ナタリー PowerPush - 上坂すみれ

モモーイ! ボトムズ! テクノポップ! プロジェクトすみぺ第2章の幕が開く

この4月、デビューシングル「七つの海よりキミの海」で独特かつ圧倒的な世界観を見せつけた声優・上坂すみれ。アニメのオープニング曲ながらミリタリー、ロリータ、ニューウェイブ、昭和歌謡、中野ブロードウェイ、さらにはソビエト連邦と共産主義など、自らの愛するサブカルチャー的要素をブチ込んだその楽曲は今もアニソンシーン内外で多大な話題を集めている。

そんな彼女が7月10日にニューシングル「げんし、女子は、たいようだった。」をリリースした。テレビアニメ「げんしけん二代目」のオープニング曲である表題曲をはじめ、収録曲の作家には、前作の作詞家・畑亜貴に加え、上坂曰く「永遠の師匠」桃井はるこや、「シンセの神様」松武秀樹、「素晴らしきテクノ少年」佐野電磁(OMY)という、自身の趣味全開の面々をラインナップ。そんな最強の陣容とともに新たなる一歩を踏み出した彼女を直撃した。

取材・文 / 成松哲

「……私、マークされてるんですか?」

──前回のインタビュー(参照:上坂すみれ「七つの海よりキミの海」インタビュー)なんですけど、ビックリするくらいアクセスを集めたんですよ。

……もしかして私、マークされてるんですか?

──誰に?(笑)

反体制的な何かだと思われてないか、心配で……。それか、あれですかね? 休み時間の廊下ですれ違いざまにクラスメイトに「ぷっ!」って笑われるあの感じ?

──なんでそんなに卑屈なんですか(笑)。むしろ上級生や下級生までもが口々に「すみぺって面白いね」「あの子かわいいね」って言っている感じです。実際、Twitterやはてなブックマークのコメントは九分九厘、好意的なものでしたし。

あっ、そういうことですか! なんというか、皆さん懐が深くていらっしゃるというか……。

──あはははは(笑)。

決起集会(イベント)のときにも思うんですよ。自分でもなんとなくわかってはいるんですけど、決起集会のプログラムってメインカルチャーの要素が1つも投入されていない気がしていて……。

──“なんとなく”じゃなく“明確に”わかってますよね?(笑) 5月の決起集会で600人を前に投入した要素は社交ダンスと腹話術だったわけですから(参照:上坂すみれ、GWの決起集会で熱唱&腹話術!社交ダンスも)。

そうなんですよねえ(笑)。昭和に置き忘れてきたようなものだけで構成された世界なのに平成に生きる同志諸君(ファン)がついてきてくれるのはやっぱり不思議で……。でもやっぱりうれしくてっていう感じなんです。1人より600人と一緒のほうが楽しいですから(笑)。

ボトムズカルタはやめられない!

──その周囲と上坂さんの温度差って面白いですよね。ネットのみんながデビューから今に至るまで「上坂すみれ」をキーワードに盛り上がっているのに、当の本人はTwitterで「装甲騎兵ボトムズ」のオリジナルカルタを作るのにご執心だったりして。

もともとは「(A&G NEXT GENERATION)Lady Go!!」っていうインターネット番組でボトムズの曲と私の曲だけをかけて、私のカルタを作るっていう企画をやったのをきっかけに始めたことなんですけど、あれだけはやめられないです!

──ライフワークだから来る日も来る日も「『す』の読み札は『スペースオデッセイの幕が開く』です」みたいなことをつぶやいていた、と?

あはははは(笑)。そうです!

「こんなに気持ちを汲み取っていただけるなんて!」

──なんでこんな話をしたかというと、今回のシングルの表題曲「げんし、女子は、たいようだった。」ってネットの盛り上がりに対する本人からの回答なのかな?と思ったんです。

「回答」ですか?

──アニメ「げんしけん二代目」のオープニング曲でもあるから“100%上坂すみれ印”ではないものの、オタクとして、サブカルチャーの人として生きる上坂さんのことを歌った曲ではあるのかな?って。

まさにそうですね。

──しかも作詞作曲は上坂さんが声優になるきっかけを与えてくれた桃井はるこさん。敬愛する作家を迎えて、改めて「上坂すみれとは何者なのか」をアピールする自己紹介ソングに聞こえたんです。

ああ、なるほど。でも「七つの海よりキミの海」のときもそうだったんですけど、曲作りについてはホントにおまかせで。確かに桃井さんとはこれまでに何度か一緒にお仕事やお話をする機会があったんですけど「げんし~」の詞についての打ち合わせがあったわけではないんです。だからいただいた詞を見て私自身ビックリしました。「こんなに気持ちを汲み取っていただけるなんて!」って。

半地下から飛び立つ、がんばれ系ソング

──ただこの曲についてはいくつか疑問もあって。この詞って「ヲタもサブカルも どっちだっていいじゃない」と言いつつも「壁をぶっこわせ!」「クールもいいけど 熱くなりたいの」「素直になろっ!」と歌う、がんばれ・元気出せ系のメッセージソングと読めなくもない。

そうですね。

──前回お話を伺った限り、上坂さんのお部屋のCD棚、レコード棚にはこの手の言葉を発信するアーティストの音源はあまりない気がします。

あっ、私の中で桃井さんは特別な枠にいる人なんです。確かに私には根拠のないものに見えてしまう、苦手なタイプのがんばれ系はたくさんあって。そういう曲を聴くと「がんばってなんになるんじゃい!」って言いたくなっちゃうんですけど(笑)、桃井さんの詞は「がんばれ!」じゃなくて「がんばってみようよ」って言ってくれる。「私にとっては」なのかもしれないんですけど、ホントの意味でのポジティブソングなんです。「さいごのろっく」とか「ゆめのばとん」がまさにそうなんですけど、桃井さんのポジティブソングって私たちのようなオタクやインドア派と目線が一緒。地下0.5階くらいの場所で歌ってくれているんですよ。

──半地下にいたままでは、何もがんばっていないのと同じでは?

確かに最初は半分埋まってるような状態なんですけど(笑)、「さいごのろっく」や「ゆめのばとん」の桃井さんは最後には地上2メートルくらいまでジャンプしてくれていて。これが「何百メートルでも飛べるぜ!」「どこまでも行けるぜ!」って言われちゃうと「ムリだよおー」ってなっちゃうんですけど、2メートルなら跳べる気がするし、跳んだら何かが変わる気がするんです。

上坂すみれ 2ndシングル「げんし、女子は、たいようだった。」 / 2013年7月10日発売 / スターチャイルド
初回限定盤[CD+DVD] / 1700円 / KICM-91455
アニメ盤[CD] / 1500円 / KICM-91456
通常盤[CD] / 1200円 / KICM-1457
CD収録曲
  1. げんし、女子は、たいようだった。
  2. テトリアシトリ
  3. SUMIRE #propaganda
    (※通常盤のみ収録)
初回限定盤DVD収録内容
  • 「げんし、女子は、たいようだった。」Music Video
上坂すみれ(うえさかすみれ)

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優。小学生時代よりジュニアモデルとして活動。2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューし、同年「中二病でも恋がしたい!」や「ガールズ&パンツァー」など注目作に立て続けに出演する。その一方でラジオ、イベント、アニメ誌、カルチャー誌などを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。7月に桃井はるこ作詞作曲による2ndシングル「げんし、女子は、たいようだった。」をリリースした。