ナタリー PowerPush - スガ シカオ
ロック社会でファンクを鳴らせ! 「FUNKASTiC」とスガ流FUNK論
スガ シカオ × 亀田誠治
──アルバムに先駆けてシングル「サヨナラホームラン」がリリースされますが、この曲は亀田誠治さんがプロデュースを手がけていますよね。去年、武道館で開催されたイベント「亀の恩返し」でスガさんと亀田さんが共演されたとき、スガさんが「ファンキーな曲は自分でやるけど、ロックなテイストで叫びたいときは亀田さんにお願いするようにしてる」って話してたのがすごく印象的で。
そうなんですよ。ファンキーなのは得意技だし自分ひとりでできるけど、やっぱ子供の頃にロックを経験してない自分としては、なんか……ロックの押し切り方ができないんですよね。だからそういうときは亀田さんに力を借りることが多いです。あと、自分でやるとついつい地味~な曲になりがちなんですよ、僕は。ロックな感じでバーンと派手に行く曲を、アルバムに1曲ぐらいは必ず入れたくなるんですけど、そういうときは亀田さんにいつもお願いしてます。
──亀田さん自身は、もともとマニアックな知識を相当持ってる方ですよね。でもプロデュースワークを眺めていると、特にシングルの場合なんか「メジャーで出すためのキャッチーさ」みたいなものをすごく大事にしているように感じます。
うん。僕らにできない計算をちゃんとしてくれるんですよ。僕らはやっぱりシングルだからどうのこうのとか「この曲の良さを」とかいうことを、あんまり考えられないんですね。「だって全部良いじゃん!」とか、そういうわがままな結論にすぐ行っちゃうから(笑)。でもやっぱり亀田さんに頼むと、ちゃんと必要なとこだけを引き出してくれるから、プロだなあと思う。
──今回、曲を一緒に作る中で何か印象的なやり取りはありましたか?
……僕、最初はこのアレンジが嫌いだったんですよ。イヤだって言ってダダこねたんです(笑)。いつもだいたいダダこねると聞いてくれるんですけど、今回は亀田さんが引かなくて。「絶っ対これでやらせてくれ! 自信あるから! 今はイヤでも、きっとイイって思えるようになるから、絶対これでやらせて」って言って引かないから「じゃあもういいよ、亀田さんに任せたわ」って。でも……やっぱりアルバムの中で聴いてみたら「あー良かった! こっちにして」って思いました。要するに僕らしい理論は他の曲にいっぱい入ってるから、全部それで通すと単調になっちゃう。全然違う角度から良さを引き出してくれてるんですよね。「亀田さんの言うこと聞いてよかった~」みたいな(笑)。
スガ シカオ × Mummy-D
──それから本作には、2009年にシングルで発売された「はじまりの日 feat. Mummy-D」と、新曲「ドキュメント2010 ~Singer VS. Rapper~」でMummy-D(RHYMESTER/マボロシ)さんと共演されていますよね。このコラボレーションはどのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
もともと僕がDさんの一方的なファンだったんですよ。ヒップホップは僕も好きだし、Dさんとは多分ルーツが近いんじゃないかなと思っていて。彼はよくインタビューで「ヒップホップは新しい形のファンクだ」と言ってたし、リリックを読んでも同じルーツの匂いを感じた。でも、同じフェスに出たときもRHYMESTERと僕は違うステージなんですよね。こっちは生バンドのステージで、彼らはクラブ寄りのステージに出るから。顔を合わすことがないまま、ずっと好きだって話をしてたら、マボロシの竹ちゃん(竹内朋康)が引き合わせてくれて。そっから口説き落として飲み連れてって酒飲ませて、ウンと言わせた(笑)。
──何を使って口説いたんですか? 音楽の話?
まずは音楽談義ですよね。そしたらやっぱりルーツも一緒だし、目指してる世界も一緒だし、もう「なんで今まで会わなかったんだろうね」ってぐらい意気投合して。そこから曲作りも一緒にやったんだけど、本当にクリエイティブにできましたね。最近よくある“featuring~”をまず疑おう、みたいなところから始まって。
──最近の“featuring~”ブームに対するアンチテーゼのような気持ちもありますか?
アンチテーゼというよりは……シンガーとラッパーの男同士、何か新しい形を作ろうと。Dさんは「女性とコラボするときは、あたかも『こいつら2人デキてんじゃねーか?』みたいなことをチラチラさせんのがコツ」って教えてくれたんだけど(笑)、俺にそういうことチラチラさせてもまた困るし。
──あはははは。そうですよね(笑)。
AメロBメロの間は「イェー」だの「ウォー」だの合いの手を入れて、間奏部分でどうでもいいことをライムして「愛してる」だのなんだの、そういうありがちなのじゃなくて、もっと根本的な「一緒にやるためにはどうしたらいいか?」というところから考えたんです。だから「はじまりの日」って、完成までに1年ぐらいかかってるんですよ。ファイルのやりとりを繰り返しながらいろいろ試してるうちに、この「はじまりの日 feat. Mummy-D」と「ドキュメント2010 ~Singer VS. Rapper~」ができた。「はじまりの日 feat. Mummy-D」は歌モノだから、一発勝負でどこかにDさんにドーンと来てもらって、世界を思いっきりガクーンと変えてもらう方法を取ったんです。
──登場するタイミングが結構変則的というか。歌モノで言う大サビに相当するような。
そうそう、大サビ相当です。この人がいないと作品が成り立ちませんよっていう。そういう意味でもDさんの存在はデカかったかな。ひとりでやってたら多分10年やっても20年やってもそこには行けないってところに、2人だと簡単に行けたから。それで今度は逆に、思いっきりチャラけて、チャラけた中で面白いキャッチボールを繰り返して。そうやって作ったのが「ドキュメント2010 ~Singer VS. Rapper~」。
──なるほど。確かにそれぞれ違うニュアンスが出て、いい対比ができてますよね。先ほどファイルをやりとりしながらとおっしゃってましたが、ファイルを送るとき、何かメールに書き添えたりするんですか?
電話ですね。送ってしばらく経ってから「聴いた?」「ここは足んないと俺は思うんだけど、どう?」「じゃあそこ俺付けたしとくわ」「ちょっとトライしてみる」みたいな。Dさんはそういうことを嫌がらずに、一番クリエイティブだと思うものにYESと言ってくれるんです。
CD収録曲
- サヨナラホームラン
- 世界が終わる5秒前
- FAN-KEY-TRAINリクエスト・ソング(タイトル未発表)
初回盤DVD収録内容
- 「Hitori Sugar Tour 2008」ライブ&MC映像
CD収録曲
- Party People
- 91時91分
- サヨナラホームラン
- 兆し
- ファンカゲリヲン
- トマトとウソと戦闘機
- 雨あがりの朝に
- ドキュメント2010 ~Singer VS. Rapper~
- 台風は北北東に進路をかえ・・・
- 夏色タイム
- 軽蔑
- はじまりの日 feat. Mummy-D
初回盤DVD収録内容
- 2009年ロンドン公演 ライブ&ドキュメンタリー映像
スガ シカオ
1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビューを果たした、日本を代表するファンクミュージシャン。1998年1月にリリースされたSMAPのシングル「夜空ノムコウ」で作詞を担当したことで、多方面から大きな注目を浴びた。また、1999年7月には杏子、山崎まさよしと共に「福耳」を結成。ソロとはひと味違う魅力を見せている。2007年にはデビュー10周年を迎え、初のシングルコレクション「ALL SINGLES BEST」リリースや武道館ライブなど、精力的な活動を展開している。