コミックナタリー Power Push - 高田慎一郎「放課後アサルト×ガールズ」

ミリタリー好き上坂すみれと紐解くゲーム的な物語

それぞれの国の軍隊を平等に描いてほしい

上坂 でも私、この作品を読んで初めて「米兵を応援できる」って思いました。正確には綾子さんたちは米兵というわけではないですけど。

高田 それはどういう理由で?

上坂すみれ

上坂 戦争映画なんかだと、いつもいいところをかっさらっていくのが米軍っていう印象があったので(笑)。

──実際に第二次大戦の戦勝国だし、ハリウッド映画なんかの場合、母国の軍隊ということもあって主人公キャラとして描かれがちなんでしょうね。

上坂 そうなんですよね。米軍は特にカッコよく描かれがちなんですけど、できればどの軍隊も平等に描いてほしいんですよ。最近の映画ではそんなことはないですけど、1960~70年代の映画なんかだと、たとえば「ドイツの軍人といえば、とりあえずかぎ鼻の人で」って感じのキャスティングになっていて……。

高田 だいたい、かぎ鼻でスキンヘッドですよね(笑)。

上坂 それですごいツバを飛ばしてしゃべるっていう。すごくわかりやすい(笑)。たとえ第一次大戦や第二次大戦の結末を知らない人が見たとしても「絶対コイツやられ役だろ」ってわかるくらい、いかにも負け役のビジュアルをしていて。そういうのを観るたびやるせない気持ちになりながら、応援することになるんです。

──あっ、ドイツ軍もお好きなんですか?

「放課後アサルト×ガールズ」のカラーカット。

上坂 もともとミリタリーにハマったきっかけがドイツだったんです。ナチスのポスターがカッコよかったっていうのをきっかけに、ゲッベルスの演説を聞いてみたり、「ヒトラーユーゲントっていう青少年組織があるんだ」って興味を持って調べてみたりして。まさにナチスにプロパガンダされました(笑)。ドイツ軍と、米軍もそうなんですけどグッズが多くて集めやすいから、ドイツかアメリカのどっちかをきっかけにミリタリーにハマった人って多いんじゃないかなって感じもしています。

──先生はどういったきっかけでミリタリー趣味に?

高田 僕は「バトルフィールド」っていうゲームですね。10年くらい前、それこそ仕事をほったらかして、1日10時間くらい、マンガ家を辞めるんじゃないかって勢いでやっていました。当時ミリタリー要素も含んだ作品を連載していたこともあって、自分の中にきちんとミリタリーのバックボーンを作ろうということで。ゲームのほかにもアシスタントに勧められた「プライベート・ライアン」を観たりもしてました。

──あれこそゴア表現満載の戦争映画ですよね?

高田 だから最初はミリタリー趣味に対しても「なんだこれ!? めちゃくちゃ怖いじゃん!」「気持ち悪いじゃん!」と思っていたんですが、「バトルフィールド」にハマるうちに「ああ、いいもんだな」となっていった感じですね。

現代において倒すべき敵・重課金兵

──上坂さんが最初におっしゃっていたように「放課後アサルト×ガールズ」がシリアスな戦闘を描きながらも、どこかゲーム的であるという構造になっているのには「バトルフィールド」から着想を得た部分も大きいんですか?

突如異世界に飛ばされ戸惑う少女たち。

高田 「バトルフィールド」を知っている人には「パクリじゃないの」って思われるかもしれないくらい、企画の段階からゲーム的要素の強い作品ではありました(笑)。ただ担当さんには「『女子高生が異世界に行ったときにどういう反応をするのか』というところにリアリティがほしい」とも言われ続けていて。「女子高生がそんな簡単に銃を撃たないだろ」とか「異世界、それも戦場に飛ばされたら最初は戸惑うだろ」とか。

──とはいえ、わけもわからず戦場に送り込まれた悲壮感みたいなものはあまりなく、キャラクターはみんなどこかカラッとしてますよね。

高田 「最初は戸惑うだろ」と言われて彼女たちを戸惑わせてみたら、今度は逆に担当さんに「逡巡が多すぎるから減らせ」って言われたこともありましたから。あとこれは自分の好みなのかもしれないんですけど、クラス内ヒエラルキーみたいなものを作品の中であまり描いていないんですよね。

