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映画「恋に至る病」公開記念! 木村承子監督×アーバンギャルド対談

「ベルリン国際映画祭」で正式上映され、「香港国際映画祭」では審査員特別賞を獲得したPFFスカラシップ作品「恋に至る病」が10月13日から東京・ユーロスペースで公開される。この映画は気弱な生物教師と、彼に恋する女子高生の性器が入れ替わってしまうという異色のラブストーリー。アーバンギャルドが主題歌として「子どもの恋愛」、挿入歌として「堕天使ポップ」「バースデーソング」を提供し、キーボードの谷地村啓が劇伴を制作している。

ナタリーではこの映画で長編デビューを果たした木村承子監督と、アーバンギャルドの松永天馬(Vo)、浜崎容子(Vo)、谷地村啓(Key)による対談を実施。スタッフから「兄弟かと思ったよ」とまで言われたという、似た者同士な2組のトークは大いに弾んだ。

取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 高田梢

脚本を書いているときにたまたま「水玉病」を聴いて

──今回アーバンギャルドに音楽制作を依頼することになったきっかけは?

インタビュー写真

木村承子 まず「性器交換する女子高生」っていう話を作ろうと思ってて、最初の脚本段階で1年間ずっと手直ししてたんですけど、そのときにたまたまYouTubeで「水玉病」のPVを観て、すごく脚本と通じるものを感じたんです。「あなたになれない 私になれない」という歌詞とか、最後の「いなくなくなりたい」とか。それにこの曲は女子高生の話で、私もそのときの気持ちに戻れる気もしたから、脚本を書きながらヘビロテで聴いてたんです。

──確かに共通点がありますね。

木村 で、そろそろ撮影って時期に「音楽は誰がいい? 希望ある?」ってプロデューサーに訊かれたから、「こういう歌があって、すごく通じるものがあると思うんです」って「水玉病」を聴いてもらって。そのときアーバンギャルドはメジャーデビューが決まってたし、やってもらえるかわからなかったんだけど、でもプロデューサーも歌詞を読んで「これだけ世界観が近い曲があるんだったらダメ元でお願いしてみよう」って言ってくれて。

──なるほど。それをアーバンギャルドが快諾したと。

木村 私は音楽を聴くときにあんまり歌詞を気にしないで聴くんですけど、アーバンギャルドの歌はそれでも耳に入ってくるからすごいですよね。一番好きなのは「子どもの恋愛」なんですけど、脚本を書きながらものすごく聴いてたのは「スナッフフィルム」。「スナッフフィルム撮られてみたいの」ってフレーズの、殺す権利すらあげてしまうっていう、そこまで行ってしまう世界を作ったのは本当にすごいなと思って。いつかこの曲を物語にしたいです。

谷地村啓(Key) いいですね!

松永天馬(Vo) ぜひともぜひとも!

浜崎容子(Vo) やって! やってよー!

木村 やるやるー!

「君たちの兄弟かと思ったよ」って言われて

──アーバンギャルドを知ったことで脚本に変化は出ましたか?

木村 いや、そこは何も変わってないです。最初にイメージしていたとおりのものができました。影響を受けるのはいいけど、似せちゃうのって逆に失礼だと思うし、自分がやりたいものちゃんと考えないといけないと思うんで。でもやっぱり、あの曲は脚本を書くときに絶対必要なものだったので、出会えたことはすごく大きかったです。

──ということは、PFFアワードで審査員特別賞を受賞した「普通の恋」の段階から、アーバンギャルドと近い感覚の映画を作ってたんですか。

木村 そうですね。「普通の恋」どうでしたか?

浜崎 好きだよー。

木村 本当ですか? やったあ!

