ナタリー PowerPush - the HIATUS
細美武士が振り返る“17人組バンドthe HIATUS”
ツアーに向けたリハーサルの様子とスタジオライブを収録した映像作品として昨年9月にDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」をリリースし、その後11~12月に全10公演のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を大成功させたthe HIATUS。彼らはストリングスやホーンを交えた17人編成で臨んだこのツアーから、ファイナルにあたる東京・NHKホール公演の模様をライブDVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」として作品化した。
バンドのフロントマンである細美武士は、壮大なツアーについて、そしてその模様を収めた本作について何を思っているのだろう? 彼に話を聞いた。
取材・文 / 小野田雄 インタビュー撮影 / 井出眞諭
一生忘れない思い出がまた1つ増えた
──今回のDVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」は、2011年11月リリースのアルバム「A World Of Pandemonium」、ツアーのリハの様子とスタジオライブを収録したDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」と続いた流れの集大成的な作品になりました。ご自分では完成した作品をどうご覧になりましたか?
映像を改めて観たら、今回のツアーほど長い時間をかけて準備をした経験がこれまでなかったこともあって、みんなでリハーサルをやったり、曲順を決めたり、曲と曲の間のインタールードを作ったりっていうたくさんの思い出がどんどんよみがえってきました。こんなに長くて大きなプロジェクトは人生において何度もできるようなことではないだろうし、オーケストラと一緒にステージに立つこと自体が自分にとって初めての経験だったんです。だから自分の中で一生忘れない思い出がまた1つ増えたなって思いますね。しかも写真やお土産が旅の思い出になるように、今回のツアーが映像作品として動画で残っているということもすごくうれしいです。
──前作DVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」に収録されたスタジオライブはほとんどが「A World Of Pandemonium」収録曲で構成されていましたけど、本作を観ると1stアルバムや2ndアルバムの曲も演奏していますね。それらのアレンジはどのように?
2011年の年末から2012年の春まで続いた「A World Of Pandemonium」のツアーで自分たちの曲に対する理解や解釈が深まっていって、「A World Of Pandemonium」の収録曲もそれ以前の曲もアレンジが変化していったんです。だから今回はゼロから作り直すというよりは、その変化したアレンジをベースに、オーケストラを交えて表現し直すという感覚でした。具体的には、ライブのときと同じアレンジで1度録ってみて、その音源をオーケストラアレンジ担当の徳澤青弦に渡して。そして彼がオーケストラアレンジを行い、それをMIDIで再現していきました。さらにその音源と合わせて演奏しながら各パートのアレンジを詰めていったんです。その後できた曲を並べて、曲と曲をつなぐインタールードを作ったりして曲順を固めて。その後はオーケストラを交えた全員でスタジオに入ってリハーサルを重ねながら、録って聴いて直して……という作業をしていきました。
──準備にそれほど手間ひまかけたツアーはそうあるものではないですし、観る側にとっても本当に贅沢な音楽体験でした。よくあるバンドとオーケストラの共演というのは、個人的には“オーケストラを借りてきた”という体のいわば番外編的なライブになっていることが多いと思うんですけど、でも今回の場合はオーケストラを含む17人が密に結びついた大編成のバンドによるライブになっているように感じました。
このプロジェクトを構想しているとき、例えばBROKEN SOCIAL SCENE(カナダの大所帯バンド)みたいに、バンドの中にタブーを設けず、作品やライブによってメンバーが10人のときもあれば20人のときもあって、使う楽器が全然違ってもいいっていう柔軟なスタンスでいたかったんですね。だから最初に青弦と今回のライブについて話したときも、彼から「the HIATUSの5人も弦管のメンバーも全員同列に考えたライブということでいいんだよね?」って確認されて。俺も「最初からそのつもりだよ」って返したんです。
ぶっちゃけこれ、よくやったよなって思う
──しかし“17人を同列に考えたライブ”というのは簡単に実現できることじゃないですよね。
最初は「大変そうだな」とはまったく考えてなかったです。でもいざ現場に入ってみると、モニター卓の回線が足りなかったり、そもそもモニターエンジニアも1人しかいないので、さばききれなくて「どうしよう!」ってことになったり……今まで経験したことがない課題がいろいろ出てきて。そこで重要だったのは、「このツアーをやりたい」っていうみんなの思いでした。もし「あれはどうしよう? これはどうしよう?」ってことを先に考えていたら実現できなかったと思いますし、「やりたい!」っていう思いが先立っていたからこそ、「大変だろうな」って考えるよりも目の前の課題を1つひとつクリアしながらツアーを実現できたんです。ただ完成した映像を観ると、ぶっちゃけ自分でも「これ、よくやったよな」とひとごとのように思いますね(笑)。
──はははは(笑)。
あとは今回、よく映画のメイキング映像なんかに出てくるような、関係者が長机を囲むようにずらっと集まって、意見や議論を飛び交わせるミーティングをしょっちゅうやってました(笑)。そのメンバーが1つのコミュニティになって、みんなで1~2年と突っ走って、最後は家族みたいになっていくようなイメージっていうか。そういう集まりは普通にバンドをやっていても経験できないものだから、音響のエンジニアさんたち、照明のエンジニアさんたち、ツアーマネージャー、バンドメンバーも含めたツアースタッフ全員で集まって、1から共有していったんです。例えば「どういうステージセットにしようか?」っていう話し合いの中で提示されたセットを叩き台にして、「でもこのソファとこの照明って、年代も地域もバラバラじゃないですか?」みたいな意見を出し合って。
──そんな細かいところまで?
