社会に出たことで、新しい自分と出会えた
──棚園さんは引きこもりを脱して、社会に出た結果として、いろんな人と出会えたり、こういう本を出版できたりしてますよね。根本さんは「社会に出てよかった」と思うことはありますか。
正直、社会に出てからは自分を嫌いになることがめちゃめちゃ増えて、一言で「よかったです」とは言えないかもしれないです。だけど社会に出て自分と向き合うことによって、自分ではウイークポイントと思ってたところがチャームポイントだった、と気付けたことは何個もあります。精神面でも見た目でもなんでもいいんですけど、そういうのは家にいると視野が狭くなって気付けないんですよ。
──確かに自分の世界に閉じこもっていると、自分は何が得意で何が不得意か、とかもわからないですよね。根本さんは虹コンに入った当初は自分の魅力に無自覚だったのに、もふくちゃんが「根本は水着グラビアで売り出そう」と見出したという逸話がありますし。
引きこもったままだったらグラビアの仕事は絶対やらなかったと思うので、社会に出ることで新しい自分に出会えてよかったなと思います。
──先ほど、もふくちゃんに注意されたっていう話もありましたが、そうやって悪い点が知れるというのも、社会に出たからこそですよね。引きこもっていると怒られることってないので。
怒ってくれる人ってめっちゃ労力を割いてくれてるわけだから、真っ向から受け止めなきゃなとは思います。でも怒られるのはめっちゃ嫌ですね(笑)。「クソくらえ」と思いながら家に帰って、3時間後ぐらいに噛みしめてます。
しんどかった日々も、いつか「忘れた」と言えるかも
──「学校に行けなかった僕と9人の友だち」は、引きこもっている人にも読んでほしいんですが、実際はそういう人たちってなかなか手に取る機会がないと思うんですね。どちらかというと、そういう子を持つ親御さんや、周りの人が手に取ることで、引きこもっている子の気持ちを理解する助けになるのかなと。
確かにそうですね。
──根本さんも引きこもっていた側、悩んでいた側として、親や周りの人の言動で、「こういうことがうれしかった」というのはあると思いますが、そういうシーンはこのマンガにありましたか?
好きなことをさせてくれたというのは大きいですよね。子供に夢があっても、親御さんが「それは違うんじゃない」と止めることってあるじゃないですか。もちろんお子さんのことを思っての言葉だと思うんですけど、1回やらせてあげるのはいいことだなと。
──棚園さんの両親も、子供のやりたいことは全部やらせてあげてますからね。
つらいときって本当に、光がない状態なんですよ。でも1つ打ち込めるものがあると、人が変わったようになりますから。私も変わった側の人間ですし。お子さんの知らない一面を知れたり、「こういう業界で生きていけるのかも」って気付きを得られたりするきっかけになると思うので、何かに興味をもっていたら、薦めてあげて、見守ってあげるのはとてもいいことだと思います。私も「オーディション受けたい」って言ったとき、普通なら親に止められる気はするんですけど、止められなかったし、薦めてくれたのはすごく感謝してます。
──いい親御さんですね。
普段から「学校に行きなさい」とか言わず見守ってくれてました。もちろん、つらかったと思いますし、母と今朝、このインタビューのことで電話したときには、「しんどかった」とは言ってて。だけど、「でも全部忘れちゃった」とも言ってました。
──もしかしたら本人より親御さんのほうがつらいかもしれないのに、すごいですね。「忘れちゃった」って、絶対そんなことないのに。
今日、笑って話せたのは意外でした。「時は薬」っていうのが母の口癖なんです。もちろん、時間が経つことでよくなることばっかりじゃなくて、悪くなることもあるとは思うんですけど。でも引きこもってるお子さんがいる家庭の親御さんも、いつか「全部忘れた」と笑って言えるかもしれないので、元気を出してくださいという気持ちです。
──いい話ですね。とにかく、子供のやりたいことはなるべくやらせてあげてほしいということですかね。
それでもし失敗しても、何かしらの糧になると思います。その経験を活かして、同じ失敗をした人を励ますこともできますし、次に似た失敗をしたときに「今回は傷が浅いし、まだ大丈夫だろう」という指標にもなるじゃないですか。「傷付かないように生きる」ということばかり考えがちだけど、1回思い切って傷付くのも大事だと思います。
つらければ、じっとしていていいんだよ
──最後に、学校に行けずに悩んでいる人たちにメッセージを送っていただけますか。ただ、こういうのって励まし方が本当に難しいですよね。「学校に行けなかった僕と9人の友だち」の冒頭で棚園さんが講演会をするシーンが出てきますけど、講演後には参加者に感謝される一方で、アンケートで「棚園さんは運が良かっただけ」とも言われていて。そこから悩んで自分なりの結論を出すというお話ではありますが。