インタビュー写真

松永 「普通の恋」は「多分この監督とは好きなものとか、表現したいものが近い」って感じましたね。だから説明されなくても「ああ、わかる」とか、「こういうものを作りたいんだな」っていうのがすごく伝わってきて。

浜崎 最初に「恋に至る病」の音楽制作のお話があっとたき、ユニバーサルのスタッフさんから「『恋に至る病』が作られるきっかけになった作品だから観ておいて」って、資料として「普通の恋」のDVDをいただいたんです。そのときに付け加えられた言葉が「君たちの兄弟かと思ったよ」だったんです。まさかそんな、って思いながら観たんですけど、観終わったら確かに「あれえ? 兄弟なのかな?」って(笑)。お互いのことを全然知らない他人なのに根本の部分が同じって、そんな人が本当にいるんだなってびっくりしました。

木村 うれしい……。浜崎さんがやってるブログも「普通の恋」ってタイトルですしね。

浜崎 そう。お互い知らずに同じ言葉をタイトルにしてたんだよね。

木村 元ネタが一緒ってだけだけどね(笑)。

松永 SPANK HAPPYの曲名ね。あの曲めっちゃいいですよね。僕らも何回かカバーしてます。

木村 きたー!!! 音源ない? 聴きたい!

谷地村 音源はないです。2回くらいライブでやっただけで。

木村 私は岩澤瞳ちゃん(Vo / SPANK HAPPY)になりたかったけど、なれなかった人なんです。

木村承子監督作品 映画「恋に至る病」/ 2012年10月13日公開

  • 映画「恋に至る病」
「恋に至る病」ストーリー

高校の生物教師・マドカ(斉藤陽一郎)は極端に他人との接触を避けて生きている。授業中でも生徒の顔をまともに見られず、私語や居眠りさえ注意できない。そんな彼を教室の机からただ1人うっとりと見つめるのはツブラ(我妻三輪子)。"腐らない体"を手に入れるため、防腐剤入りの食物しか口にしない彼女は、死んだあとで誰からも忘れられてしまうことを恐れている。

マドカのことが大好きなツブラは彼の癖とその意味を観察してはノートにイラストで描きとめ、あまつさえマドカと性器を交換することまで妄想していた。「誰もいらない先生と、誰かが欲しいあたしが混じったら、きっと丁度いい」——。 ところがある日、マドカはツブラから強引に肉体関係を迫られ、その拍子にツブラにはマドカの男性器が、マドカにはツブラの女性器が付いてしまう。

パニックに陥ったマドカはツブラを連れて今は誰も住んでいない実家にとりあえず避難。そこへ密かにツブラを慕うクラスメイトのエン(佐津川愛美)と、彼女を追ってきたマル(染谷将太)も駆け付け、奇妙な共同生活が始まる。ツブラとマドカは元のカラダに戻れるのか、そして4人の恋の行方は……。

アーバンギャルド ニューアルバム「ガイガーカウンターカルチャー」/ 2012年10月24日発売 / UNIVERSAL J

アーバンギャルド ニューシングル「さよならサブカルチャー」/ 2012年9月19日発売 / 1260円 / UNIVERSAL J / UPCH-5769

アーバンギャルド

プロフィール画像

「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる5人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に、ジャズや現代音楽を学んできた谷地村啓(Key)、メタルへの造詣が深い瀬々信(G)を迎えて結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)、2011年に鍵山喬一(Dr)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表し、2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビュー。楽曲制作のみならずアートワークやビデオクリップ制作のほとんどを松永が自ら手がけ、ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫いている。2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。「生まれてみたい」「病めるアイドル」「さよならサブカルチャー」という3枚のシングルを発表し、10月にはアルバム「ガイガーカウンターカルチャー」をリリースする。

木村承子(きむらしょうこ)

1986年生まれの映画監督。処女・童貞喪失を幻想的に描いた「普通の恋」を武蔵野美術大学在学中に制作し「PFFアワード2009」審査員特別賞を受賞。これにより獲得したスカラシップ(製作援助制度)で完成させた長編デビュー作「恋に至る病」は「第62回ベルリン国際映画祭」フォーラム部門に正式出品を果たし、「第36回香港国際映画祭」では審査員特別賞に輝いた。