RAY特集 内山結愛×マーク・ガードナー|グループを新たな領域へ導く夢の提供曲「Bittersweet」

「極北を目指すオルタナティヴアイドル」というキャッチを掲げ、シューゲイザーを軸にエモやオルタナ、エレクトロなど多彩な音楽を取り込みながらエッジィな表現を研ぎ澄まし続けてきたRAY。結成7年目を迎えた彼女たちが放つ4thアルバム「White」は、おなじみの作家陣に加えて新進気鋭のバンドや初参加アーティストも迎え入れ、まさに“全曲が主役”と呼ぶにふさわしい仕上がりとなった。

その中でもリードトラック「Bittersweet」は、シューゲイザーの伝説的バンド・Rideのマーク・ガードナーが手がけた特別な1曲だ。アルバムのリリースを記念して、「White」の多彩さを象徴するこの楽曲を軸に、アイドル界きっての音楽通でありRideを敬愛するRAYの内山結愛と、マーク・ガードナーによるスペシャルなクロストークが実現。イギリスと日本をリモートでつなぎ、「Bittersweet」制作の舞台裏、内山のRide愛、マーク・ガードナーから見たRAYの印象などの話題を中心に、2人に濃密なトークを繰り広げてもらった。

なお、本取材の通訳はRAYのメインライターであり、「Bittersweet」の編曲を手がけた管梓(ex. For Tracy Hyde、エイプリルブルー)が担当した。

取材・文 / 田口俊輔通訳 / 管梓(ex. For Tracy Hyde、エイプリルブルー)

楽曲を提供いただけると聞いたときは冗談だと思った

内山結愛 はじめまして。RAYの内山結愛と申します。こうしてマークさんとお話しできることを、大変光栄に思います。

マーク・ガードナー よろしくお願いします。内山さんのことは映像で観たので、知っていますよ。

内山 本当ですか!? 恐縮です……。今日は朝起きた瞬間からずっと、楽しみと緊張で胸がいっぱいで、正直今も混乱しています。

──内山さんの緊張がこちらにも伝わってきます(笑)。内山さんがシューゲイザーを好きになったきっかけは、Rideのアルバム「Nowhere」であるとSNSに書かれていましたね。その特別な存在であるマーク・ガードナーさんから楽曲を提供していただけると聞いたときは、どんな気持ちでした?

内山 夢のような話すぎて、正直、プロデューサーの冗談だと思ったんです。

マーク ハハハ!

内山 しかも、ライブ内で「重大発表!」と大々的に告げられたわけでもなく、けっこうサラッと伝えられたので、余計に「何言っているんだろう?」と理解できませんでした。「まさか? ……いやいや、あり得ない!」と、疑心暗鬼のまま過ごしていたら、本当に楽曲をいただけて。RAYが始動して7年目。今まで誠実に音楽と向き合い続け、その結果、憧れのマークさんに楽曲を提供していただけるまでの存在に私たちはなれたんだと、その事実を受け止められた瞬間、ジワーッと感動がこみ上げてきました。

RAY

RAY

マーク そこまで思ってもらえたのは、うれしいですね。私はRide結成初期から日本と不思議な縁を持ち続けてきました。曲を発表するたびに日本から強い反応をいただき、来日することもどんどん増えました。そして来日のたびに、まるでThe Beatlesのような大歓迎を受けるようになったんです(笑)。こうなるとは夢にも思っていませんでした。内山さんに「特別な存在」と言っていただけるのも、とても不思議なことです。もし今回の曲がヒットしたら、日本で皆さんとお寿司を食べたり、お酒を飲んだりしながら一緒にお祝いしたいですね。

内山 食べたい! 一緒にお寿司食べたいです!

マーク OK! 絶対にですよ(笑)。

音楽とは「進化する必要があるもの」

──マークさんは、どういった流れでRAYに楽曲提供することになったのでしょうか?

マーク まず私たちには、For Tracy Hyde(※管梓が組んでいたバンド。5thアルバム「Hotel Insomnia」をマークがマスタリングした)をはじめとした、共通の友人がいて。その縁から依頼をもらいました。私は音楽を通じた人と人とのつながりを大事にしていますし、音楽を通じて新しいことをやるのが大好きなんですよ。RAYの作品に携わることが非常に新しい挑戦になると思い、情熱を持って「ぜひこのプロジェクトに参加したい!」とお伝えしました。

──楽曲制作に辺り、RAYの過去の音源や映像には触れましたか?