ありましたね。あのアンケートは確かに「そんなこと言われても……」という気分にはなりましたけど、でも確かに私が引きこもってるときに何か言われても、すぐ聞き入れられないかもしれないです。そこまで気持ちが落ちてる子も多いと思いますし。
──意地悪な言い方になるんですけど、根本さんがポジティブなメッセージを送っても、「家庭環境がよかっただけじゃないか」と思われるかもしれない。
家庭環境は人それぞれあると思いますし、私よりもっと気持ちの病気が大きい子とかいると思うし、なかなか簡単には言えないですよね。
──そこにあえてメッセージを送るなら。
つらければじっとしててもいいということですかね。無気力状態だったら全然ゆっくりしてほしいです。私もそこからだったので。そのうえで、気が向いたら耳を傾けてほしいんですけど、少しでも「変わりたい」っていう願望があれば、興味があること、自分の好きな趣味を見返したりとか、少しでも仕事にできそうなものを磨いてみたりとか。そういうの1つで前向きに気持ちになるんですよね。だから何かお守りとして自分の好きなものを見つけるのがいいかもしれないです。
──引きこもりを抜け出す具体的な解決策としては、「無理せず休むこと」、そして「好きなものを見つけること」ということになりますかね。
そうですね。人生、好きなものがあるないの違いって大きいので。虹コン、でんぱのファンの方ってみんな目が輝いてて、きれいなんですよね。だからもし「思い当たるものがないな」って思ったら、虹コンとでんぱ組を見てみてください。1人は好きになる子がいると思うので。曲もいいので、ちょっと聞いてみたら「この曲だけ好き」と思えるかもしれないし、それぐらいで全然いいから、ちょっとでも救いになれたらいいなと思います。でも、無理だけはしないでね。
1でんぱ組.inc
ライブは行けず、在宅のオタクでしたね。引きこもってた当時、でんぱ組とどう向き合ってたのかという記憶がなさすぎたので、母に電話で聞いたんですけど、「泣きながらDVD観てたよ」って。平坦だった心に、そこまで波を立たせてくれていたんだなと。
2夢眠ねむ
女の子の推しができるのが初めてだったんです。アイドルへの先入観バリバリのときだったらありえなかったんですけど、ねむさんはグラビアを観ても「わ、きれいだな」って思えて、「女の子を愛でるのがこんなに楽しいんだ」って気持ちになれて、全部が新鮮でした。「ねむさんがこれを買ってたから私も買おう」とか、「ねむさんの担当カラーがミントグリーンだからミントグリーン色の物を買おう」とか思えて、日常にまで入ってきてくれてました。推しは偉大です。
3「ARIA」
インタビュー本編でも言いましたけど、心にくるメッセージが多いです。つらいときは音楽も大事だと思うんですが、「ARIA」の曲は癒やされますし、本当にお世話になりました。まだ観てない方は観てみてください。これはオタクからの伝言です(笑)。
4お絵描き
物心ついたときから絵は好きだったんですけど、実家がカフェをやっていたので、そこに置いてあるフリーペーパーの絵を描いてみないか?と親が言ってくれて、描く機会を与えてくれました。オタクなのでそれ以外にもちょこまかと絵は描いていて、いいリフレッシュになっていたと思います。
5「アイドルマスター」シリーズ
ただかわいさに救われました。「アイマス」を観るまで、女の子たちの心身の成長を見守る機会ってなかったですね。女の子の成長って尊いものだし、アイドルっていいものだって思わせてもらったので、感謝してます。「SideM」ももちろん大好きです。
6ネットサーフィン
時間が死ぬほどあったので、まとめサイトとかをめちゃめちゃ見てました(笑)。ほかにも「ニコルソン」っていう音声でつながれるアプリをやってて、そこで「テニスの王子様」が好きっていうことで意気投合した女の子がいたんですね。そしたらその子ものちにアイドルになってて、「TIF」っていうフェスで再会して、一緒に遊びに行ったこともあるので、ネットサーフィンも無駄じゃなかったんだなと思えました。
7ボーカロイド曲
小学生の頃、年の離れた姉に初音ミクちゃんを教えてもらって、そこから派生して「歌ってみた」とかも聴いてます。自分は歌が好きだと気付いたのもボカロと出会ってから。投稿はしてなかったです。一歩手前まででした。投稿してたらとんでもないところを世に出すところでした、危なかった(笑)。
8猫
実家に猫がいるんです。自分が引きこもりになった時期ぐらいに、里親から引き取ってきたんです。私が家にいるときには寄り添ってくれてて、癒やされました。
9BL
好きな作家さんの新刊が出るたびに生きようって思えるので、生きる活力です。社会人になって思ったんですけど、疲れすぎてるとBLが沁みないときがあって。「沁みないってことは休んだほうがいい」という心の指標にもなっています。BLとは一生の付き合いだなって。ただ最近、ABEMAの「チャンスの時間」という番組で、千鳥さんのナマモノBLを描いて、それを本人の前で音読する企画があったんです。共演者と一緒にがんばって、喜んではもらえたんですけど、つらかったです(笑)。その傷はまだ癒えてないですね。