コミックナタリー PowerPush - ボーイズ・オン・ザ・ラン

花沢健吾も出演!作者お墨付きのドラマ版は全10巻をフル再現

ちはるは結構、個人的な憎しみも込めて描いていたので

──作りこみの甘さというのはどういった部分にあったのか、具体的にお伺いできますか?

比べるとってことなんですが、ヒロインは花なんですけど、ちはるのほうがリアリティのあるキャラにできあがっちゃったんで。花は妄想で作ってるキャラなので、その分差が出ちゃったかなと。

8巻84話より。田西が以前思いを寄せていた、ちはる。

──悪女に変貌を遂げていくちはるには、モデルがいるんですね。

そうですね、結構、個人的な憎しみも込めて描いていたので。

──(笑)。そのモデルの女性に、田西のような思いをさせられたということですか。花沢さんが。

「あれ、僕のこと好きなのかしら?」って勘違いさせられてしまうような女性が、かつて、割と身近なところにいたんですよ。向こうは全然そんな気ないはずなんですけど、こっちは熱が入っちゃって。好きになっちゃったりとかして。

──そういった悔しさや憎らしさみたいなものが、マンガを描く上での原動力ですか?

それはやっぱりあります。むしろそれがいちばんかもしれないですね。かわいいとか綺麗だけで人物を描いてても、思いが乗っかってこないんですよ。そういう「こんちきしょう」って感じで描いたキャラほど、生き生きと動きますね。

──先ほどおっしゃっていた、リアリティを持つわけですね。

驚いたのが、そのちはるのモデルにした女性が、あとで「花沢さん、私のことストーカーしてたんですか?」って言ってきたんです。一応言っておきますが僕、憎みはしたけど、ストーキングはしてないですよ(笑)。ところが妄想を膨らませてちはるを描いていたら、その人の現実の行動とシンクロしちゃったみたいで「なんで私がこれこれをしたって知ってるんですか」って問い詰められた。

──まさにキャラに命が吹き込まれて動いていたわけですね。現実の人物と同じ。

おかげでだいぶ気持ち悪がられてしまいました。

撮影したときは「もうこっち(演技)の道に行ってもいいかな」とか

ドラマ第9話より。ボクシングジムの練習生としてカメオ出演した花沢健吾。

──そんな花沢先生も最終回に出演されていますね。放送前にはコミックナタリーでも記事にさせていただきました

田西が通うボクシングジムの練習生役ですね。1人だけ太ってて、どう見ても体型がボクサーじゃないんですけど。

──脇役なのに明らかにフィーチャーされてて、おかしかったです。未見の人もすぐに気付けますね。

首を怪我してるという設定なんですけど、一応それには意味があって、復帰したばかりだから太ってるという(笑)。まあ、僕にでもかろうじて出来る範囲の端役です。はじめは、しほ役の佐藤江梨子さんと絡む役を用意されてたんですよ? それはあまりに緊張しちゃうんで、絶対に無理ですと辞退しまして。

──ちなみにその役は、具体的にはどんな人物だったんですか?

ほんこんさんが演じていた、しほの元彼役です。ドラマオリジナルのおまけキャラなんですが、あれを奨められてしまって。台詞もしっかりありましたし、いくらなんでも無理なので、練習生ぐらいならなんとか、と。

──カメオ出演でも難しいものですか、演技は。

映画版の「ボーイズ・オン・ザ・ラン」でも、実は結婚式のシーンにエキストラとして出させてもらってるんですけど、その時にもう懲りました。ほんとバカみたいな話なんですけど、撮影したときは「もうこっち(演技)の道に行ってもいいかな」とか思ってたくらい手応えを感じていたんですよ(笑)。

──俳優で食っていけるんじゃないか、みたいな(笑)。

ところが完成した映像を観てみたらもう、嘘だろって思うぐらい下手だったんです。遠目にただ着席して拍手してるだけの役なんですよ? たったそれだけなのにわざとらしさが画面からにじみ出てて……。あんなにできないものだとは思わなかったんで、もう俳優業はやめようとしばらく封印していました。

──久々の俳優業解禁、振り返っていかがですか。

やっぱりダメでしたね。役に入りきれなかった。台本の読み込みが甘かったのかな……。

──名前も台詞もない端役でしたが……。

首を痛めたことなかったんで……。

「もうちょっと等身大のマンガ描こうよ」って言われたことがきっかけ

──いまさらの質問になってしまいますが、そもそも「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を描き始めたのは、どういうきっかけがあったのでしょうか。というのも世間で言われてるのは、前作が……。

花沢健吾

ああ、その前に描いていた「ルサンチマン」がすぐ打ち切りになっちゃった話ですね。ええ。それで「もうちょっと等身大のマンガ描こうよ」って言われたことがきっかけですかね。身も蓋もないような話ですみません。

──ストーリーは最初から見通しが立っていたのですか?

いや、まったく。先のことはまったく考えていませんでした。前が見えない手探り状態の中で描いてましたね。連載を始めた当初は、青山編というか、田西が長野に帰るちはると別れるぐらいまではある程度できあがってたんですけど、それ以降は本当に白紙の状態で、曲がりくねって進んで行ったらあのラストにたどり着いたっていう感じです。ゴールとか、何も見えてなかったんです。

──結果的に連載終了から4年が経過し、今こうしてTVドラマ化まで果たすというのは、感慨深いものがあるのではないでしょうか。

いやー、もう照れくさいばっかりですね。僕、自分で自分の作品を見返すのはどうしても恥ずかしくなっちゃうので。でもこのドラマをきっかけに、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」という作品を楽しんでくれる方がいればうれしいです。ドラマを観て、ついでに単行本も買ってくれたら言うことないですね(笑)。

花沢健吾 最新刊

  • 「アイアムアヒーロー」10 / 2012年10月30日発売 620円(税込)/ 小学館
  • 「ルサンチマン新装版」上 / 2012年10月30日発売 940円(税込)/ 小学館
  • 「ルサンチマン新装版」下 / 2012年11月30日発売 940円(税込)/ 小学館
  • 「特火点 花沢健吾短篇集」2012年11月30日発売 720円(税込)/ 小学館

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」DVD / Blu-ray 2012年12月19日発売 / ポニーキャニオン

あらすじ

弱小玩具メーカーに勤める、27年間、一度もカノジョと付き合ったことがないダメ男・田西敏行(たにし・としゆき)。
仕事も恋も何ひとつうまくいかないダメ男が、あこがれの後輩・ちはるに恋をし、その思いを成就させようと奮闘する。“草食系男子”といった恋愛に対してネガティブな男子が増える昨今、そことは一線を画す、恋愛にまっしぐらな“ゴリゴリ男子”が、世間のダメ男たちに贈る、リアル青春ラブコメディ。

花沢健吾(はなざわけんご)

花沢健吾

1974年青森県生まれ。アシスタントを経て、2004年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載された「ルサンチマン」でデビュー。2005年から2008年にかけて同誌で連載していた、妄想ばかりのダメ男に訪れた恋を描いた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、素人童貞の男性を主人公としていることから、非モテ男性ファンからの熱い支持を獲得。2010年に映画化、2012年にTVドラマ化された。現在は週刊ビッグコミックスピリッツで「アイアムアヒーロー」連載中。