ナタリー PowerPush - スガ シカオ
ロック社会でファンクを鳴らせ! 「FUNKASTiC」とスガ流FUNK論
ファンク=ものすごく長い1回のセックス?
──僕のある友人は、音楽は大好きなんですけど、ひどいファンク音痴、黒人音楽音痴なんですよ。でも「ファンクを説明してよ」って言われると、僕もひとことでは言えずに困っちゃうんです。読者の方でもきっとそういう方も多いと思いますし、今日はスガさんにぜひ「ファンクとは何か?」に対する良い回答を教えてもらいたいんです。
ロックの主役はギターとスネアなんですよ。ファンクはベースとキックが花形なんです。そこがデカければデカイほど偉い、みたいな(笑)。ファンクの世界ではギターが替わっても気付かないんだけど、ベースとドラムのプレイヤーが替わるなんていうのは、もうそのバンド自体が変わるぐらい違う。僕のアレンジもそうですけども、ベースとドラムがまずあって、あと歌。それだけでいい。ギターの奴なんかちょこちょこカッティングしてればいいから。
──ちょこちょこ(笑)。
身分の差がこ~んなにあるんです(笑)。それがもう根本的なファンクミュージックですね。そもそもファンクというのは、黒人社会のレベルミュージックなんですね。ものすごい差別を受けて……生きていけないぐらい差別をされてるときの、外に対するメッセージを出せるものが音楽しかないから、そういうレベルミュージックになったんですよね。
──叫びなわけですね。
そう。それが、だんだんだんだん商品化されていく中で、ちょっとエンタテインメント的な要素が増えていって、日本に渡ってくる頃にはいつの間にか「アフロでキラキラした衣装着てればファンクだ」っていうふうになっちゃうんだけど、本当はもっと闘争的というか。ロックやレゲエと同じ。レゲエもレベルミュージックですから。ルーツはレゲエと一緒で、戦いの音楽だったんですよね。
──ギターロックが好きな人もそうですし、例えばバラードが好きな人や、ドラマティックな音楽を好んで聴いている人にとって、ファンクっていうのはやっぱり消化しにくいのかなと思うんですよ。そういう人に今作の「ファンカゲリヲン」みたいなナンバーをどう聴いてもらえばいいのかというと……。
リズムの渦の中で溺れるのがファンクなんですよ。ロックはどちらかと言うと、ノイズの渦の中で溺れるものだと思う。ロックは……セックスに例えると、すごく短いセックスを何回もするんです。1回のライブの中で。だけどファンクは、ものっすごく長い1回のセックスなんですよ。その中に盛り上がりもあって、焦らしもあって、最終的に1回だけイクみたいな。
──なるほど(笑)。
今のは有名な評論家の方が言ってたんですけど、そういう音楽性の違いです。でもそういうファンクの楽しみ方は、日本では全然市民権を得てないし、それは僕も自分で感じているから……あんまりファンクファンクって言わないようにしてるんです、最近。それを名乗った時点で、興味のない人の視点から外されちゃうから。
──それでも、アルバムタイトルにはちゃんと「FUNK」を背負い込んでますよね?
これは一応……建前上は「ファンタスティック」をもじった造語なんで(笑)。影テーマってことで。
──スガさんにとってもこれは、レベルミュージックじゃないですけど、ファンクに振り向いてくれない人たちに対するひとつの闘争の姿勢なんでしょうか?
いや、僕は僕なりに、自分の生活の中で向き合っていかなきゃならない自分の弱さとかズルさとか、そういうものに対してのレベルミュージックだと思ってて。だいたいファンクっていうとハッピーな歌詞が多いんですけど、僕のはちょっと暗めな感じで。やっぱりSLY & THE FAMILY STONEとか、そういうところからの影響が濃いので、ダークなことをリズムの渦の中で発信していくみたいな音楽ができたらいいなと思ってます。
ファンクはひとり1ジャンルの“個人商店”
──それから、ひとくちにファンクと言ってもすごく幅広いですよね。例えばFUNKADELICはロックのようにも聴こえるし、TOWER OF POWERのように本当に“リズムの渦!”みたいなのもあれば、MTUMEの「Juicy Fruit」みたいなすごく抑制されたようなものもあるけど、みんな「ファンク」で。
ファンクと呼ばれる人たちは、ひとり1ジャンルなんですよ。ロックみたいに、例えば「ブリティッシュロック」って枠の中にいろんなアーティストがいるような、そういう感じじゃない。P-FUNKはP-FUNKだし、TOWER OF POWERはTOWER OF POWER、ジェームス・ブラウンはジェームス・ブラウンだけなんです。後にも先にも何にもない。ロックみたいに継承していかないんです。みんないろんなところから要素をもらって、ファンクの個人商店をバーンと建てるんです。
──なるほど! スガさんも“スガ商店”を。
そう。僕もプリンスとかスライとか、日本人だとFLYING KIDSだとか、過去の大先輩たちのいろんな要素をもらって、「スガ シカオ」っていう個人商店でファンクをやってる。あえて直系を挙げるならばワシントンGO-GOファンクあたりですけど、それもアーティスト15人ぐらいしかいないですからね(笑)。チャック・ブラウンとその仲間たち以外にGO-GOやってる奴がいるかというと誰もいないですよね。あれとJBが同じ「ファンク」だっていうのもおかしな話で。
──そうですね。なるほど……ファンクはひとり1商店。
そう。それがまたわかりにくさを増してるところだけど(笑)。
CD収録曲
- サヨナラホームラン
- 世界が終わる5秒前
- FAN-KEY-TRAINリクエスト・ソング(タイトル未発表)
初回盤DVD収録内容
- 「Hitori Sugar Tour 2008」ライブ&MC映像
CD収録曲
- Party People
- 91時91分
- サヨナラホームラン
- 兆し
- ファンカゲリヲン
- トマトとウソと戦闘機
- 雨あがりの朝に
- ドキュメント2010 ~Singer VS. Rapper~
- 台風は北北東に進路をかえ・・・
- 夏色タイム
- 軽蔑
- はじまりの日 feat. Mummy-D
初回盤DVD収録内容
- 2009年ロンドン公演 ライブ&ドキュメンタリー映像
スガ シカオ
1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビューを果たした、日本を代表するファンクミュージシャン。1998年1月にリリースされたSMAPのシングル「夜空ノムコウ」で作詞を担当したことで、多方面から大きな注目を浴びた。また、1999年7月には杏子、山崎まさよしと共に「福耳」を結成。ソロとはひと味違う魅力を見せている。2007年にはデビュー10周年を迎え、初のシングルコレクション「ALL SINGLES BEST」リリースや武道館ライブなど、精力的な活動を展開している。