内田怜央(Kroi)×花沢健吾、「アンダーニンジャ」で出会った2人がリスペクトを込めて語り合う

現代の日本で秘密裏に生きる“忍者”たちを描く、花沢健吾の最新作「アンダーニンジャ」。2018年よりヤングマガジン(講談社)にて連載中の同作はTVアニメ化を果たし、10月よりTBS、BS11ほかにて放送中だ。コミックナタリーではTVアニメのオープニングテーマ「Hyper」を担当するKroiの内田怜央(Vo)と、原作の花沢による対談をセッティング。「アンダーニンジャ」の独特な世界観を楽曲に落とし込んだ「Hyper」には、どんな思いが込められているのか、またその楽曲を花沢はどう捉えたのか。ともに「常識をぶっ壊したい」「“無駄”なものにリアルを感じる」と語る共通点の多い2人の対談をお見逃しなく。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 小川遼

「アンダーニンジャ」は生き物のような作品

内田怜央(Kroi) 僕は「アンダーニンジャ」を読ませていただいて、生き物みたいな作品だなとすごく感じたんですよ。

花沢健吾 生き物ですか。

内田 どこまでシリアスでどこからギャグなのかがわかりづらいというか、明確に分けられていないですよね。そのシームレスな表現に人間味を感じるというか……自分が曲作りをするときにも、リアルさや生々しさみたいなものはけっこう意識しているんですよ。例えば、リリックの中に“無駄”なものを入れるとすごくリアルに感じられると思ってるんですけど、逆に必要なものだけを見せていると作り物感が出てしまうみたいな。だから「アンダーニンジャ」のような生き物っぽい作品にはすごく憧れがあるんです。

花沢 今、内田さんのおっしゃった“無駄”というのは、僕も特に重要視しているものですね。普通に物語を見せるうえでは必要のない描写を何か差し込みたい、という思いは常にあります。ちょっとしたことでいいんですけど、そういうノイズのようなものを積極的に入れていくことで世界に実存感が生まれて、キャラクターもどんどん動いてくれるようになる。今回のマンガに関しては特にそっちを深く追求しようと思って描いてきたので、その結果2巻くらいまで主人公が外にすら出ないことになっちゃったんですけど。

左から内田怜央、花沢健吾。

左から内田怜央、花沢健吾。

内田 うははは(笑)。

花沢 そんなふうに“無駄”なシーンの多いマンガなので、それをアニメにするのはけっこう難しいんじゃないかと思ってたんですよね。最初にアニメ化のお話をいただいた段階では正直心配もあったんですけど、フタを開けてみたら見事なクオリティに落とし込んでくれていたんで、ありがたいなと。今は本当に大絶賛の気持ちで、いち視聴者として楽しませてもらっています。

内田 僕ももちろん観させてもらっていますけど、本当にすごいクオリティで。原作の持っている不穏な雰囲気をアニメでどう表現するんだろうと思ってたんですが、違う時間軸をカットインさせたりとか、いろいろな工夫を重ねることでアニメもすごく素敵な作品になっているなあと感じますね。素晴らしいオープニング映像も作ってくださって……。

花沢 いやあ、そうなんですよねえ。あのオープニングのおかげで、作品をさらにワンアップさせてもらっている感じがします。

内田 オープニングテーマを作らせてもらった立場からすると、上がってきた映像を観たときは「めちゃくちゃカッコよくしてくれたなあ……」と。楽曲とのバランスを取りながら、より作品になじむ見せ方をしていただいていて。

花沢 そのオープニングももちろんなんですが、アニメ全般に言えることとしては背景の質感が抜群によくて。

内田 はいはいはい、わかります!

花沢 あの空気感の出し方は正直自分でもイメージしていなかったので、「超えてきたなあ」と思いましたね。

自分から離れすぎたものは描けない

花沢 今回、アニメを作る方々というのは本当に大変な作業をされているんだなと思い知りました。マンガのときはぬるい感じで描いたものであっても、全部設定を作り込まないとアニメにしたときに動かせないらしくて……例えばドローン手裏剣だったら、マンガではオモテ面しか描いてないけどウラはどうなっているのかとか、設計的にどういう動きをするものなのかとか。その設定の確認が制作サイドから毎週毎週来るんで、それがけっこう大変でもありました(笑)。僕が適当に描いていたものを……。

TVアニメ「アンダーニンジャ」キービジュアル。

TVアニメ「アンダーニンジャ」キービジュアル。

内田 適当に(笑)。

花沢 細かいところまでしっかり理論的に詰めたうえでアニメにしていただいているんで。ありがたいですし、尊敬しますね。

内田 僕が特に印象に残っているのが、コンビニでの戦闘シーンなんですよ。原作で読んだときも喰らいましたし、好きなシーンだったのでアニメでも早く観たいなとずっと思ってて。日常的な、よく見慣れたコンビニ店内という風景の中に“姿を消した忍者と刀を持ったおばちゃん”っていう、まったく見慣れない要素が紛れ込むじゃないですか。あのシーンはやっぱり、アニメでもめちゃめちゃいいなと思いました。あんなシチュエーションをよく思いつきますよね。

