ナタリー PowerPush - 高橋優
これが今、一番伝えたい歌 新曲「誰がために鐘は鳴る」
両極端な考えの間を射抜ける歌を歌いたい
──2曲目に収録されている「花のように」では「"本気で笑えているかい?"そういう歌を聴けば 胸の奥にチクッと刺さった針が また痛み出すのさ」という歌詞があります。これも、実際にそういう経験があるから書ける歌詞ですよね。
まさにそうですね。だからこれは、僕が本気で笑えていない瞬間があるから歌うんだと思います。「福笑い」は心から笑う素晴らしさを歌っているけど、なかなかそうはできない人もいると思うんです。僕もそういうときがあるんですよ、愛想笑いばかりしちゃったり。
──歌詞だけを読むとちょっとダークな雰囲気もありますけど、曲は明るくてすごく聴きやすいのがちょっと意外でした。
重いテーマをそのまま歌ったら聴く人もつらいと思うので、できるだけ明るく歌うというバランスは考えますね。あまのじゃくなんですよ、「明るい歌じゃん」とか「根暗な歌詞だね」だけで終わらせたくなくて。
──ただ重いテーマ性を抱えていても、ポジティブな思いだけを歌うという選択をするアーティストもいると思うんです。高橋さんがここまで正直に歌えてしまうのはなぜだろうと思っていて。
僕はひとつの事柄を見たときに、両極端な考えが浮かぶことが多いんです。何か事件が起きたら、「人間なんてバカみたい」と思うこともあるし「でも事情があったのかな」「メディアに脚色されてるのかな」と思うこともある。歌を作るときはあえてどちらかに振り切ってしまうこともあるけど、無意識で一方に偏ってしまうのは良くない気がしてるんです。それは「誰がために鐘は鳴る」の「幸福ならそこら中にあるよって誰かが言うけど 嘆く声は今日も響いてる」って歌詞にも出てますね。
──すごくシビアに考えている目線と、希望を持ちたい目線があるんですね。
たぶんそういう人間なんですよ、昔からそうだった気がします。でも友達と話すときはニコニコして難しいことを考えないようにしてますし、まだ振り切ったことをあまりしたくないのかな。笑おうって言い続けていたらつらくなりそうだし、逆もそう。どっちもあるから、ちょうど間を射抜けるものを歌いたいなと思ってます。
──メジャー1stフルアルバムとしてあれだけ濃密な作品を作ったあとに高橋さんはどんな方向に行くのかな、というのが興味深かったんです。もっと尖った極端さを追求するのかなとも思っていたんですけど、まだ間でいたいんですね。
今まで作った歌は消えないし、これからも歌い続けるだろうから、足跡を残して進み続けるならやっぱり必要な曲しか歌いたくないんです。できる限りブレたくないし、あとで振り返って「あれは間違ってたな」って思いたくないじゃないですか。あまり振り切れないのはそこに不安があるからかもしれない。でも今回も自信を持って届けられる曲ができたし、シングルだけどアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」と肩を並べられる、高橋優の看板になる作品が作れたと思ってます。
「ごはんにする? お風呂にする?」とか聞かれたい
──ボーナストラックとして3曲目に入っている「牛乳」ですけど……。
あっ、それは僕じゃないんですよ、高橋乳さんという方の曲で。だから僕が答えられることはあまりないと思います。
──そういうことなんですか……では乳さんと面識はあるんですか?
ないです! 大人の都合で、なぜか他人の曲が僕のCDに入れられました!
──そうでしたか(笑)。これって、昔好きだった人は牛乳が嫌いで代わりに飲んであげていた、って歌ですよね。個人的なことなんですけど、僕が今付き合っている彼女は小学校の同級生で、牛乳が嫌いな子だったんです。だからすごく当時を思い出しまして、これが実話なのか、歌詞を書いた人に訊きたかったんですよ。
えーっ、本当ですか!? 小学校の同級生と今付き合ってるって、それはなんというか、勝ち組ですね……。敗北感とジェラシーが沸き上がってきます。
──でも高橋さんが書いたわけじゃないんですよね?
いや、乳さんはそう思っているだろうなと。僕は好きな人に気持ちを伝えられないまま終わることが多くて、もうつらい思い出ばっかりなんですよ。だから乳さんに共感することが多いんです。昔の彼女が平気な顔して結婚してたこともあったなあ(笑)。
──高橋さんって結婚願望はあるんですか?
すごい憧れますよ。僕はもう10年くらい一人暮らしをしてるから、電気がついている家に帰るのはうれしいだろうなって思います。ベタだけど「ごはんにする? お風呂にする?」とか聞かれたいですよ。
──でもいいお父さんになりそうですよ。家庭を持ったらどんな歌を作るんですかね?
それは僕も楽しみですね。何歳になっても歌っていたいとは思うし、子供の曲を作ったりもするのかな。それにかっこいい父親になりたいんですよ。歳をとったからってお腹が出てくるオジサンにはなりたくないから、腹筋はずっとしていたいし、ただまあ……これはリアルタイム・シンガーソングライターが話すことではない気がするので、このへんでやめておきましょう(笑)。
高橋優(たかはしゆう)
1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移し、2009年7月にミニアルバム「僕らの平成ロックンロール」を全国リリースする。その後ワーナーミュージック・ジャパンと契約し、2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でデビュー。2011年4月にメジャー1stフルアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」を発表する。社会、友情、恋愛、性、孤独など自身が感じた思いをストレートな言葉で表現した歌詞や、聴き手の感情を揺さぶる熱い歌声が支持を集めている。