ナタリー Power Push [POLYSICS]

「We ate the machine」完成記念! ハヤシが振り返るPOLYSICSの10年史

ニューアルバム「We ate the machine」がいよいよ発売になるPOLYSICSのハヤシヒロユキに、バンド10年の歩みを徹底的に訊いてみた。いつもいつもいつもハイパーでハイ・エナジーでハイ・テンションなライブで突っ走るハヤシも人の子。ああみえていろいろ悩みもあるのだ。しかし音楽にはそんな懊悩や逡巡が一切感じ取れないのも素晴らしい。ついにロックの歴史を全制覇した驚異の新作「We ate the machine」を聞きながら、率直すぎるハヤシの激白を堪能せよ!

取材・文 / 小野島大

「1st P」~「A・D・S・R・M!」

最初はぜんぜん本気じゃなかった。野心もなく

ポリ結成のきっかけはね、やっぱディーヴォですよ。「Satisfaction」のPV見て。とにかく衝撃だった。それまで、クラフトワークぐらいしか洋楽は聴いてなくて。それ以外は日本のニューウェイヴ、P-モデル、YMO、有頂天とか、そればっか聴いてたんだけど。ディーヴォ見て、「おい、なんだこれ?」って。外人にこんな面白い人たちがいるんだって。「これをやりたい!」って思ったんです。

で、当時はテクノっていうと、いわゆる四つ打ちのテクノのほうにみんな行っちゃうんですよね。でも自分にとってのテクノっていうのは、80'sのテクノポップだったりするから。そういうのもあって、悩んだ時期もあった。でもディーヴォを見て。これだ!っつって。これなら、誰が見ても喜ぶだろうし、興奮するだろうと思って。とにかくツナギ着て、こういうのをやりたいって思って、POLYSICS結成したんですよ(97年)。

だから最初はぜんぜん本気じゃなかったですよ。もう、ディーヴォがやりたいってだけでしたからね。自分の作ってきたトラックが、新宿JAMとかのPAから鳴らされるだけで嬉しかったですから。あとはもう、とにかくライブハウスに来てる人たちをビビらせたいっていうのがあって。うちらみたいなバンドって周りに誰もいなかったから、この人たちを驚かせたいなと思って、それこそパンを投げたりとか、ソーセージ投げたりとか。ドーナツ山ほど持ってきて投げたりとか(笑)。あとはステージでミニ四駆作ったりとか、ラーメン食べたりとか。そういうことをやって、見てる人たちを音楽以外でビビらせたかったんですよね。楽しかったですよ。そうやって自分の好きなことやって、喜んでる人たちもチョコチョコいる。それでいいやって思ってたんですよ。野心もなく。

え?こんなバンドでCD出していいの? みたいな感じ

そのうちカヨやスガイッチが入って、バンドの音も固まってきて、それで下北Queでライブやったら、そこにマスピー(初代マネージャー)が見に来てて。「何このバンド、面白い面白い」ってなって。で、遠藤さん(現事務所社長)とか見に来て。pre-schoolのメンバーとかも見に来たりしはじめて。でも自分たちは、別にやってること変わらないし。バイトもあってぜんぜん忙しかったし。そんな感じでのほほんとやってたら「レコード出したい」って言われて。「え?こんなバンドで出せんの?出していいの?」みたいな感じで。そのときレパートリーはカバー入れて7曲ぐらいしかなかった。毎回ライブ20分ぐらいで終わってたんですけど(笑)。

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1st P
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でもバンドやってたらやっぱりCD出したいから作った。それが「1st P」。でもテーマもコンセプトもなし。ただ当時やってた曲をそのまま録音しただけ。今聞くとひどいけどね。くだらないアイデアばっかり入ってて、演奏下手だし、歌も聞こえないし、オケのバランスも悪い。マスタリングの意味もわかってなかったから、音も悪い。できればやり直したい(笑)。でもやってる曲は今でも普通にライブでやってますね。そういう意味ではポリの原点。歌詞とかも、そんときなかったんですよ。歌詞は?って言われて。「いや、ない」って。別に(歌詞で)言いたいことないし。もともと自分が、歌詞カードってまったく見たことないんですよ。日本人のバンドでも、洋楽も。ただ耳に入ってくる言葉が面白ければいい。リズムを聴いて、そこから自然と生まれてきた言葉を発すれば、それでいいじゃんて。自分が音楽聴く感覚でみんなも聴いてくれればいいんじゃねえのかなって。そこではもう、日本語でも英語でもない、何語でもないみたいな。とりあえず叫んでおこうみたいな。エフェクトもいっぱいかけてね。その頃オリジナル作る時に考えてたのは、「ここでジャンプ!」とか(笑)。ここでこういうアクションが入る!とか、そんなのばっかり。未だにそうですね(笑)。

