“作家に賭ける”“余所では読めない”がビーム魂
岩井 僕は秋田書店時代の同期、週刊少年チャンピオンの前編集長・沢考史の紹介で本気さんと知り合ったんです。
本気 沢さんとは、チャンピオンREDが創刊して間もない頃に「手伝ってほしい」と言われたのが最初でしたね。REDでは麻宮さんの「JUNK -RECORD OF THE LAST HERO-」、清水栄一さん・下口智裕さんの「鉄のラインバレル」などを立ち上げました。
岩井 ビーム関連ですと、本気さんに紹介してもらった作家のひとりに朝倉世界一さんがいます。「フラン県こわい城」の単行本企画をいただいたことがきっかけで、ぜひ朝倉さんに連載をしてもらいたいなと思いまして。僕が担当をさせていただいてもいいですかと交渉して、そこから「デボネア・ドライブ」につながっていったんです。
──先ほど、「ビーム100の編集を外部に頼もうと考えたときに、本気鈴さんがパッと思い浮かんだ」とおっしゃっていたのは、そうした過去のお仕事から信頼関係が生まれていたからだと。
岩井 そうですね。信頼のおける編集者さんだし、コミックビームもずっと読んでくださっているから、我々のやり方も理解してくださっている。それならもう、本気さんに編集長として、すべてを任せてしまおうかなと。「ビームの増刊です」ということをきちんと伝えれば、本気さんなりのビームを作ってくださるだろうという確信があったんです。
本気 私は今回のお話をいただいたとき、率直に「自分にはコミックビームのような作品は作れない」って思いました。でも、奥村さんや岩井さんがおっしゃる「雑誌にはなんでもあっていい、面白ければなんでもいい」というスピリットには共感していましたし、せっかくの機会でしたから、「私なりに面白い雑誌を作ろう」と気持ちを切り替えました。もちろん、編集長ができるというのもうれしかったですよ。やっぱりイチオシの作品が連載会議を通らなかったりすると、「なんでこの作品の面白さがわからないんだ!」という本音がどこかにあるわけですよ。それらを全部、自分の判断で載せられたら楽しいだろうなって。編集者なら一度は思うことじゃないでしょうか。
──いま、最初は「コミックビームのような作品は作れない」と思ったとありましたが、本気さんはいわゆる“ビームらしさ”をどう捉えていらっしゃったんでしょう。
本気 難しいですけど……。カッコいい言い方をすれば、「作家さんの持ち味を100%以上引き出す」でしょうか。それに、他では読めないような作品が載っている印象があります。すごく面白いマンガだけど、どの雑誌に載せたらフィットするのかわからない作品ってあるんです。それがビームには載せられるし、ビームならアリだと思わせるパワーがある。その許容範囲の大きさがすごい、うらやましい、と思っていたので、ビーム100もそうなればうれしいですね。
岩井 そう感じていただいているのは、奥村が作家に賭ける……作家主義的な人間だったからかもしれないですね。こういう作品が売れるとか、雑誌のカラーに合わせて作品を描いてもらうんじゃなく、その作家が面白いものを描くと信じて、好きなことを思い切りやらせる。……ちょうど、いましろたかしさんと狩撫麻礼さんの「ハード・コア」の映画化が先日発表されましたよね(参照:「ハード・コア」山田孝之主演&プロデュースで映画化!共演は佐藤健、荒川良々)。これ、グランドチャンピオンで奥村が担当していた作品なんですが、連載されていた当時は単行本が1巻しか出なかったんです。どういうことかと言うと、1巻があまりにも売れなかったから、続きが出せなかった。それでも奥村は最後まで連載を続けさせたし、10数年後ビームに来たときに、上下巻の単行本として出し直したんです。
──このマンガは絶対に面白い。今は売れてないけれど、読者に届けなければいけない、というようなお気持ちだったんでしょうか。
岩井 そうだと思います。でも、それも決して売れたとは言えない。ですが、山下敦弘監督や山田孝之さんが、それを手に取って、熱狂的に読んでくださっていた。この素晴らしい作品をいつか映画にするんだと感じていてくださったから、20数年経ってこういう話になっているわけです。それってやっぱり、作家に賭けたからだと思うんですよね。
本気 いいお話ですね。私、週刊少年チャンピオンで初めて連載を担当したマンガが、猪原賽さんと横島一さんの「悪徒-ACT-」ってマンガなんですよ。それも1巻がさっぱり売れなくて、カルト的な人気はあったにもかかわらず、最終巻を出せずに終わってしまったんですね。でも後日、KADOKAWAのコミッククリアさんからご連絡いただいて、「面白いから本にしましょう」と上下巻で出していただいたんです。今の話を聞くと勇気が出ますよね。だって、「悪徒」も25年後に映画化されるかもしれないし!(笑)
本気鈴は、フリーのマンガ編集者という構造を作った人
──編集長をやることになってから、創刊号のラインナップはどう決めていかれたんでしょうか。
本気 すでにネームができていて、どこに持ち込もうか考えている状態の作品が何本かあったんですよ。それをひとつは入れたいと思ってましたね。どこに持ち込むでもなく、依頼されてるわけでもなく、マンガを作るっていうのはよくあるんですけど……。
