ザ・クロマニヨンズ甲本ヒロト×サンボマスター山口隆 | コントロール不能な衝動と妄想で爆走するロックンロール対談

ザ・クロマニヨンズは、6カ月連続シングルリリースプロジェクト「SIX KICKS ROCK&ROLL」を8月末に始動。これは全部そろえると15thアルバム「SIX KICKS ROCK&ROLL」になるシングルを連続でリリースするという試みであり、音楽ナタリーではこのプロジェクトに合わせて、各シングルのレビューと関係者へのインタビューを毎月掲載している。

そんな特集も第4弾。早くも後半に突入ということで、今回は第1弾にも登場した甲本ヒロト(Vo)と、クロマニヨンズをリスペクトするサンボマスターの山口隆(Vo, G)による対談を企画した。両バンドの関係を中心に語ってもらうことを想定していたが、対面した瞬間から2人のロックンロール談議がスタートし、どんどんヒートアップ。さまざまなアーティストの名を挙げつつ、2人はロックに対するコントロール不能な愛を熱く語り合った。

取材・文 / 大山卓也撮影 / 山崎玲士

ザ・クロマニヨンズ「もぐらとボンゴ」ジャケット

第4弾シングル「もぐらとボンゴ」レビュー
小野島大

6カ月連続でシングルをリリースする「SIX KICKS ROCK&ROLL」もいよいよ後半に突入。ザ・クロマニヨンズはゴリゴリのストレートなロックンロールだけじゃない、と満天下に知らしめる強力な2曲が登場だ。

「もぐらとボンゴ」はブギ~ブルースタイプの泥臭い楽曲。ザックザックと行進するようなリズムとシンプルな繰り返しの多いメロディで、彼らのブラックミュージック好きがよくわかり、ヒロトのブルースハープも冴える。

歌詞は多様な読み方が可能で、「もぐら」を何の比喩として見るかで解釈が分かれそう。私は「もぐら=ザ・クロマニヨンズ自身」と受け取った。「道が無いから もぐらは掘った / 道が無いから 無限に掘った」とは、まさにザ・クロマニヨンズの哲学そのものではないか。

「冬のくわがた」は、ベースがよく動くレゲエタイプの楽曲。こういう曲がさりげなく差し込まれることで、彼らの世界はぐっと広がり、豊かになる。最後の「冬のくわがた」のフレーズの繰り返しに哀愁がこもる。

動かなくなった「冬のくわがた」とは何か。これまた多様な解釈が可能だが、ここは深読みせずレゲエのゆったりしたビートと、冬の訪れを歌う歌詞に身を委ねるのがいいかもしれない。

ザ・クロマニヨンズ甲本ヒロト×サンボマスター山口隆 対談

最高の贅沢はレコードをいっぱい聴くこと

甲本ヒロト あれ覚えてるよ、渋谷のレコード屋さんで会ったよね。

山口隆 あのときは声かけたら迷惑かなと思って、ヒロトさんの周りを挙動不審に歩いてたんです。そしたら「山口くんじゃないか!」と言ってくださって。

甲本 ははは、そうだったっけ(笑)。

山口 それで僕「1枚アルバム紹介してもらってもいいですか?」ってお願いしたんですよね。

甲本 そうだ。「今日出会った記念に薦められたものをそのまんま買う」って言うから、ちょっと値段高めのやつ言ってやろうって(笑)。

山口 買いました。Themのセカンド(1966年発売の「Them Again」)。

甲本 よかったでしょ? オリジナルのUK盤。

山口 めちゃくちゃよかったです! 1万6000円だったから一緒に来てた人に4000円借りて買いました(笑)。

甲本 「これ僕持ってなかったら買うのに」と思って見てたから「じゃあ山口くんに」って。UKオリジナルのモノラル盤、すごくいいんだよ。

山口 ガチャーン!って感じがしますね。

甲本 そうそうそう! 声もすごいし。ロックンロールは破壊力が大事だからね。

左から甲本ヒロト、山口隆。

山口 B.B.キングの「Rock Me Baby」も7inchで聴いたときにびっくりしました。ロックってこういうことかと。

甲本 レコードはびっくりするよね。怖いくらいだよ。あとそれで言うと、SP盤と蓄音機は本当にびっくりする。音の立ち上がりとパンチ力。スピードとパワーはやっぱりSP盤と蓄音機が最強だと思う。

山口 蓄音機はどういうのを買えばいいですか?

甲本 大事なのはサウンドボックスっていう針が付いてる丸いところ。あそこの調節でずいぶん音が変わるって聞いたことがある。あと針はなるべく遠慮なく太いやつがいいね。

山口 竹の針もありますよね?

