、私は「イコライザー」と「プレデター2」しか観たことなかったんです。
とよ田 あ、そうなんだ!
ビリー それで取材前に全部観てみたんですけど……「シューテム・アップ」はなぜ今まで知らずに生きてきたのかってくらい面白かったです!
とよ田 いいでしょう? この年、(クリストファー・)ノーランの「ダークナイト」が公開されて、「もう今年は『ダークナイト』が一番かな」なんて思ってたら、ゴツボ☆マサルさんとそのお兄さん(アニさん)が「俺は『シューテム・アップ』が一番だったよ!」って教えてくれて。彼らはものすごいB級映画好きで、ゴツボさんたちが言うならって観に行ったんです。で、観たら「『シューテム・アップ』一番だった!!!」って即自分のランキングが塗り変わった(笑)。
ビリー めちゃくちゃ面白かったです。
とよ田 「シューテム・アップ」ってタイトルは要するに「ドンパチ」って感じの意味らしいんですけど、もう本当にそれだけの映画なんだよね(笑)。主人公が道端で座って人参食べてたら、目の前で妊婦さんが悪漢に襲われてて、しょうがないから助けたら、どんどんギャングがやってきて、どんどん殺していくことになるっていう。
──その食べてた人参を武器として使うんですよね。ギャングの口に突き刺して頭を貫通させて殺したり、銃のトリガーに挟んで投げたり、アクションシーンが独特でした。
ビリー ダサいとかっこいいの狭間みたいな映画ですよね。ちょっとバタ臭いところもあるんですけど、スタイリッシュなところもあって。
とよ田 銃撃戦とか過剰で面白いんだよ。スカイダイビングしながら銃撃戦やってたり、彼女とのベッドシーンで暴漢が入ってきてセックスしながら撃ち殺したり。内容はなんにもないんだけどね(笑)。
俺が好きなの、地味なおっさんが活躍するやつばっか
とよ田 ちなみに、妻にこのリストを見せたら「なんか1人で戦うのばっかだね」って言われました(笑)。孤独なのが好きなんだな。
──主人公が地味なおじさんだと思っていたら、実はすごく強いっていう作品が多いですよね。
とよ田 言われてみれば。自分では全然気が付かなかったけれど、確かに地味なおっさんが主役のやつばっかりだ! 憧れというか、願望が出てるのかも。
ビリー 「ファイナル・ガールズ」以外、全部おじさんですね。
とよ田 この中で特にグッと来るおっさんは、「イコライザー」のデンゼル・ワシントンが演じてるロバート・マッコールですね。このおっさんが神経質な感じでね。ギャングのところに行って女の子の解放を要求する場面があって、ギャングがものすごい怖いこと言って脅してくるんですよ。でも、ロバート・マッコールはギャングの机が乱れてることのほうが気になってしまって、話の最中に整頓してるんですよ(笑)。全然ビビってないっていうか、完全に浮世からズレてる。「はぐれものだ、この人!」って感じ、好きなんですよ。
──とよ田先生はすごく趣味がわかるチョイスですね。
とよ田 今回は自己紹介でっていわれたのでこういう5本にしました。これが単に「オススメの5本」だったら、もうちょっと人が観やすそうなものを選んだと思うんです。でも、自己紹介となると「この作品を選ぶのはちょっと気取ってる気がする……!」とか思って何度も入れ替えました。これが20代のときだったら(フェデリコ・)フェリーニ監督の作品とか混ぜてましたよ、きっと。「映画わかってますけど?」って感じで(笑)。
ビリー あー、わかります。
とよ田 たとえば、「タイタニック」とか若い頃は鼻で笑ってたんですよ。公開されたとき20代の頭くらいで、人生の中で一番イキッてる年頃じゃないですか。「あんなもん」くらいの感じだった。でも、30歳過ぎて家で観たらボロボロ泣いちゃって(笑)。「俺、大人になったなあ」って目をこすって鼻すすりながら思いました。あの頃ようやく人間になったんだと思います。
ビリー 僕も20代くらいのときは「タイタニック」好きって言えなかったです。たいていバカにされるので。
とよ田 そうだよね。だから、もっとさらけ出して「僕、バカなんです」って教えてあげなきゃって今回の5本を選んだのに、思いのほかビリーさんのセレクトが偏差値高かったからビックリした(笑)。
「シックス・ストリング・サムライ」があって、助かった
──ビリー先生のセレクトは全体的に名作揃いですよね。
ビリー いや、でも僕もこれ迷ったんです! マニアックなやつを挙げたい気持ちと「映画の対談で全然名作に触れなくていいのかな?」って気持ちがぶつかって、それでバランスを取った結果がコレです。
とよ田 リスト見て「しまったー! 俺ももっと知能の高い映画入れておけばよかったー!」って思ってたら、最後に「シックス・ストリング・サムライ」があってうれしかった(笑)。
ビリー これはもう上4作品がカッコつけすぎだと思ったから、ひとつ知能の低い映画を入れないとって思って(笑)。
とよ田 実際すごい助かった。ホッとしたよ。これは一種の踏み絵なんです(笑)。(リストの中でこの作品だけ異質なことが)わかる人はわかる。
ビリー まず、この映画ではアメリカの王様はエルヴィス・プレスリーなんですね。そのプレスリーが死んで、「次の王様を決めるから腕利きのロックンローラーはロスト・ベガスにやってこい」というお触れを全土に出すわけです。
とよ田 もうこの説明の時点でどういう映画なのかわかるよね(笑)。
ビリー 凄腕のロックンローラーは、ギターテクのほかに武術も得意でないといけない。で、刀とギターを背負った主人公がロスト・ベガスを目指すんです。わかりやすく言えば「マッドマックス」と「子連れ狼」を足して2で割ったみたいな感じですね。
──ほとんど何言ってるのかわかりませんでしたが、だいたいわかりました。
とよ田 でも、あのボンクラな世界観にすごい愛があるんです。いいよねぇ。
ビリー シュールでツッコミがいなくて、特に世界観についても説明はなく、ぬるい空気の中を淡々と進行していくんですけど、そこがいいんですよね。とよ田先生の5本を見て、きっと知っているだろうと思って選びました。
とよ田 うれしい。忖度があったんですね(笑)。
ビリー 実際「シックス・ストリング・サムライ」以外の4本も好きなんですけど、「これだけだとなめられる」と思って(笑)。「なんだ、こんな名作しか観てないんじゃお話になりませんよ」ってなったら、困るじゃないですか!
