ナタリー PowerPush - サンボマスター

メンバーが熱く明かす 音楽の力、音楽の宿命

会議室で「これが新しい」なんて決めた音楽なんて、誰が信じますか?

──サンボマスターというバンドには、常に新しいことをやらなきゃいけないという意識がありますよね。しかも、何が新しいかは、ライブハウスにいる目の前のお客さんからわかる、と。お客さんの眼の色とか表情とか、そういうものから時代の空気を受け取る、ということをよく言われていますよね。

山口 何が新しいかお客さんが教えてくれるっていうことに関しては、本当にそのとおりだと思うんですよ。例えば会議室で「これが新しい」なんて決めた音楽なんて、誰が信じますか? 自分がそれをやっても、ちゃんちゃらおかしい。資料にしたりグラフにしてる時点で、ひとつも新しいことじゃなくなってる。で、何年か前から、僕らのライブで殺伐とした空気がなくなってきてるんですよね。サークルモッシュでぐるぐる回って、終わった後ハイタッチするみたいな、明るい感じがここ2~3年続いていて。同じ曲をやっても反響が違うんですよ。だから、それに呼応するような曲がどんどんできる。表現が変わっていくことって、そういうことですよね。

──そうやって音楽性は変わってきたわけですけれども、逆に自分たちが変わらなかった部分はどこだと思います?

山口 変わらないのは3人の関係性でしょうね。それから音楽をやることについての考えは変わらないんじゃないですかね。一発録りのほうがいいことが起こる、テクノロジーじゃなくてマインドが音楽を新しくすると思っているところも、変わらない。あとはさっき言ったような、イタズラ心かな。

できることはやっぱり音楽しかない

──わかりました。では、改めて今の話を聞かせてください。3月11日に大きな地震が起こり、その直後からすべてのミュージシャンに「自分に何ができるのか」という問いが突きつけられたと思うんです。そこで、まずどういうことを思いましたか?

山口 まず僕たちはTwitterをやっているので、なるべく信頼度の高い情報を流そうと思ったんです。俺は、俺のちんけな言葉が逆に人を傷つけてはいけないと思った。皆さんを励ますなんて、そんなおこがましいことはできないって思ってた。そしたら「お前は発言しないのか」という意見をいただいた。それは逆に自分がいけなかったと感じましたね。だから、自分の思いをちゃんと言うようにしたんです。それが第一にありましたね。で、俺らにできることはやっぱり音楽しかないんです。サンボマスターというバンドは、何をするにしても音楽を通してしかできない。だから、バンドとしては、自分たちが思う「今、これを聴いたらみんな喜んでくれるんじゃないか」という曲をやるしかない。もちろん個人で何かをするというのはありますよ。個人で、社会的な活動をやってもいる。でも、サンボマスターの活動は音楽をやることに尽きるんです。もちろんそれに付随してチャリティはできるかもしれないけれど、音楽しかできないところが僕らの悲しいところで。

──悲しいところ?

山口 例えば、ジョン・コルトレーンは「音楽で君のポケットのビスケットを増やすことはできない」と言っていた。そして「自分は世の中に悪の力があるのを知っている。ただ、善の力があるのも知っている。自分はそれをやるんだ」と言ったんです。彼は1964年に来日したときに「あなたは10年後に何をやってますか?」って訊かれて、真面目な顔で「俺は聖者になってる」って言った。僕らには、そこまでの“善”はできない。俗世にまみれてますからね。ただし、自分の歌にちょっとでも伝わるものがあって、みんなが望んでくれるなら、いい演奏を届けるしかない。音楽をやるということは、そういうことだと思う。だから、音楽の宿命のもとに、僕らはやるんです。