甲本 竹は竹なりの音がする。それもいいけどロックンロールの破壊力が欲しいなら鉄の太い針がいい。

山口 いやあ、いいんだろうなあ。

甲本 だって俺たちができる贅沢ってそんなもんじゃない? ゴルフとかやんないだろ?(笑)

山口 車の免許も持ってないですよ(笑)。

甲本 だろ?(笑) だったらそのぶんレコードいっぱい聴けばいいんだよ。

「No future」で元気になる

甲本 今日こんな話ばっかりしてていいのかな。無駄な時間ですよね(笑)。

山口 僕にとっては無駄じゃないですけど、まあでもクロマニヨンズの話をしたほうがいいですよね?(笑) 最初はあれです、ヒロトさんが俺んちに来てくれたわけですよ。窓を叩いて来たんです。今までニール・ヤングもボブ・ディランもジョン・リー・フッカーもブルース・スプリングスティーンもみんな、北会津郡北会津村の僕の部屋の窓をトントンと叩いて「お前だね?」って言った。ヒロト&マーシーのお二人も同じようにやって来て「お前だね?」って。僕にとってはそういう人なんですよ。

甲本ヒロト

甲本 何を言ってるんだか(笑)。でも、うん、わかるよ。自分のつまんない部屋にいるんだけど、確かにレコードを聴いてる瞬間は全部ぶっ壊してくれそうな気がするんだ。目の前にある畳から勉強机から壁から、何もかもをもうめちゃくちゃにぶっ壊してくれそうな気がしてさ。それがもうたまらなかった。

山口 レコードでもCDでもカセットでもいいんですけど、ロックンロールが、その人たちがどんだけ俺のことを救い上げてくれたか。

甲本 僕も同じような体験をしてきたよ。ロックンロールを聴くとすごく元気になる。それが「No future for you」って歌詞でもいいんですよ。言葉の意味そのまんまじゃない。だから例えばSiriかなんかに「元気が出る曲かけて」って頼んでもダメなんだよ。将来AIがどんだけ進化しても、「お前に未来はねえ」という歌詞の曲を、元気が出る曲だとは認識できないと思う。

山口 その歌詞が自分に当てはまらなくてもいいんですよね。僕は酒飲めないんですけど、ブルースマンが「If the river was whiskey, I would be a diving duck」なんて歌ってるのは、すごくいいんだよな(笑)。僕は本当にそういうことで、あの人がこうやって弾いてたとかこう歌ってたとか、そういうことのおかげで生きてる。おかげで僕はずいぶんいい思いしましたよ。

甲本 おんなじだよ。僕もいい思いしてる。いい思いって言うとみんな勘違いするけど、僕らはロックンロールが大好きでロックンローラーに憧れて、でも彼らがデカい車に乗ってる姿とか豪邸に住んでる姿に憧れたわけじゃないんだ。例えばアルバート・コリンズだったらギターをバキバキに鳴らしてる姿を観て「カッコいい!」と思うわけじゃん。そこに憧れてるわけだから、僕らにとってはそのバキバキができたときが夢を叶えたときなんですよ。車も女も家も関係ない。

コントロール不能で漏れてるだけ

山口 クロマニヨンズの新しいレコード、僕は予約して買いました。やっぱりボックス欲しくって。

甲本 ボックスいいでしょ?

山口隆

山口 いいに決まってるじゃないですか!(笑) シングルを買うとボックスが付いてくるっていうのはめちゃくちゃ幸せなことですよ。曲もめっちゃ聴いてますけど、あのオリジナルの衝動に僕はものすごく感動してまして。例えば「ドライブ GO!」は50年代のブルースとも70年代のパンクとも違う、2021年の東京のロックンロールの感動があるんです。

甲本 こっちは何も考えてないけどね(笑)。

山口 それがすごいんですよ。「光の魔人」はすげえモダンで、モダンといってもいわゆるモダンブルースのモダンというよりは、21世紀東京のセンチメンタルなモダンという感じがしてですね。

甲本 何言ってるんだ(笑)。

山口 もちろん全部僕の勝手な感想なんで(笑)。あのリフの、小股の切れ上がったとでも言いましょうか、そういうのもすごくよくて。

甲本 でも「こういう曲にしよう」みたいなことは本当に考えてないんだよ。毎日ずっとレコード聴いてるからそれが漏れてくる。漏れるままにしておくと自分ではコントロールできないんだけど、こう、混ざるんだよね。

山口 だからかな、クロマニヨンズは評論したくない音楽なんですよ。

甲本 いいこと言ってくれた(笑)。そうなんだよ、漏れてるだけだからね。ちびっちゃった感じなの。