マーク 実は……あえてまったく触れませんでした。それはほかのアーティストと仕事をするときも同じ。理由は1つ、曲を聴いてしまうことで「こういうグループなら、こういう曲が合うだろう」という先入観が自分の中に生まれてしまう恐れがあるからです。勝手に私がイメージを決めてしまうのはよくない。まっさらな気持ちで曲作りに臨みたいんですよ。それに私はシューゲイザーという音楽がどういうジャンルなのかは理解しているけれど、“シューゲイザーの定義”は全然わかりません。その中で、新しい曲を作るときに常に心がけているのは、「これまでの人生で書いた中で最高の曲になるだろう」という気持ちで臨むこと。アコースティックギター1本で弾いて歌っても「いいね」と思える曲を作り、完成した作品を渡し、その音に合ったアレンジを施してもらう──それこそが、今回の曲を作るうえでの正解で、最も重要なことだと思いました。RAYの映像や楽曲に触れたのは、ほとんど曲作りが終わった頃です。内山さんたちが踊る姿を「なるほど、こういう感じなんだ」と興味深く拝見しました。

RAY(撮影:ヤギタツノリ)

RAY(撮影:ヤギタツノリ)

──具体的にはどのような感想を抱きましたか?

マーク 女の子たちによるダンスとパフォーマンスがシューゲイザーという音楽と結び付いている様子がとても新しくて、すぐに好きになりました。私は音楽とは「進化する必要があるもの」だと考えていて。正直な話、私はこれまで男性のシューゲイザーバンドがうつむいて演奏している光景を、飽きるほど見てきたんですよ(笑)。RAYが新しい発想で音楽を更新していこうとする姿勢こそ先進的で刺激的。とても素晴らしい活動をしていると思いましたね。

内山 RAYは昔、「うつむかないシューゲイザー」と説明していた時期があったんです。

マーク ハハハ!

内山 私たちが目指している活動のテーマをマークさんも感じ取ってくださり、しかも刺激的だと思ってもらえるなんて……感激しています。

マーク 今、退屈な音楽に合わせてパフォーマンスをするグループがいっぱいいる中、RAYのように誰も想像しなかったような新しい音楽の領域に踏み込むグループがいるのは素晴らしいことです。そして私もRAYを通じて、普段触れることのない新しい(アイドルの)世界に私も踏み込めたのは、とても魅力的な出来事でしたね。

内山 日本のアイドル文化……RAYはけっこう変わっていて、王道ではないかもしれないけど、マークさんが日本のアイドル文化に触れるきっかけになれたのなら幸せです。

「恋愛」を軸に「人間関係に潜む混乱」を描いた

マーク 「Bittersweet」は「恋愛」を題材に、「人間関係に潜む混乱」を描きました。誰しも人と一緒にいると、今この瞬間が幸せに思えたとしても、別の瞬間になれば「もう嫌だ。この関係を早く終わらせたい」と感じることがある。その「好きかもしれない、いや好きじゃないかも……」と揺れ動く感情は、他人と関係を続けていくうえで永遠につきまといます。その難しさ、二面性をアイデアにして楽曲を制作していきました。

RAY「Bittersweet」配信ジャケット

RAY「Bittersweet」配信ジャケット

──「Bittersweet」の歌詞は、かなり抽象的で哲学的な言葉が並んでいますよね。内山さんは「Bittersweet」の歌詞をどのように読み解きましたか?

内山 RAYには直接的な表現での恋愛の歌がほぼなく、どちらかと言えば愛についてやんわりと歌う曲が多いんです。その私たちが歌い続けている抽象的な愛を「Bittersweet」からも感じたので、自分の中にスッと入ってきました。

マーク 解釈の余地がある歌詞と感じてくれたんですね。実は、書いた本人である私にとってもこの歌詞の正解はないんですよ。人と人の関係性の曖昧さの最中にいるときは、誰にも答えがわからないし、私は答えより質問や疑問を多く持っている人間。その答えのない不確かな感情が表れていることを理解してくれてうれしいですね。

内山 私も常に何かを考え込んでしまう人間なんです。マークさんも“答え”より質問や疑問を多く持っていらっしゃるんですね。……おこがましいですが、「同じ人間なんだ!」と思わず感動しちゃいました。私にとって、本当に神様のような存在なので。

マーク そう言ってもらえて光栄です(笑)。いろいろな疑問を抱いて模索することは、創作するうえで大事なこと。そして同じように疑問を持つ人たちを安心させてあげるのも、アーティストにとって大切な役目だと思います。内山さんが常に考え疑問を持ち続けていることは、とても意味のある大事なことですよ。

内山 (胸に手を当て)ありがたきお言葉です。

マーク そして人の心では、無意識下にいろいろなことが起きています。それは音楽も同じ。音はただの周波数であると同時に、感情をはじめさまざまなものが隠されています。その「隠されたもの」は、もしかしたら完全には捉えられないものかもしれない。けど、その曖昧さ、捉えきれないものの中から“何か”を受け取る瞬間に、音楽の素晴らしさがあると思うんです。「Bittersweet」からその“何か”を受け取ってもらえたら、今作を作った意義がありますね。

内山 まるで哲学の本を読んでいる気分です。自分も音楽を聴くときは、表面的なことだけじゃなく、「この歌詞は、この音は、こういうことを伝えたいんじゃないか?」と勝手に裏を読んで想像しては、楽しんだり感動したりしています。マークさんも私と同じような形で音楽を楽しんでいらっしゃるとわかって本当にうれしい。……ずっと、気持ち悪いオタクみたいで、本当に申し訳ありません(笑)。