コミックナタリー PowerPush - ボーイズ・オン・ザ・ラン

花沢健吾も出演!作者お墨付きのドラマ版は全10巻をフル再現

花沢健吾原作によるTVドラマ「ボーイズ・オン・ザ・ラン」のDVDとBlu-rayのBOXが発売された。ヘタレな主人公・田西を演じたのはなんと、関ジャニ∞の丸山隆平。丸山は田西の情けなくもひたむきな姿を、体を張った演技で見事表現してみせた。

このソフトの発売に合わせ、コミックナタリーは原作者の花沢を直撃。「僕なんかの作品がドラマ化なんて」と、どこか田西を彷彿させる謙遜ぶりで始まった花沢のインタビューから、作品の魅力を紐解いていく。

取材・文/井上潤哉 撮影/笹森健一

僕ごときのマンガにここまで頑張ってくれたんだ、という……

花沢健吾

──「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は2010年に峯田和伸さん主演で映画化されており、今回のドラマは2度目の実写化です。映画版は原作の前半にあたる、青山との決闘まででしたが、ドラマは原作全10巻分のエピソードを描き切りましたね。

全9話のドラマだと聞いていたので、10巻分をその話数で描くのは、さすがにまとまらないんじゃないのかなって僕も思ってたんですよ。だけど1話ごとのテンポがスピーディーで、なのに無理のない展開が成立していて、スゴイなと思いました。あれはマンガで言うと、少年誌のスピード感ですね。1話ごとにちゃんと山場があって、起承転結で毎回見せていくっていう。勉強させていただきました(笑)。僕はわりとゆっくり進めるタイプなので。

──ドラマでは、10巻分のエピソードのほとんどを拾い上げて映像化しています。ただならぬ原作愛を感じました。

9巻97話より。どうせ空回りするなら、と開き直り意を決する田西。

僕もそれは終始、ひしひしと感じましたね。作ってる方たちがとてもこだわってくださって。すごくギリギリまで粘ってくれて、やむを得ず原作から変えた部分は「申し訳ない」ってとても恐縮してくださったのが印象的でした。僕ごときのマンガにここまで考えてくれたんだ、という……。感動しましたね。

──花沢さんは脚本を監修されたりするんですか?

いや、僕は全編通してほとんど口出ししてないです。終わった作品については放任主義なんで、何をされてもいいというか(笑)。僕は、作品が違うメディアになったらなったなりの表現方法で、どんどん変えていいという考えなんですね。ていうか、変えないと意味がないだろうと思うんですよ。なので基本的には、僕がとやかく言うべきじゃないなというスタンスでした。

ジャニーズの人がなんでわざわざ「こっち側」に来るんだろう、と

──最初にTVドラマ化の話を聞いた時どう思いました?

いやーもう、僕の作品ごときでドラマ化なんて、申し訳ないやら照れくさいやら。

──ドラマ化企画の話は、いつ頃から動いていたんでしょう。

放送の何カ月か前に結構急に決まったので、これはきっと何かがポシャって僕の作品に白羽の矢が立ったんだろうとしか思えなかったですね。実際はそうじゃなかったらしいんですけど。しかも主演がジャニーズの方だと聞いた時は、何かの陰謀かと思いました(笑)。不可解ですよね。なんで僕なんかのを選んじゃったんだろうって。

──何せ丸山さんが演じる田西という役は、27歳で彼女ナシ、極度のヘタレで緊張すると腹を下すような冴えないダメ男です。田西にとってはジャニーズって、イメージだけで言えば対極に居るような人たちですからね。

1巻第3話より。営業スマイルに失敗する田西。

丸山さんがなぜわざわざ「こっち側」に来るんだろうって、申し訳なくて。ジャニーズさんがやるべきことなのかっていうような下ネタや情けないシーンのオンパレードですからね。果たして丸山さんに出演したメリットはあったのかなあ? 彼のプロフィールに載らないんじゃないですか? このドラマ。大丈夫かな(笑)。

──原作を知る人の中には、ジャニーズのタレントさんが主演と聞いただけで食わず嫌いしてしまった人は少なくないかも知れません。

もしそういう人がいたとしたら、観ると裏切られると思いますよ。丸山さんはかなり体を張ってくださっていて、原作の田西と遜色ないダメ男ぶりを、愛嬌を交えて見事に演じ切ってくれています。

このメンツなら、もっと他にいい原作があったんじゃないかな……

──主演の丸山さん以外のキャストも、ヒロインの花役の平愛梨さん、田西を振り回すちはる役の南明奈さん、田西にボクシングを指導する鈴木さん役の陣内孝則さん、田西と花が対決することになる龍役の上田竜也さんなど、豪華な顔ぶれが揃っていましたね。

ありがたいですし、申し訳ないですね。これだけのメンバーが集まれば、もっと他のいい原作があったんじゃないかなー。

──いやいや、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」のためのキャストですから(笑)。中でも驚いたのは田西のライバル・青山役の斎藤工さん。青山はイケメンのエリートで挫折知らず、かつカポエイラの使い手というケンカが強いキャラですが、斎藤さんは実際にカポエイラ経験者だったという。

5巻46話より。青山のカポエイラに手も足も出ない田西。

びっくりしましたね。カポエイラやってる人ってなかなかいないと思うんですけど。

──青山のそれらの要素をすべて演じることができて、さらに実力と人気も備えた俳優は斎藤さんだけでしょう。

おかげで映像的に、すごく格好いいものに出来上がっています。青山が砂場でカポエイラを使うシーンがあるのですが、動きとしては結構難しいはずなんですけど、見事に演じてくれていました。

──田西が思いを寄せる女性2人はいかがでしたか。

ちはるの配役は意外でしたね。CMなどで見る、はつらつとしたアッキーナのイメージしかなかったので。でもドラマでは、小悪魔的なちはるの怖さを上手く演じてらして、見入りました。平さんに関しては、まずビジュアルがマッチしていましたね。ただ花のキャラクターは僕が描いた原作では、ちはると比べると作りこみが甘かった部分があったので、どう表現してくれるのか楽しみながら拝見していました。

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」DVD / Blu-ray 2012年12月19日発売 / ポニーキャニオン

あらすじ

弱小玩具メーカーに勤める、27年間、一度もカノジョと付き合ったことがないダメ男・田西敏行(たにし・としゆき)。
仕事も恋も何ひとつうまくいかないダメ男が、あこがれの後輩・ちはるに恋をし、その思いを成就させようと奮闘する。“草食系男子”といった恋愛に対してネガティブな男子が増える昨今、そことは一線を画す、恋愛にまっしぐらな“ゴリゴリ男子”が、世間のダメ男たちに贈る、リアル青春ラブコメディ。

花沢健吾(はなざわけんご)

花沢健吾

1974年青森県生まれ。アシスタントを経て、2004年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載された「ルサンチマン」でデビュー。2005年から2008年にかけて同誌で連載していた、妄想ばかりのダメ男に訪れた恋を描いた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、素人童貞の男性を主人公としていることから、非モテ男性ファンからの熱い支持を獲得。2010年に映画化、2012年にTVドラマ化された。現在は週刊ビッグコミックスピリッツで「アイアムアヒーロー」連載中。