音楽ナタリー Power Push - 山中さわお(the pillows)×登坂絵莉(リオ五輪レスリング女子金メダリスト)

金メダル獲得を支えた戦いの歌

山中さわお単独インタビュー

「オルタナ封印」解除に至ったバンドのムード

──「NOOK IN THE BRAIN」は通算21枚目のオリジナルフルアルバムになりますが、また新たな段階に入ったというか、今までに聴いたことがないピロウズの音が鳴っていて驚きました。

うん、なんだかね。いろんな人がすごく好意的な感想を伝えてくれるし、いいアルバムができたと思ってる。

──前作「STROLL AND ROLL」発売時のインタビューで「ピロウズではオルタナを封印した」という話がありましたけど(参照:the pillows「STROLL AND ROLL」発売記念特集 山中さわお×上田健司対談)、新作がよりアグレッシブで強気とも取れるオルタナティブロックに向かった理由を聞かせてください。

けっこう単純かな。俺は相変わらず曲を作るのが趣味なので、「STROLL AND ROLL TOUR」(2016年5~7月に行われた全国ツアー)を機嫌よく回りながら、いつも通りいろんな街のホテルで移動日なんかに作ってたの。ピロウズ、THE PREDATORS、Casablanca……どのバンドで演奏するかは最初考えないから、無作為にどんどんね。そしたら、このアルバムに入ってるような、いわゆる「ピロウズのオルタナ」っぽい曲がたくさんできちゃって。なおかつ、とても気に入ってしまい、これ全部に蓋をしてしまうのは不自然だなっていう。あとは活動休止明けの「ムーンダスト」(2014年10月発売のアルバム)、「STROLL AND ROLL」、そして今回の「NOOK IN THE BRAIN」と、アルバムごとにメンバー間のムードがよくなってるのも大きいと思う。

──というと?

山中さわお

こんなに長くやってて、もう結成28年目なのに今が一番やりやすいし、音楽的なことはもちろん、日常会話もちゃんと交わすようになったというか(笑)。俺よりもむしろ真鍋(吉明 / G)くんと(佐藤)シンイチロウ(Dr)くんが活動休止を経て「これからもピロウズを続けて前に進んでいくのであれば、何か意識を変えなければならない」と思ったのかな。予想してなかった事態だよ。前言撤回じゃないけど、オルタナ色の強いアルバムができちゃうくらい。真鍋くんなんて、すごく等身大になった気がする。わかんないことがあったらわかんないって前より言ってくれるし、後輩のギタリストと飲みに行ったりもしてるし。

──さわおさんが思うオルタナティブについても、改めて聞いていいですか?

まず、オルタナティブミュージックというのはモッズとも似ているワードで、本来の意味では進化し続けなければならないと思うんだよね。でも、結局モッズはもうモダンではないじゃない? 1960年代のイギリスを中心としたカルチャーをコピーするのがモッズの主流で、それは真逆のトラディショナルだと言ってもいい。オルタナティブミュージックはモッズに比べたら変化してるかもしれないけど、そうだな……Pixies、The Breeders、Nirvana。そこから派生したものがゆっくりとアメリカのカントリーミュージックの方向に近付いていく流れを、俺の中ではオルタナティブと捉えてる。ただ、ピロウズが1999年当時に鳴らしてた「LAST DINOSAUR」(1999年12月発売のアルバム「HAPPY BIVOUAC」収録曲)はオルタナティブロックだったけど、今あの曲をそう表現すると若い子が混乱しちゃうんだよね。もはや普通のロックとして日本に根付いてるので、2017年の時点では違うだろうなっていう。

師匠に誉めてもらえるクオリティを

──「NOOK IN THE BRAIN」の制作において、進化した点を挙げるならどんなところでしょう?