そう。そういうことをやってみたかったんです(笑)。
- DVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」 / 2013年5月22日発売 / NAYUTAWAVE RECORDS
- [DVD] 3000円 / UPBH-20107
- [Blu-ray Disc] 3990円 / UPXH-20021
収録曲
- The Afterglow
- Deerhounds
- Flyleaf
- Ghost In The Rain
- My Own Worst Enemy
- Bittersweet / Hatching Mayflies
- Shimmer
- The Ivy
- Little Odyssey
- Monkeys
- ベテルギウスの灯
- Snowflakes
- Walking Like A Man
- The Flare
- Superblock
- Insomnia
- Twisted Maple Trees
- Souls
- On Your Way Home
アンコール
- 紺碧の夜に
- Silver Birch
- ライブアルバム「The Afterglow Tour 2012」 / 2013年5月22日発売 / フォーライフミュージックエンタテインメント / 2520円 / FLCF-4454
- ライブアルバム「The Afterglow Tour 2012」
DISC1
- The Afterglow
- Deerhounds
- Flyleaf
- Ghost In The Rain
- My Own Worst Enemy
- The Tower and The Snake
- Bittersweet / Hatching Mayflies
- Shimmer
- Broccoli
- The Ivy
- Little Odyssey
- Monkeys
- ベテルギウスの灯
DISC2
- Snowflakes
- Walking Like A Man
- The Flare
- Superblock
- Insomnia
- Twisted Maple Trees
- Souls
- On Your Way Home
- 紺碧の夜に
- Silver Birch
参加アーティスト
細美武士(Vo, G) / masasucks(G) / ウエノコウジ(B) / 柏倉隆史(Dr) / 堀江博久(Key) / 一瀬正和(B, Per, G) / 徳澤青弦(Cello, Glockenspiel) / 坂本美雨(Vo) / ジェイミー・ブレイク(Vo) / 梶谷裕子(Violin) / 菊地幹代(Viola) / 木ノ脇道元(Flute) / 類家心平(Tp) / 武嶋聡(Clarinet, Sax) / 滝本尚史(Tb) / 庄司知世(Horn) / 中村公輔(Manipulator)
the HIATUS(ざ はいえいたす)
現在活動休止中のELLEGARDENのフロントマン・細美武士を中心に結成され、ウエノコウジ(B)、堀江博久(Key)、柏倉隆史(Dr)、masasucks(G)、一瀬正和(Dr)、伊澤一葉(Key)らが参加するバンド。2009年4月にパンクロックフェス「PUNKSPRING 09」で初ライブを披露し、同年5月に1stアルバム「Trash We'd Love」をリリースした。その後もオルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつジャンル不問の新しい音楽を追究。2011年11月に3rdアルバム「A World Of Pandemonium」が発売される。 そして2012年9月にレーベルをNAYUTAWAVE RECORDSへ移籍し、「A World Of Pandemonium」にストリングスとホーンアレンジを加えたスタジオセッションドキュメンタリーDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」を発表し話題を集めた。同年11月からは、総勢17人編成で全国を回る初のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を開催。この東京公演の映像を収めたライブDVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」と、ライブ音源を収めた同名のライブアルバムを5月に同時リリースした。