──確かに1クラス丸ごと異世界に送られてはいるんだけど、そのクラスメイト40人の関係はフラットですよね。綾子のように率先して武器を取る子もいれば、ギリギリまで戦いを拒む子もいるんだけど、どちらかがどちらかを非難するようなことはしない。

高田 いわゆる女王様みたいなキャラクターがいない状態。なので「ちゃんと緊迫感が出せているんだろうか」と不安になることもあるものの、それが重たくはなりすぎない理由なのかもな、とも思っています。

突撃兵に変身する綾子。

上坂 最初、綾子さんが変身するためのコンパクトをもらったときに、兵士じゃなくて「魔法少女になれる」って勘違いするあたりも、重たくなく読める理由なのかなっていう気がします。兵士になるために届けられたものがもし赤紙(召集令状)だったら、さすがに「えっ、赤紙!?」って警戒すると思うんですけど、それが魔法少女ものっぽいコンパクトだったら、戦地に行くかもなって思いましたし。

──撃たれてもいきなり傷付くわけではないシールドや、道具立てのおかげで、いい意味で気軽に読める、と。

上坂 戦闘の展開はすごくスピーディで緊迫感があるんですけど、変身コンパクトみたいな“ツカミ”のおかげで面白く読めますよね。あとこれは完全に冗談なんですけど、ゲーム的というなら、いつかライバルとして課金勢なんかが出たりは……。

高田 ああ、なるほど(笑)。

左から高田慎一郎、上坂すみれ。

上坂 この世界には課金とかって概念はなさそうですけど、そういうライバルがいたら面白いなって。

──今のところ人間側の装備は、彼女たちを徴用した異世界の女の子・諏訪原サキの陣営、イズナ陸軍から供給されるものばかりだけど、今後、資金力のあるキャラクターが現れて、金にものを言わせてパワーバランスをひっくり返す、と(笑)。

上坂 「課金兵」なんて言葉もありますけど、まさに「重課金兵」が登場して戦場で大活躍するという(笑)。

2巻のラストに登場した新キャラクター。

高田 2巻のラストにチラッと敵の小隊長が出てきているんですけど、この子は生身の子なので……。

──あの子、重課金兵なんですか!?

高田 なのかもしれない。

上坂 「家賃を超えない限りは、いくら使っても大丈夫だ!」がキメゼリフで。

高田 「たった10万円で○回ガチャを回せるぞ」って。

──ガチャって(笑)。

上坂 現代においてはその子こそが本当に倒すべき敵ですね……。

高田 ですね。例えば第二次大戦中の兵器の中でも、ドイツ軍が運用していたMP40っていうマシンガンは性能が高いんですよ。もしもあの子があのへんの武器を持っていたら、課金兵である可能性は否めないですね(笑)。で、その課金兵を前にしたら、綾子たちはひとたまりもないかもしれない。

高田慎一郎「放課後アサルト×ガールズ(2)」 / 発売中 / ほるぷ出版
高田慎一郎「放課後アサルト×ガールズ(2)」
高田慎一郎「放課後アサルト×ガールズ(2)」 / 616円
高田慎一郎「放課後アサルト×ガールズ(2)」 / Kindle版 / 551円

ミリタリー×少女。
ときに真面目に、ときにゆるく。
高田慎一郎の描く、少女兵士たちのレジスタンス・ストーリー、第2巻!

消息を絶った仲間達を捜すアヤコたち。
負傷した彼女に、イヨガミが迫る……!!
第2巻では本格的な小隊行動も開始!
さらには第二次大戦の「あの地」をモチーフにした戦闘も勃発…!?

高田慎一郎(タカダシンイチロウ)
高田慎一郎

福岡県北九州市出身。月刊Gファンタジー(スクウェア・エニックス)にて、1995年に「神様のつくりかた。」で連載デビューを果たす。以降「シリウスの痕」「ククルカン 史上最大の作戦」「少女政府 ベルガモット・ドミニオンズ」などの作品を発表。2015年よりCOMICメテオにて「放課後アサルト×ガールズ」を連載している。

上坂すみれ(ウエサカスミレ)
上坂すみれ

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表する。同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」を、12月には5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」と自薦の80年代アイドルナンバーをコンパイルした「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」を発売した。2016年1月には丸2年ぶりとなる2ndフルアルバム「20世紀の逆襲」を、同年8月に7thシングル「恋する図形(cubic futurismo)」をリリース。12月には東京・両国国技館でワンマンライブを実施する。