とよ田 好きな映画って本当に自己紹介ですよね。丸裸になっちゃう。
「メメント」内の出来事を時系列順に並べて、ホームページで公開してた
──せっかくなので、「シックス・ストリング・サムライ」以外でビリーさんが挙げた作品についても少しお話を。
ビリー 本当に有名作ばかりなので説明不要という人も多そうですが……。
──たとえば数ある北野武監督作品の中から「あの夏、いちばん静かな海。」を選んだのはなぜなんでしょう?
とよ田 一番穏やかな映画ですよね、北野監督作品で。
ビリー 北野映画で一番わかりやすいエンタメになってると思うんです。ほかの作品ってけっこう北野監督の独特なリズムで作られた作品が多いじゃないですか。オチもカタルシスがあるというより、スッと終わったりとか。これはラスト数分にすべてのカタルシスが開放されるような構成になっているんです。構成がすごくしっかりしている。あと、個人的に泣ける映画が好きなんですよね。
とよ田 確かに、切ない感じの作品が多いよね。「ガタカ」とか、赤ん坊の遺伝子操作が一般的になった時代なのに自然に生まれて、そのせいで体が弱いっていう主人公の出自からして喪失感がある。「メメント」もちょっと悲しい作品だし。
ビリー 「メメント」は内容というより構成がビックリで。
とよ田 構成面白いよね。何がどうなっているのかを理解したくて、当時自分がやってたホームページで映画内の出来事を時系列順に並べて考察とかしましたよ。
ビリー 10分間しか記憶が残らなくなってしまった男が主人公で、視聴者も現在のことがどうしてそうなったのかわからない。過去に向かってどんどん出来事を遡って観ていくという構成になっているから、記憶のない主人公と同じ視点でドラマが楽しめるんです。そういう映画ってなかなかないですよね。
とよ田 あのアイデアはフレッシュで面白かったよね。映画の魅力のひとつに伏線を拾えたときの快感ってあるでしょう? アレの連続なんだよね。
ビリー ラストも決してハッピーエンドじゃないけど、だからこそ記憶に残る。
──今回のチョイスの中でダントツで古いのは「斬る」ですね。
ビリー 天才・岡本喜八の一番面白い作品だと思います。お家騒動を舞台にした時代劇なんですけど、「本当に1968年の映画なの?」ってくらいテンポがよくて、キャラクターも全然当時の雰囲気じゃないんですよ。主人公の仲代達矢の飄々とした感じとか。
とよ田 仲代達矢のキャラ、よかったね! あの時代にそぐわぬ軽やかさ。
ビリー 黒澤明の全盛期というくらいの時代なのに、すごく現代的ですよね。観てても飽きないし、白黒の古い映画を観ている感覚にまったくならない。
とよ田 西部劇っぽい雰囲気があるんだよね。
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映画大好きな少年・熱川鰐人は、高校デビューで映画に出てくるような熱い青春を送ることを決意する。……のだが、学園一の変人が集まる映研(通称:死ね部)のトラップに引っ掛かり、映研に入部させられてしまう。
残念美人な映研の先輩たちにより繰り広げられる字幕派吹替派論争やB級映画議論など、映画議論に巻き込まれてドタバタな学園生活を送る羽目になるのであった……。
- とよ田みのる「金剛寺さんは面倒臭い①」
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このヒロインには、付け入る隙などない!
口を開けば正論!正論!正論!
金剛寺さんはいつも正しい!
おまけに学業優秀&柔道の名手!
隙などまったくない彼女に、
樺山くんは…よりによって恋をした!
彼の運命やいかに!?
ちなみに本編とは大きく関わりのないことだがッ!!
この世界は地獄と繋がっているッ!!
「ラブロマ」「友達100人できるかな」「タケヲちゃん物怪録」のとよ田みのるが贈るロジカルピュアラブストーリー!!
- ビリー
- 北海道出身。2015年に読み切り「桜とつぼみは放課後ひらく!」で商業デビュー。2017年より「シネマこんぷれっくす!」を月刊ドラゴンエイジ(KADOKAWA)で連載中。
- とよ田みのる(トヨダミノル)
- 1971年10月7日東京都大島生まれ。本名は豊田実(読み同じ)。2000年「レオニズ」で月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞(夏)にて佳作を受賞。2002年に高校生同士の恋愛を描いた「ラブロマ」を同賞に投稿、四季大賞を受賞しデビューする。翌年、同作は連載化。そのほかの代表作に「FLIP-FLAP」「友達100人できるかな」「タケヲちゃん物怪録」、子育てエッセイ「最近の赤さん」など。ゲッサン(小学館)にて「金剛寺さんは面倒臭い」を連載中。