花沢 やっぱり自分の半径3メートル以内というか……あり得ない状況を描くにしても、自分から離れすぎたものは描けないんですよ。あまりにも離れすぎるとどんどんキャラクターも動かなくなっていって、結果的に物語も転がっていかなくなる。そうなっちゃうと描くのがどんどんつらくなっていくので、意識的に自分のほうに寄せていくようにしていますね。で、僕はもちろん日常的にコンビニを利用するんで、ああいうシーンは無理なく思い浮かぶんだと思います。

内田 すごくわかります。僕がリリックを作るときも、内容的にはどれだけフィクションであっても自分が本当に感じていることの範囲内でしか書けないし言えないというのはあって。僕は(楽曲の中で)ラップをけっこうするんですけど、ラップという表現方法自体がそもそも一人称で歌うものなんですよね。ヒップホップの文化的に「俺はこう思うぜ」みたいな。

内田怜央

内田怜央

花沢 なるほど。

内田 自分の中にないもので書いちゃうと、例えば2番を作るときに困るんですよ(笑)。ちゃんと自分から出たものであれば最後まで統一感を持たせて書ききれるんですけど、そうでない場合だと、1番まではどうにか書けたとしても「2番以降、これどうすんの?」と途方に暮れて何も進まない、みたいなことがけっこうあるので。

花沢 素朴な疑問なんですけど、2番って絶対に作らないといけないものなんですか?

内田 特にそういう決まりがあるわけではないんですけど(笑)。まあでもだいたい、楽曲の聴きごたえとかを考えると尺的にも2番以降が必要になるケースは多いですね。繰り返しも音楽の醍醐味だったりしますし。

花沢 なるほどねえ……それはマンガ家にはあまり縁のない悩みですね。我々の場合、“2番”を作るような作業はまず発生しないので(笑)。

花沢健吾

花沢健吾

内田 確かに、マンガに繰り返しは普通ないですね(笑)。特に「アンダーニンジャ」の場合は、1話目からずっとサプライズがあり続ける作品ですし。

花沢 アニメもこのあとえらいことになっていくんで、若干心配は心配なんですよね。あんな終わらせ方で、怒られるんじゃないかと(笑)。

内田 うははは(笑)。

花沢 この記事が掲載されるのはアニメ放送の終盤頃だと聞いているので、ネタバレになっちゃうとまずいんですけど……まあとにかく視聴者の方の予想を、いいか悪いかはさておき裏切れるとは思うので(笑)。それを楽しみに最後まで乗っかっていただけたらありがたいですね。

ここでもう勝ったじゃないですか

内田 今回、僕らKroiがオープニングテーマの「Hyper」を作らせていただきましたけど、アニメのタイアップはこれが初めてで……。

花沢 あ、そうだったんですか。

内田 そうなんですよ。だからまず「我々にアニメの曲が作れるのか?」っていう若干の不安もありつつだったんですけど。ただ、原作を読ませていただいて「自分に書けそうなものがあるな」というふうにイメージはすぐバーッと湧いてきました。普段の曲作りでは、まず楽曲の世界観を作るところから始めるんですけど、今回の場合はすでに強力な世界観が確立されている状態からスタートできたんで、そういう意味では後ろ盾のある安心感みたいなものもめちゃめちゃありましたね。

内田怜央

内田怜央

花沢 そういうものですか。なるほど。

内田 それこそイントロのヘヴィなロックテイストのパートなんかは、この作品のために作ったからこそ出てきたものなんですよ。アニメのオープニングだからやっぱり一発目からドーンと行きたい気持ちが自分的にあって、なおかつ原作を読んで感じた不穏な空気感を表現できる音とはどんなものだろう?と考えたときに、グランジロックがパッと思いついて。グランジロックというのはNirvanaなどのバンドに代表される音楽ジャンルなんですけど、最近「THE BATMAN-ザ・バットマン-」って映画でNirvanaの「Something In The Way」という曲が使われていたんですね。それを観て、映像作品とグランジはすごく相性がいいんじゃないかという発想からあのド頭のパートができたんです。まあ、その後は自分たちの好きなファンク路線に展開して、二度と戻ってこないんですけど(笑)。

花沢 ああ、確かに言われてみればそうですね。「『Hyper』といえばあの冒頭部分」というくらいの強い印象がありますけど、1回しか出てこないんだ(笑)。

内田 そうなんですよ。実はあれイントロだけなんです。

花沢 インパクトって、残るもんなんですね。あの曲、僕は最初にデモの段階で聴かせていただいたんですけど、ガッツポーズが出ましたから。

内田 おおー、うれしい。

花沢 「これ、来たな」という。その後で改めて映像込みのデータをいただいて観たときには、もう映像と音楽がドンピシャすぎてゾワゾワしましたね。なかなかないレベルの化学反応を起こしてくれているなと。あのオープニングだけでその日の放送を終わらせてくれてもいい、くらいに思いました(笑)。「ここでもう勝ったじゃないですか」という感じで。

花沢健吾

花沢健吾

内田 うははは(笑)。うれしいなあ……やっぱり我々も小さい頃からアニメを観ていて、好きなオープニング曲とかもめちゃめちゃあったので、いつかアニメの曲を絶対やりたい気持ちはあったんですよね。その最初がこの作品でよかったなとすごく思ってます。