ナタリー PowerPush - 高橋優
これが今、一番伝えたい歌 新曲「誰がために鐘は鳴る」
今聴いても、そのときの緊張や固さをリアルに思い出す
──もう1曲初回限定盤にボーナストラックとして入っている「この声」は、ニューヨークでの路上ライブを録ったものなんですよね。ライブからもう3カ月以上が経ちましたが、今振り返ってどんな経験でしたか?
結論から言うと、場所や人種や言葉は関係ないなって思ったんです。歌って届けたい人と、それを聴きたい人がいるかどうか。路上ってそれだけの原始的でシンプルなルールなんで、日本もアメリカも変わらないんだって気付きました。まったく新しい経験になるかと思ったけど、今まで日本でやってきたことの上に積み重なるものだったんです。ただ最初はすごい緊張もしたし、葛藤もあって。
──葛藤というのは?
こんなところで日本人が歌っていいのかな、ちゃんと届いているのかなって。Ustreamで中継していたから、日本で観ている人も1000人くらいいたんです。その気負いもあったし、シンプルな気持ちではいられなかったですね。収録されているのはニューヨークでの路上ライブで最初に歌った一発目なので、今聴いてもそのときの緊張や固さをリアルに思い出しますね。
──その不安な状態から、場所や言葉は関係ないと気付いたのはなぜだったんでしょう?
「福笑い」の歌詞にある「世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔だと思う」というメッセージを届けるのに一番いいのは、僕が実際に笑顔を伝染させることだ、ということでアメリカに行ったんです。最初は緊張したけど歌っているうちに手拍子をしてくれたり、声をかけてくれる人が出てきて、自分でその歌詞を実感したんですよね。向こうの人は反応がすごくストレートで、いきなり「アイムジョージ!」って握手してくれる人もいたし(笑)。
──日本じゃそんな人絶対いないですよね!
でも立ち止まらない人の「絶対聴かない!」って意思もすごいですよ。文句言って通り過ぎていくくらい。だから一方的に僕が歌う場ではなくて、対等なステージなんだなって実感しましたね。
今はまだ途中って言っていたい
──今高橋さんが考える、リアルタイム・シンガーソングライターとしての到達点、ゴールってどこにあるんでしょうか?
漠然とですけど、光に満ちた非の打ちどころのない世界なんです。でもそれは本当にあるのかも、どこにあるのかもわからない。家族といる瞬間に得られるかもしれないし、もしかしたらこのインタビューをしている今なのかもしれない。自分の曲についての考えをこうして聞いてもらえるなんて、簡単にできることじゃないから。路上でやっていた6年間は僕の曲なんて聴いてくれる人のほうが少なかったのに、ようやく興味を持ってもらえるようになって、記事にしてもらえるのはすごく幸せなことなんです。ゴールを設定して達成していくのも大切だと思うけど、次が見えなくなる恐怖もちょっとある。だから、今はまだ途中って言っていたいですね。
──アルバムに収録されていた「現実という名の怪物と戦う者たち」でも、「僕らは今きっと赴いている途中」って叫んでますよね。
そうですね、あれが本心です。アルバムができたときは「これ以上のものはもう作れない」って思ったんですけど、今はもっとやれる気がするんです。もう書きたいことはないと思うときもあるけど、寝て起きたら歌いたいことがどんどん湧いてきたりする。ゴールはずっと先な気がするけど、昨日だったかもしれないし明日かもしれない。そういう気持ちで毎日必死でやらせてもらってますし、やり続けていきたいです。
高橋優(たかはしゆう)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月にミニアルバム「僕らの平成ロックンロール」を全国リリースする。その後ワーナーミュージック・ジャパンと契約し、2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でデビュー。2011年4月にメジャー1stフルアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」を発表する。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞や、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声が支持を集めている。