曲を作るときに進化は求めてないかな。全部「STROLL AND ROLL TOUR」の最中に書いたんだけど、1999~2000年初頭くらいと同じような曲作りをしたつもりだよ。一方で、リスナーがそんなに興味ないであろうミックスの話とか(笑)、そういうことは常に悩んでるし、自分の中でブームは変わるから。その点で言うと「新しい音にしよう」とはすごく考えたね。

──1曲目の「Envy」からノイジーで歪んだ、脳が痺れるような音像が印象的です。イメージだけで例えるなら、それこそ1999年発表のアルバム「RUNNERS HIGH」を彷彿とさせるエッジがありつつ、従来のオルタナ / グランジテイストとは異なる質感だと思いました。

「トライアル」(2012年発売のアルバム)までは「ハイファイな音」って言葉をやたらと口にしてた。でも、その前の「OOPARTS」(2009年発売のアルバム)、「HORN AGAIN」(2011年発売のアルバム)を含めた3作でその結果が伴ったから、気が済んだところはあるね。そんなシフトチェンジのタイミングで、16年ぶりに続編が出るアニメ「フリクリ」のサウンドトラックの話が来てさ。となれば、そこに新曲も書くでしょうと。ツアーでも「またフリクリやるよ」ってMCに絡めて「Ride on shooting star」(2000~01年に発売されたOVA「フリクリ」のエンディングテーマ)を演奏したのがすごく楽しかったの。で、ひさしぶりにその頃のアルバムを聴いたら、まったくハイファイではないけども面白さがあった。例えば、ギターのピックアップはハムバッキングじゃなくてシングルコイルだったとか、記憶と違う「そうだっけ!?」って驚きがいっぱいで、吉田仁(SALON MUSIC)さんプロデュースによるミックスの感じもよくて。そういうのが今作に影響してるかもしれない。

──単にローファイとも言えない、不思議なバランスの音だなって。

ローファイではないね。そうだ! アルバムのレコーディングに入る前、Casablancaのライブを仁さんが観に来てくれたんだよ。ひさびさに会ったら「最近のピロウズの音源はけっこう平面的でよくない」って言われて、「おっ……ヤバいな」と。もちろんめちゃくちゃ情熱を注いでやってるんだけど、「LIVING FIELD」(1995年発売のアルバム)から「PIED PIPER」(2008年発売のアルバム)まで長きにわたってプロデュースしていただいた師匠にダメ出しされてしまったので、そこは真摯に受け止めて。リスナーとしてじゃなくチェックをする感じで、昔のピロウズの音を改めて聴いたり、PixiesやWeezerの音源を振り返ってみたりね。仁さんに「よくなったね」って誉めてもらえるクオリティのものを作りたかったから。

──そんなこともあったんですね。

うん。その流れで、センスという点で俺が絶大な信頼を置いてるのはやはりストレイテナーだなと思って、彼らの新譜「COLD DISC」(2016年発売のアルバム)を聴いたりもした。上も下も迫力があって、広がりのある、あの音のよさを取り入れたくてさ。ま、もともと作る楽曲も違うし、ボーカルもホリエ(アツシ)くんのほうがドライだし、ああいうふうにはなりようがないよ? でも、ドラムのキックやベースの鳴りの大胆さはヒントになったかな。仁さんが言ってた「平面的になってる」って言葉が理解できた気がして、それを元にエンジニアにやりたい音を伝えていったことは、仕上がりにいい影響を与えたはずだよ。

the pillows ニューアルバム「NOOK IN THE BRAIN」2017年3月8日発売 / DELICIOUS LABEL
「NOOK IN THE BRAIN」
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / QECD-90003
通常盤 [CD] 3240円 / QECD-10003
CD収録曲
  1. Envy
  2. 王様になれ
  3. Hang a vulture!
  4. パーフェクト・アイディア
  5. Coooming sooon
  6. She looks like new-born baby
  7. pulse
  8. ジェラニエ
  9. BE WILD
  10. Where do I go?
初回限定盤DVD収録内容
  • Envy(Music Video)
  • 王様になれ(Music Video)
  • Hang a vulture!(Music Video)
the pillows(ピロウズ)
the pillows

山中さわお(Vo, G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)の3人からなるロックバンド。1989年に結成され、当初は上田健司(B)を含む4人編成で活動していた。1991年にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビュー。結成20周年を迎えた2009年9月には初の東京・日本武道館公演を行い、大成功に収めた。2012年にはバンドを一時休止し、山中と真鍋はそれぞれソロアルバムを発表。2013年の再始動後は再び精力的な活動を展開し、2014年2月には結成25周年を記念したトリビュートアルバム「ROCK AND SYMPATHY -tribute to the pillows-」、同年10月にはオリジナルアルバム「ムーンダスト」が発売された。2017年3月には通算21枚目となるオリジナルアルバム「NOOK IN THE BRAIN」をリリース。5~7月には全27公演のライブツアー「NOOK IN THE BRAIN TOUR」を行う。