──そうですね。僕が最近「音楽はいいな」って思った理由のひとつって、根拠がないことなんですね。そこで歌われている歌詞の内容には根拠がないけれど、なぜか胸に届くエネルギーがある。根拠がなくても「大丈夫」と言える。学者や政治家やジャーナリストの言葉、つまり理屈の言葉だと、そういうことは言えないんです。ミュージシャンに役割があるんだとするならば、そこだと思っていて。

山口 そうですねえ。

近藤 だからこそ、何よりもいい音楽を作るべきだなって思いました。そういうものを作って出すということが、音楽にできることのすべてだと思うんです。

山口 そう。それが音楽の誇り高き宿命、美しい宿命だと思いますね。

ベストアルバム「サンボマスター 究極ベスト」 / 2011年4月6日発売 / MASTERSIX FOUNDATION

  • 初回限定盤 SRCL-7609~11 [2CD+DVD] 3675円(税込) / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤 SRCL-7612~13 [2CD] 3150円(税込) / Amazon.co.jpへ
[DISC 1] サンボマスターグレイテストヒッツ
  1. 世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
  2. 希望の道
  3. 世界をかえさせておくれよ
  4. できっこないを やらなくちゃ
  5. 光のロック
  6. 青春狂騒曲
  7. ラブソング
  8. 歌声よおこれ
  9. 君を守って 君を愛して
  10. 美しき人間の日々
  11. very special!!
  12. I Love You
  13. きみのキレイに気づいておくれ
  14. 手紙
  15. 全ての夜と全ての朝にタンバリンを鳴らすのだ
  16. 月に咲く花のようになるの
  17. そのぬくもりに用がある
[DISC 2-1] 日本語ロックの金字塔
  1. さよならベイビー~2003年 スプリットアルバム「放課後の性春」
  2. これで自由になったのだ
  3. 熱中時代
  4. ふたり~2003年 スプリットアルバム「放課後の性春」
  5. 新しく光れ
  6. 人はそれを情熱と呼ぶ
  7. 週末ソウル
  8. 夜汽車でやってきたアイツ
  9. 想い出は夜汽車にのって
  10. 愛しさと心の壁
  11. 新しい朝
  12. 愛しき日々
[DISC 2-2] あなたに贈る完全未発表音源
  1. スーパーガール(新曲)
  2. 絶望と欲望と男の子と女の子(Live/2006年5月11日 渋谷クラブクアトロ)
  3. 夜が明けたら(Naked/2003年10月20日 スタジオインパクト)
  4. あなたといきたい(Live/2010年7月17日 ZEPP TOKYO)
初回盤DVD収録内容
  • ビデオクリップで綴るサンボマスター篇
  • 日本語ロックの金字塔ライブ篇
  • 10年分の「そのぬくもりに用がある」
サンボマスター

山口隆(Vo, G)、近藤洋一(B, Cho)、木内泰史(Dr, Cho)によるスリーピースバンド。メッセージ性の強いストレートな歌詞と、ファンクやソウルからの影響を感じさせるロックンロールサウンドを特徴とする。

2000年に結成。2003年7月、オナニーマシーンとのスプリットアルバム「放課後の性春」でメジャーデビュー。同年夏の「FUJI ROCK FESTIVAL '03」ROOKIE A GO-GOステージに出演し、12月には1stアルバム「新しき日本語ロックの道と光」をリリースする。2005年発表のシングル「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」がドラマ主題歌に起用され、大ヒットを記録。さらに2007年9月に東京・両国国技館にてワンマンライブ「世界ロック選抜<ファイナル>サンボマスター vs サンボマスター」を敢行。それまでに発表していたレパートリー全55曲を6時間かけて披露し、大きな話題を呼んだ。

その後も、シングルがCMソングやアニメのエンディングテーマに起用されたことで、着実に新しいファンを獲得。2011年4月には、CD2枚組に計34曲、初回限定盤DVDにビデオクリップとライブ映像それぞれ11曲+特典映像という、計57曲が詰め込まれた初のベストアルバム「サンボマスター 究極ベスト」をリリースした。