ulma sound junctionの新曲「AXCLUSION」が配信リリースされた。
今年結成20周年を迎えたulma sound junction。そんな記念すべきアニバーサリーイヤーにリリースされた「AXCLUSION」は、格闘ゲーム原作のテレビアニメ「GUILTY GEAR STRIVE: DUAL RULERS」のオープニング主題歌で、彼ららしい怒涛の展開と激しく疾走感のあるサウンドを堪能できる1曲だ。
音楽ナタリーは「AXCLUSION」のリリースを受けてulma sound junctionにインタビュー。アメリカのイベント「Sakura Matsuri」でライブを終えたばかりの彼らに、20周年を迎えた心境や「AXCLUSION」制作の裏側を語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 苅田恒紀
海外ライブでの熱狂
──アメリカからの帰国早々、取材を受けていただきありがとうございます。ulma sound junctionは4月14、15日にワシントンで開催された「Sakura Matsuri」に出演しましたが、海外公演はひさしぶりでしたよね。
加勢本タモツ(Dr) 2019年のドイツ(タウバタールで開催された「EMERGENZA 2019」)ぶりなので、コロナ禍以降では初めての海外公演でした。
田村ヒサオ(Vo, B) あのドイツでのライブをきっかけにキングレコードのディレクターに声をかけていただいたので、そう考えるとメジャーデビューしてから初めての海外なんですよね。
──いわゆるメタルフェスとは異なる環境下でしたが、現地での反響はいかがでしたか?
田村 言葉が通じない分、楽曲メインで思いを届けようとしたので、こちら側の熱がしっかり伝わって熱狂してくれたことにはすごく手応えを感じました。海外公演となると機材などをフルセットでは持っていけないので、わりとシンプルなセッティングで臨んだのもあって、原点に立ち返るようなライブだったかなと個人的には思ってます。
福里シュン(G) 今回は2日間ライブがあったんですけど、1日目は事前に「シャウトをちょっと抑えめで」という要望があったので、セットリストも若干ソフトにして、その中にちょっとラウドな曲を入れたりと様子をうかがってみたんですよ。でも、意外とラウドな曲へのリアクションが大きかったので、2日目はいつも通りの感じになって。しかもステージが野外で、1日目はちょっと天気が悪かったものの2日目は晴れたこともあってか、人も多くて盛り上がりました。会場にはいろんな国の人が集まっていて、中にはコスプレイヤーもいたので、やっていて楽しかったです。
加勢本 ドイツに行ったときは海外のお客さんのノリのすごさにびっくりして。向こうの人たちって話しかけてくるときもテンション高いし、陽キャノリじゃないですか(笑)。ドイツで若干慣れたのか、アメリカではピタッとハマった感じがあったし、実際ステージに立ってみてもお客さんのノリがすごくよくて。ちょっと遠いですけど、また行きたいですね。
山里ヨシタカ(G) 特に今回は、「ROAR」(アニメ「ラグナクリムゾン」オープニングテーマ)といったアニメのタイアップソングを通じて僕らのことを知っている人もけっこういて。「ROAR」を披露したときのリアクションが特に大きかったのは、前回のドイツとの大きな違いでしたね。あと、「GUILTY GEAR STRIVE: DUAL RULERS」のオープニング主題歌を担当していることをすでに知っている人もいて、声をかけられることもありました。改めてアニメタイアップの影響力を実感しましたし、これを機にまた海外でもライブをできたらうれしいです。
──アニメソングって音楽ジャンルを指す名称ではなく、中身はソフトなものからulma sound junctionのようにヘビーなものまであるわけで。
田村 アニメファンはどんな楽曲でも好意的に受け取ってくれますし、実はアニメファンこそ幅広く音楽を聴いている可能性は大いにありますよね。
このペースだからこそ乗り越えられたのかも
──話題は変わり、資料を見て驚いたことなんですが……2005年結成のulma sound junctionは今年で20周年を迎えるんですね。
田村 そうなんです。初めてお話ししたのがメジャーデビュー直前(2021年12月)だったので、そこから考えても5年くらいが経ちますね。
加勢本 今まで特に何周年と謳うこともなかったから、そんなに長く続いているとは自分たちでも感じないです。
──メジャーデビュー時の特集(参照:沖縄発プログレ×ラウドロック・バンド・ulma sound junctionがメジャーデビュー、キャリア17年の歩みを振り返る)で、それまでのキャリアを振り返ったことがありましたが、かなりマイペースで活動をしてきた印象が強いです。
加勢本 だからこそ長く続いたのかなと、個人的には思ってます。きっちりしていたら、逆に続いていなかったかもしれない(笑)。
──「このタイミングにこういうことをしよう、リリースは定期的に行おう」と戦略的に計算するバンドも少なくないですが、ulma sound junctionはそういう感じではないですよね。
田村 よくも悪くも「自分たちが楽しみながら演奏や制作をできればいい」という思いを優先してきた結果なのかなと。もちろんそれだけではダメだと今になって思うこともあって、徐々にシフトチェンジしていますけど、自分たちが信じる音楽や、やりたい音楽だけをやるというスタンスは今も変わっていないし変えたくない。昔から僕らを応援してくださっている方が付いてきてくれているので、そこに関しては間違っていないと思っています。
──この20年で音楽業界自体が変化していると同時に、制作環境もテクノロジーの進化とともに変化した部分がたくさんあると思います。
加勢本 昔はポータブルのMTR(マルチトラックレコーダー)だったけど、今は完全にPC上でのデータのやりとりになりましたね。
田村 昔はリズムマシンを使ってドラムパートをプログラムしていたけど、最近はパソコン1つあれば完結しますからね。MTRの頃は4トラックしか録音できないし、しかもデータはスマートメディアにセーブするからワンコーラスで終わるんですよ(笑)。
山里 自宅で作業していたから、「ボーカル録るから、みんな出ていって」とかね(笑)。
田村 防音設備もないから、大きな声を出せなくてほぼ裏声になってたし。その頃と比べたら、今は自宅でもある程度環境が整っているので、だいぶ進化していますね。
──そういった環境や技術の進化は、できあがる楽曲にも変化を与えているのでしょうか?
