ナタリー PowerPush - 米津玄師

自由を捨てて外の世界へ 覚悟と決意の「サンタマリア」

前を見て生きていかなければならない

──そこからどのような流れがあったんですか?

最初に「サンタマリア」にも入ってる「百鬼夜行」っていう曲を、「diorama」の次に出す曲としてガッツリ作り上げようと思って作ったんですけど、どうもしっくりこなくて。これは果たして「diorama」の次に出すべき曲なのかって考えると、素直にうんと頷けないところがあったんです。で、どうしたものかと考えて……とりあえず「百鬼夜行」を凍結して。そこからは、もともと僕は普遍的なものやポップなものが好きなので、そういう普遍とか共通認識みたいなものを集めるところから始めました。

──「百鬼夜行」には普遍性がないと思ってしまった?

いや、ないわけではないと思うんですけど……美しいものを作りたかったんですよね。それで、そうやってピックアップしたものを今一度並べて考えた上で思ったのは、「前を見て生きていかなければならない」ということで。そういう信念というか、思いを具現化しようとして作ったのが「サンタマリア」です。

自由すぎると逆にどこにも行けなくなる

──個人的に、米津さんのメジャーデビューには驚きました。1人で完成させた「diorama」があれだけの結果を残したので、わざわざメジャーに行かなくても同じように活動できるんじゃないかと思っていたので。

それは僕も強く必然性を感じていたわけではないんですけど……けど、結局誰と作るかだなと思って。自分が作る音楽にちゃんと理解があって、同じ熱量で同じ方向を見てくれる人とモノを作るっていうのが一番正しい姿だなと。だからたまたまそういう人がいるのがメジャーレーベルだったっていうだけのことですね。

──前回のインタビューで「他人とコミュニケーションをうまくとれない」とおっしゃっていましたが、メジャーレーベルだと関わる人も格段に増えると思いますし、より自分の音楽に介入する人も増えると思うんですよ。そういうことを煩わしく思う気持ちはなかったですか?

でも、その煩わしさが欲しかったりもして。今まで全部自分1人で作ってきたじゃないですか。だから何をするにも自由で、自分本位で行動することができて。朝いつ起きてもいいし、いつ曲作り始めてもいいし、いつやめてもいいし。なんにもこう、根ざすものがない生活を長らく続けてきたんですよ。で、それを続けていくとですね、なんかやんなってくるんですよね。自由すぎると逆にどこにも行けなくなるっていう感覚があって。結局何かひとつの方向に進んでいくためには、寄り添うものがちゃんと寄り添い、それと同じくらいお互いを縛り合うことが必要なんですね。じゃないとあっちこっちいっちゃうんですよ、意識が定まらなくて。やっぱそういうのって健康的じゃないし……弱いなと。背負うものが何もないから。

──他人と一緒にモノ作りをすることを避けていた米津さんからしたら、それは大きな意識の変化ですね。そうなるきっかけはあったんですか? それとも健康的じゃないという思いがずっと自分の中にありつつも見ないふりをしていた?

あるいはそういうことなのかもしれないですね。1人で作るのは中学生くらいからやってることなんで、その頃は全然疑いも持たず、純粋に1人でやるのが楽しくてずっと続けてきましたけど。今考えると少なからずあったんでしょうね、ある種逃避のニュアンスが。でもやっぱりずっと1人でやっていると、初期衝動みたいなものがどんどん薄れていくわけじゃないですか。それに、このまま同じところにいてもしょうがないですし。だからそういうあさましい逃避みたいなものは捨ててしまって。

──前を見ようと。

そうですね。

レコーディングは知らない国に放り込まれたようなもん

──今回は初のバンドレコーディングですが、これは米津さんの意思ですか?

そうですね、いろんな人と一緒に作ってみようというところから始まって。やっぱり自分はバンドサウンドが好きなんで、やるからにはバンドだろうなと思って。

──これも前回のインタビューからで申し訳ありませんが、「ゲストミュージシャンを入れると、ちょっとでも自分の意図と食い違ったときにテンションが下がってしまう」というような話をされていましたよね。その思考からはもう脱することができたんですか?

いや、でもそれは少なからずありましたね。そこは主に僕が至らない部分なんですけど。でもそういうのって鍛錬すればなんとかなることじゃないですか。

──鍛錬?

要は慣れだなと。例えると知らない国に放り込まれたようなもんで、最初は食うものの味も味覚も全然違うから、メシもまずい、水も汚いみたいな。そういう環境の変化に付いていけないことってあるじゃないですか。でもそういうのって往々にして慣れるんですよね。今回は初めてなのですごい戸惑うことが多かったんですけど、まあ続けていけばなんとかなるでしょと。

──戸惑ったけれど、「もうやりたくない」とは思わなかったんですね。

そうですね。やらなきゃいけないなと。

──楽しいっていう気持ちもありました?

それはありましたね、全然。

──バンドメンバーの皆さんはどんな印象でした?

BOBO(Dr)さんは、すっごい楽しい人。カラッとしててずっと1人でしゃべってる。優しい気遣いもあって、すごくやりやすかったですね。真船(勝博 / B)さんは下から支える感じの人というか、ベーシストらしいベーシスト。終始見守って、僕を立ててくれる、お母ちゃん的な役割で(笑)。柔らかくていい人でした。

1stシングル「サンタマリア」 / 2013年5月29日発売 / ユニバーサルシグマ
初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD] / 1680円 / UMCK-9622
通常盤 [CD] / 1260円 / UMCK-5435
CD収録曲
  1. サンタマリア
  2. 百鬼夜行
  3. 笛吹けども踊らず

(※通常盤は弾き語りライブストリーミングが聴けるシリアルナンバー入り)

初回限定盤DVD収録内容
  • 「サンタマリア」Music Video
  • 「サンタマリア」めくる絵本Music Video
米津玄師(よねづけんし)

男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲の投稿をスタートし、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は600万回を、「結ンデ開イテ羅刹ト骸」の再生回数は300万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットのイラストやビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月29日、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。