「「バビル2世 《オリジナル版》」ゆうきまさみインタビュー|「横山光輝先生はずっと僕の憧れ」名作の1つを、雑誌連載時より約48年ぶりに読み返す 描き下ろしイラストも!

バビル2世とヨミの対決 「ヨミ様はいい上司ですよ!」

読み返していて気になったんですけど、ヨミ様ってこんなに何回も死にましたっけ?

「バビル2世 《オリジナル版》」1巻より。バビル2世にとってヨミは、“良き友”となるか“最大の敵”となるかどちらかだと「バベルの塔」のコンピュータによって示されていた。

──「バビル2世」は全4部で構成されていますが、その中でヨミは3回死んで、バビル2世とは合計4回戦います。ちなみに第4部は1973年に連載終了後、1995年まで単行本に収録されませんでしたが、今回の《オリジナル版》ではもちろん収録されます。

少年チャンピオン・コミックス版の著者近影のコメントには「二、三か月で完結の予定でしたが、発表してみると、意外に支持が多く、気がついてみたら二、三か月の予定の作品が、二年と四か月続いていました」と書いてあるから、それでヨミ様を生き返らせて、何度も戦わせたんだろうね。バビル2世が「まさか…………まさか」「あのヨミが再び生き返ったというのか」と言ってますけど、これは作者の本心かもしれないなあ(笑)。

──作家らしい観点ですね(笑)。

これが「伊賀の影丸」だったら、新しい敵が出てくるんだけど……。

──確かに。横山先生の「伊賀の影丸」は、いわゆるトーナメントバトル方式を用いたマンガの先駆け的な作品です。

でも「バビル2世」は、そうはならない。あくまで最初から最後まで、バビル2世とヨミ様の戦いがメインの作品なんだよね。

──「バビル2世」が全4部ある中で、ゆうき先生は何部がお好きですか?

難しい質問ですね(笑)。うーん……第2部かなあ。第2部が一番筆が乗っているような気がします。これは感覚的なものだから、うまく説明できないけど。

──そういえばゆうき先生は、「ヨミ様」と呼ぶんですね。

ヨミ様はね、ヨミ様ですよ(笑)。

──キャラクターでは、やはりヨミ様が一番お好きですか?

「バビル2世 《オリジナル版》」1巻より。バビル2世に戦いを挑むというヨミの部下たち。ヨミは背中を押しつつも、あくまでも彼らの安全を第一に考えている。

ヨミ様はいい上司ですよ! 第3部はヨミ様がバビル2世を追い詰めていいところまでいくんだけど、最後に部下を助けるためにエネルギーを使って、それでバビル2世に負けちゃう。ヨミ様は部下思いで、人間味があるんです。マンガやアニメで悪の組織が出てくると、「なんでこんな奴についていく部下がいるんだ?」って思うようなボスもいるんだけど、その点、ヨミ様は違う。彼を慕う部下がいることが納得できる。まあ、見捨てることもあるんですけどね(笑)。

──バビル2世は正義だけど、力が圧倒的すぎて人間離れしている。ヨミ様は悪役だけど人間味がある。

バビル2世が強すぎるから、ヨミ様に感情移入して読んじゃうところはありますね。悪い奴には悪い奴なりの理屈があって、まあ適用する理屈じゃないんだけど(笑)、なんとなく事情はわかると。「バビル2世」は、「大人が描いているマンガだな」という印象です。

読めば確実に面白い もっと読まれるべき横山マンガの魅力

──改めて、横山光輝マンガの魅力とはどういったところでしょう?

ゆうきまさみ

横山先生の作品は「ここがいい!」となかなか言いづらいんですよ。というのも、横山先生は作家的な色気を出していないように思います。色気を出す……とは、何か新しい表現方法を取り入れるとか、実験的な試みをするようなところですね。変形ゴマも使っていないですよね。僕もあまり使わないほうですけど、「バビル2世」にはほとんど見当たらない。あくまで「ストーリーを読んでもらう」ことに比重が置かれていて、構成に無駄がなくて、とても読みやすいです。

──ストーリーを物語るうえで不必要なものがないんですね。

だから主人公のバビル2世は「浩一くん」と呼ばれているけど、名字すらわからない(笑)。ヒロインが出てくるけど、一度出たっきりで、それ以降は出てこない。

──ドライですよね。

そう。アッサリしている。そういうところが大人っぽくて、僕は惹かれたんだろうなあ。でも、こういった作風だからこそ「ここがいい!」と伝えるのが難しい作家なんですよ。

──なるほど。キャッチフレーズをつけにくい感じはします。

でもね、読めば確実に面白い。読みやすいし、ストーリーテリングが巧みなので、まったく古びた感じがしない。今まで横山作品を読んでいない方であっても、読んでもらえれば、面白いと感じてもらえるんじゃないでしょうか。

──オールドファンに向けては?