岩井 ちょっと待ってください(笑)。今さらっと言いましたけど、どこに載せるかわからないマンガの打ち合わせをすることなんて、普通のマンガ編集者はまずしないですよ。
本気 え? 割としょっちゅうですよ。
岩井 いや、作家側だって普通はしないですよ。だって、原稿料が発生しないじゃないですか(笑)。これはやっぱり本気さんのこれまでのキャリアとか、作家との信頼感ですよね。面白いネームを作りさえすれば、どこかしらに入れてくれるだろうと。
本気 そうか、フリーランスならではのやり方なんですね。私の場合、作家から「そろそろ余裕ができましたので、何かやりませんか」みたいに連絡をいただくこともあるんです。そこで打ち合わせて、「こういうのやりたいです」というお話を聞き、次に会う時までにネームを作ってもらう。それを見て、これは面白いから持っていこうと。いろいろ回ってみて、結果的にどこにも載らないこともあるんですけど、そのときには「こちらの力不足ですみません」って。確かに、これだとお金が発生しないから、作家さんには本当に申し訳ないのですが……。
岩井 雑誌に腰を据えて、そこに載せる作品を作るというのが、スタンダードなマンガ編集者ですから。編集部をまたぎながら、マンガ家さんと一緒に作った作品を持ち込んでいく、そういうフリーランスのマンガ編集者という構造を作ったのは、本気さんだと思いますよ。
本気 言われるまで、自分が特殊なやり方をしているとは気付かなかったですね。まあ、そんなふうにネームを温めていた作品であったり、連載が終わってご無沙汰している人に、編集長的な立場でやることになったので、一緒にやりませんかとお声掛けしたり……という感じです。
──100ページ固定ということで、ページ配分に苦労されたんじゃないかと思ったのですが。
岩井 始めの4号くらいは、本当にパズルを組むみたいでしたよね。
本気 毎号100ページという縦軸と、いつになれば単行本が出せるかという横軸を考える必要もあるので。それこそ毎号20ページで進行する作品もあれば、8ページずつのショート作品もあります。ほかにも2ページのコミックエッセイとか……。
岩井 極論を言えばね、ひとつの作品が次とその次の号に100ページずつ載ってたら、それでもう単行本を出せますから、それでもいい(笑)。まあ、始めに言った雑誌感みたいな部分を、しばらくの間は意識してほしいとは思いますが、いつかは特集として、100ページまるっと1本の作品みたいなことがあってもいいかもしれないという話はしましたね。
本気 スケジュールが狂ってしまうんで、作家さんにも「減ページや休載はなるべく勘弁してください……」と伝えていて(笑)。体調を崩さないように、がんばってくださいと。ただ新人の方も多いので、温かく育ててあげられる環境が作れたらと思いますね。
──では、そんな創刊号のラインナップを見ていきたいと思います。
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コミックビーム100、創刊号の掲載作品はこれだ!
- コミックビーム100 Vol.1
- 配信中 / KADOKAWA
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Kindle版
108円
コミックビーム100は、2017年10月6日に月刊コミックビームの増刊として創刊されたWeb雑誌。「100ページで100円」をコンセプトに、ベテラン編集者の本気鈴が責任編集を務め、ビームのスピリットにのっとったマンガを発表していく。創刊号にはファンタジー、動物もの、ラブコメ、エッセイなど7作品が掲載されている。
連載ラインナップ
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- 「反逆のオーバーズ」
- 山城良文
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- 「ワシとゆきさん」
- 青色イリコ
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- 「ピカリちゃんはなかなかしなないっ!」
- 三部ベベ
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- 「ちんちんケモケモ」
- 藤咲ユウ
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- 「ソレまだとっとくの?」
- ねむようこ
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- 「快傑蒸気探偵団 ANOTHER STORY
少年怪盗ル・ブレッド」 - 原作 / 麻宮騎亜 漫画 / 金村連
- 「快傑蒸気探偵団 ANOTHER STORY
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- 「読もう!コミックビーム」
- 桜玉吉
- 岩井好典(イワイヨシノリ)
- 1997年、エンターブレイン(現KADOKAWA)入社。2013年より月刊コミックビームの編集長を務める。
- 本気鈴(ホンキスズ)
- 編集者。これまで編集担当を手がけた主な作品に、麻宮騎亜「快傑蒸気探偵団」、吉田秋生「海街diary」など。