ナタリー PowerPush - 上坂すみれ

モモーイ! ボトムズ! テクノポップ! プロジェクトすみぺ第2章の幕が開く

「ポジティブとネガティブの狭間」で響く桃井ロック

上坂すみれ

──言ってしまえば、桃井さんは分をわきまえた上で前を向こうとするから上坂さんも乗れる?

そうなんでしょうね。「げんし~」の歌詞ってけっこう葛藤がある気がするんですよ。「書を捨てないで街へ出て 君に会いたい」っていうフレーズは「書を捨て」られないけど「君と会いたい」から「街へ出」たいっていう意味。インドアを捨てられない私のような人に向かって「それでもポジティブになれるよ」って手を差し伸べてくれる言葉ですから。だからこの詞が好きなんです。

──サウンドは? シンコペーションしまくる派手なギターロックに仕上がってますけど、この手の音源って上坂さんのCD棚には……。

あんまり……というか皆無ですね(笑)。

──ところが桃井さんって実はこの手の正統派ギターロックの名手ですよね? 今作のアレンジャーであるHaraddyさんや鈴木勝彦さんと組んだ一連の楽曲もそうだし、小池雅也さんとのユニット・UNDER17の音なんてまさにそれだし。

そうなんですよね! ピコピコ系もいっぱい作ってらっしゃるんですけど、江ノ島にドライブに出かけたくなるような曲も多いんですよね。

──なぜ上坂さんの中で桃井ロックだけはアリなんですかね?

……うーん、なんでなんでしょうねえ。もしサウンドが人間椅子っぽかったらこの曲って全然違うものになっていたと思うんですよ(笑)。

──絶対に歌詞の聞こえ方が変わってきますね(笑)。

「もうポジティブなんて捨てようぜ」って曲になると思うし、逆にこのサウンドに「♪僕らは一緒に歩んでいくぜー」みたいな歌詞が乗っていたら、私は苦手だと思ったはずですし。でもこの太陽のごときメロディとアレンジの上に、この言葉が乗るから、歌詞を読んだときと同じ気持ちになれるんだと思います。ポジティブとネガティブの狭間みたいなものが感じられるから、正統派ロックにハマったことのない私でも桃井ロックはカッコいいと思えるんでしょうね。

上坂すみれ、桃井はるこの仕組みに憧れる

──実は苦手なジャンルの音楽であっても、桃井はるこというクリエイターが媒介になってくれればチャーミングに見えるということ?

そうですね。だから曲そのもの以上に、桃井さんの心意気やあり方そのものに憧れてるんだと思います。桃井さんの歌うことってすごく個性的で、言ってしまえばサブカル方面、電波方面に偏っていることもあるとは思うんです。最初にハマった桃井さんの曲は、UNDER17の「天罰!エンジェルラヴィ」なんですけど「この歌、『エンジェルラヴィ』と『あうあうあ』しか言ってない!」ってビックリしましたし(笑)。

──曲の頭なんて「天罰!」を連呼してるだけだし(笑)。

でも合いの手の「フー!」「フー!」がメッチャかわいくて! 桃井さんはそうやって、もしかしたら難解なのかもしれないものを、かわいらしいメロディと正統派ロックサウンドに乗せることで、ものすごく親しみやすいものに作り替えてくれるんです。そしてみんなを一気に自分の世界に連れて行ってしまう。その仕組みみたいなものに憧れているので、私自身、桃井さんを完全にコピーしようとは思ってなくて。あのやり方や貫き方を見習いたいんです。私の中では永遠の師匠になっていただくことが確定しているので(笑)、一生追随していこうと思ってます!

──表現者としてはライバルなんだから追い抜きましょうよ(笑)。

いやあ、後光がまぶしすぎて……。

──光に目がくらんで前に進めない、と(笑)。ちなみにその桃井ロックの粋を集めた「げんし~」をより立体的に楽しむためには、どんな曲を聴いてみるといいと思います?

やっぱり桃井さんの「さいごのろっく」ですね。あの曲も正統派ロックに乗せて「にごった水槽から飛び出したい」っていう半地下的なところから出発する人のことを歌った曲ですから。歌い方も力強いし、私みたいなオタクの励みになった曲、オタクの励みになりすぎた曲ですから(笑)。

神の作りし「アンドロイド」的新しさ

──2曲目の「テトリアシトリ」は同じ桃井さんの作詞作曲ながら、アレンジャーはYMO第4の男・松武秀樹さん。上坂さんのCD棚にも絶対にあるタイプのサウンドです。

もちろんです! シンセの神様ですから!

──その“神曲”を初めて聴いたときの感想は?

感動的なピッタリ具合でした。以前お話させていただいた通り「七つの海よりキミの海」のレコーディング前にプロデューサーさんに「80年代テクノが好きです」とは言っていて。「いつかそういう曲ができるのかもね」とは思っていたんですけど「まさかこんなに早く、しかも神様にこんなドンピシャリな曲を書いていただけるとは!」ってやっぱりビックリしましたね。

──イントロのタムといい、メロディの後ろで鳴ってるシーケンスパターンといい、どの音も絶妙にレトロな電子音なんですよね。

YMOの皆さんがアイドルさんのために作った曲を集めた「イエローマジック歌謡曲」みたいなコンピ盤にシレッと混ぜておいてほしい感じですよね(笑)。

──それでいてちゃんとイマドキっぽいトランシーな4つ打ちダンスミュージックに仕上がっている。

私自身は「ロボット」よりちょっと新しい感じ。「アンドロイド」っぽいなと思っていて。「お願い、早く来て、あなたの場所、あけてあるから」なんてセリフを言っちゃうくらいだから感情もあるにはあるんだけど、メロディやアレンジはどこかクールなイメージ。歌も完全なるロボットではないんだけど、感情むき出しにはならないように。淡々としてはいるんだけど、どこかかわいらしく歌えたかな、とは思ってます。

──詞も「○○だけど××」っていう構造ですよね。タイトルがダジャレになっている通り、一見ラブソングのようだけど実は「テトリス」の歌。「七つのブロック」はゲームに出てくるブロックのことだし「あなたの場所、あけてあるから」っていうセリフはあと1本、縦長のブロックが降ってくれば……。

テトリス完成だぞ! クリアだぞ!って(笑)。2000年代以降のアニソン・電波ソング的な言葉遊びを散りばめた桃井さんの詞のおかげもあるから「テトリアシトリ」はレトロに走りすぎない。今の曲に聞こえるんでしょうね。

上坂すみれ 2ndシングル「げんし、女子は、たいようだった。」 / 2013年7月10日発売 / スターチャイルド
初回限定盤[CD+DVD] / 1700円 / KICM-91455
アニメ盤[CD] / 1500円 / KICM-91456
通常盤[CD] / 1200円 / KICM-1457
CD収録曲
  1. げんし、女子は、たいようだった。
  2. テトリアシトリ
  3. SUMIRE #propaganda
    (※通常盤のみ収録)
初回限定盤DVD収録内容
  • 「げんし、女子は、たいようだった。」Music Video
上坂すみれ(うえさかすみれ)

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優。小学生時代よりジュニアモデルとして活動。2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューし、同年「中二病でも恋がしたい!」や「ガールズ&パンツァー」など注目作に立て続けに出演する。その一方でラジオ、イベント、アニメ誌、カルチャー誌などを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。7月に桃井はるこ作詞作曲による2ndシングル「げんし、女子は、たいようだった。」をリリースした。