昔からのファンにとって、この復刊ドットコムの《オリジナル版》はいい企画ですね。雑誌に掲載されたときと同じ判型で読めるので、週刊少年チャンピオンで「バビル2世」を読んでいた当時の記憶が蘇ってきます。このサイズだと絵の迫力も違いますから、この作品が好きな方にはぜひ手に取ってもらいたい。僕自身は、死んだ後は忘れられるような作家でいいと思っているんですけど、でも横山先生はもっと読まれるべき作家です。これを機会に横山作品を読む方が増えれば、僕もファンとしてうれしいですね。

ゆうきまさみ描き下ろし!

ぼくの好きな「バビル2世」

横山光輝が亡くなった当時、「ぼくの好きな先生」というタイトルのイラストを自身の公式サイトで発表したゆうき(参照:ゆうき まさみ (@masyuuki) | Twitter)。今回は「バビル2世」をテーマに、バビル2世と三つのしもべ、ヨミのイラストを描いてもらった。キャラクターたちの隣には、ゆうき自身の姿もあるので要注目だ。

ゆうきまさみ描き下ろしイラスト
横山光輝「バビル2世 《オリジナル版》」
発売中 / 復刊ドットコム
横山光輝「バビル2世 《オリジナル版》」

全8巻の購入はこちらから
税別46000円

復刊ドットコム

週刊少年チャンピオン(秋田書店)で1971年から1973年の約2年半にわたって連載され、1973年にはTVアニメ化も果たした「バビル2世」。同作を雑誌初出時の体裁で再現する《オリジナル版》 全8巻の刊行が、2019年3月にスタートした。

《オリジナル版》は雑誌連載時と同じB5サイズで、単行本未収録の計33ページ分も収録。各巻末には横山による創作のこだわりを考察した図説が掲載される。復刊ドットコムで全巻まとめて購入した人には、特製ポスター、複製原画セット、クリアファイルといった3大特典も用意された。

1巻

税別5750円 / 発売中

2巻

税別5750円 / 2019年5月中旬

3巻

税別5750円 / 2019年7月中旬

4巻

税別5750円 / 2019年9月中旬

5巻

税別5750円 / 2019年11月中旬

6巻

税別5750円 / 2020年1月中旬

7巻

税別5750円 / 2020年3月中旬

8巻

税別5750円 / 2020年5月中旬

復刊ドットコム 横山光輝関連書籍
横山光輝「マーズ《オリジナル版》」
発売中 / 復刊ドットコム
横山光輝「マーズ《オリジナル版》」

全3巻の購入はこちらから
税別18600円

復刊ドットコム

横山光輝(ヨコヤマミツテル)
横山光輝
1934年6月18日兵庫県生まれ。1955年、東光堂より貸本「音無しの剣」で単行本デビュー。翌年に少年(光文社)にて「鉄人28号」を連載開始。一躍人気作家となる。同作は1960年以降アニメ化や映画化、特撮化されるなど多メディア展開がなされた。以後も1966年にりぼん(集英社)にて「魔法使いサリー」、同年週刊少年サンデー(小学館)に「仮面の忍者赤影」、1967年には同誌にて「ジャイアントロボ」とヒット作を連発。いずれもアニメ、実写化されている。1967年に希望ライフ(潮出版社)にて「水滸伝」を連載し、1972年からは同誌にて「三国志」をスタート。長期連載となる。1991年、「三国志」にて第20回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。一方では1971年に週刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「バビル2世」を連載し、大人から子供まで広い層に人気を博した。1994年にコミックトム(潮出版社)にて「殷周伝説」を連載。連載途中、心筋梗塞で入院し休載となったが、翌年に復活。連載終了後の2004年、自宅での火災のため4月15日に69歳で死去。
ゆうきまさみ
ゆうきまさみ
1957年12月19日北海道生まれ。1980年、月刊OUT(みのり書房)に掲載された「ざ・ライバル」にてデビュー。同誌での挿絵カットなどを経て、 1984年、週刊少年サンデー増刊号(小学館)に掲載された「きまぐれサイキック」で少年誌へと進出。以後、1988年に「究極超人あ~る」で第19回星雲賞マンガ部門受賞、1990年に「機動警察パトレイバー」で第36回小学館漫画賞受賞、1994年には「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」と立て続けにヒット作を輩出する。また1985年から月刊ニュータイプ(角川書店)にて連載中であるイラストエッセイ「ゆうきまさみのはてしない物語」(角川書店)などで、ストーリー作品とは違う側面も見せている。2012年には、1980年代より執筆が続けられていたシリーズ「鉄腕バーディー」を完結させ、その後も現代の吸血鬼”オキナガ”を描くミステリ「白暮のクロニクル」、凸凹兄妹マンガ家コメディ「でぃす×こみ」と話題作を執筆。現在、月刊!スピリッツ(小学館)にて「新九郎、奔る!」を連載中。
ゆうきまさみ最新作「新九郎、奔る!」
横山光輝「マーズ《オリジナル版》」