加勢本 それはめちゃくちゃあります。やっぱりエディット作業がだいぶ手軽になりましたし、それによってアレンジの可能性はだいぶ広がったんじゃないかな。特にうちらみたいに複雑なアレンジを武器とするバンドにとっては、かなり大きな助けになってます。
田村 演奏面でも、例えば曲によってチューニングが異なっても、今はエフェクターを使うことでギターを変えずに済みますし。そういうことも、昔じゃ考えられなかったことですよね。
山里 そのおかげで、海外に行く際も最小限のギターと機材で済みますから。いつでもどこでも、自分の音を忠実に再現できるようになったのは大きな変化だと思います。
加勢本 そう考えると、変わらないのはドラムセットくらいですね(笑)。
──同じメンバーでバンドを20年も続けることは、決して簡単なことではないと思います。この20年間にバンドを辞めよう、音楽をあきらめようと思ったことはありましたか?
加勢本 自分は何度かありました。メンタル的な変化も大きいですけど、それ以上に1つのことを続けるのって大変なことじゃないですか。でも、この活動ペースだからこそ乗り越えられたのかもしれないですね。ほかのメンバーはどうなんだろう。
田村 僕はなかったかな。逆に最近は、ここまで長く続いたからこそちょっと視点を変えて、ソロ活動にも力を入れてみたいなと思っていて。そうやって外に出ていくことでガス抜きできることもあるし、得られるものも多いと思うので。もちろんこれはネガティブな意味ではなくて、バンドをさらに続けるうえでのポジティブな選択ですからね。
山里 僕も大なり小なり、そういうタイミングはありましたけど、結果的に今もこうしてバンドとして動いているのが現実です。今年は節目でもあるからライブも定期的にありますし、アメリカにも行きましたし、9月には大好きなFreak Kitchen(※1990年代から活躍するスウェーデンのヘヴィメタルバンド)の来日公演での前座も決まっていますし。結局、人間って続けることによってプラスのほうが大きくなって、不思議とマイナスなことは忘れがちになるんですよね。
田村 忘れちゃダメだよ(笑)。
山里 (笑)。まあ……長く続ければ続けるほど、先にいろんなワクワクが待っていたので、結果正解だったと思います。
福里 俺は……(田村に向けて)あったと思う?
田村 なかったみたいです(笑)。
加勢本 確かにそういう話、一度も聞いたことないな。
福里 覚えてないんですよ。覚えてないってことは、たぶんなかったんでしょうね。
田村 彼はそういうことを絶対に口にしないタイプなんですよ。バンドにとってのバランサーなので。
福里 できるだけフラットでいるようにしています。
「GUILTY GEAR」シリーズのファンに失礼のないように
──4月25日にはフルアルバム「INVISIBRUISE」(2023年発表)から約1年半ぶりとなる新曲「AXCLUSION」をリリースしました。4月から放送中のアニメ「GUILTY GEAR STRIVE: DUAL RULERS」のオープニング主題歌としてオンエア中ですが、スピード感の強いアニメ映像ともリンクしたカッコいい仕上がりです。「ROAR」同様、今回もアニメ制作サイドとやりとりを重ねながら制作を進めていったのでしょうか?
田村 プロデューサーさんが、僕らにほぼ直接のような形でオファーをしてくださって。最初から「自由にやってください」と言っていただけて、終始のびのびとやらせてもらえました。逆にこちら側から「何か入れたいワードとかありましたら、事前に教えてください」と言ったくらいでしたからね。
──それくらい信頼されて、自由に制作させてもらえたと。
田村 そうなんです。珍しいですよね、ここまで自由にやらせてもらえるのは。かと言って、前回がそんなにガチガチだったというわけではないんですけれど、それでも言葉選びに関しては共同制作で入ってくれた作詞家さんにいろいろ教えを乞いましたし、制作サイドからも「このパートの尺をもう少し短くできませんか?」「ここのシャウトを短くできませんか?」という注文もありましたから。それと比べると、だいぶ自由にお任せいただけたのかなと思います。
──確かに、「ROAR」に関してはプロの作詞家さんが制作に携わったり、レコーディングにも制作サイドが立ち会ったりしたと聞きましたから(参照:ulma sound junction「INVISIBRUISE」インタビュー|メジャー1stフルアルバムで示す無限の可能性)、今回も同様の形で制作したのかなと思っていました。
田村 ですよね(笑)。前回の経験もあってなのか、今回は初期のデモ段階からかっちりと89秒の枠にもハマって、予想以上にスムーズに完成したんです。ただ、25年以上続いているゲームシリーズ初のアニメ化ということもあって、我々が「GUILTY GEAR」シリーズの土壌に踏み込むにあたってある程度のマナーはあったほうがいいんじゃないかと思って。そこは既存のファンの方にもわかってもらえるよう、めちゃめちゃ情報収集をさせていただきました。ゲームのサントラをはじめ、ゲームに差し込まれるムービー集やシナリオライターさんによる関連作品もチェックして、サントラでシンガーを務められてらっしゃるNAOKIさんとAISHAさんの歌い方もかなり意識して、「GUILTY GEAR」シリーズのファンの皆様に失礼のないような形で臨みました。
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ボーカル田村の“わがまま”