チャラいバンドだと思われるのがイヤでイヤで

で、「1st P」出したあとにいきなりお客さんがどーんと増えるわけですよ。結成して1年ぐらいでもうリキッドルームとかやって、ライブもどんどん忙しくなって、バイトもできなくなってくる。それで困ってね。忙しくなるばかりで金はたまんねえし。見に来る人はどんどん増えてるのに曲作る時間もない。だから何やればいいのかわからなくて、(投げる)パンをせんべいに変えてみたりとか。ウインナーをみかんに変えてみるとか、そんなんしかなくて。イベントとかで、いろんなバンドと対バンするんですよね。で、自分たちの中身のなさを痛感するんですよ。音楽として聞かれてない。ただのお遊戯。こんなんじゃダメだろうって思い始めて。お客さんが増えてる状況がぜんぜん実になってない。それがすごくイヤで、そんな状況に満足して変わろうとしないメンバーもイヤだった。何もしてないのに。やってることもJAMでやってたころと変わらないのに、なに調子乗ってってるの?みたいな。で、なんとか状況変えなきゃダメだと思い始めた。早く一人前のロックバンドとして認められたかった。で、パン投げに固執してたメンバーをクビにしたんですよ。事務所から給料も出始めて、本格的にやっていきましょうって言ってた矢先に。

そうするとアホっぽいっていうかお遊戯っぽい部分がなくなるじゃないですか。すると、面白くないね、みたいな声が聞こえてくるんですよ。そういうね、おちゃらけニューウェイヴ、テクノポップみたい見方をされるのがイヤでイヤで。自分のなかではニューウェイヴって、もっと攻撃的で面白い音楽、ロックよりロックって印象があるのに、チャラい、ペラい音楽としか思われてない。それで「A・D・S・R・M!」作るんですよ。

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A・D・S・R・M!
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とにかくロック!って意識はありましたね。自分にとってそのころのロックは、ハードで攻撃的な、ガレージパンク。ギターウルフとか。ギョガンレンズとかキング・ブラザーズとか。ギターリフでガンガン押していって大爆発、みたいな。すごい衝撃を受けたんですよ。あれをポリのスタイルでやったら面白いかもしれないって思って。そういう曲をいっぱい作り始めた。でもツナギはやめる気はまったくなかった。ポリは、もっとカッコいいバンドになれるっていう思いが強くて。そういう外見みたいなものは、変えたくなかったですね。

でも今思うと、「A・D・S・R・M!」ってすっごいペラペラなんですよね。レベルも小っちゃいし。マスタリングが上手くいってたら、もっと違う音質になってると思うんですよ。自分の未熟さですね。マスタリングの重要性をもっと理解してれば。でも内容はすっごい好き、いまだに。あれだけコードが入ってないロックアルバムってないですよ。リフ、リフ、リフで構築されてる。キーボードもベースもギターも。全部がバラバラのリフで構築されてる。お決まりのコード進行みたいなのがあって、そこになんとなくメロが乗っかってるみたいなのがイヤで、とにかくリフ、リフ、リフ。聴いたことない、いびつな、質感の音楽が作りたいと。それはうまくいってると思うから、リマスターして出し直したいですねえ。

POLYSICSニューアルバム「We ate the machine」

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初回生産限定盤 [CD+DVD]
2008年4月23日発売 / 3360円(税込)
KSCL 1240~1241 / Ki/oon Records

通常盤 [CD]
2008年4月23日発売 / 3059円(税込)
KSCL 1242 / Ki/oon Records

CD収録曲
  1. Moog is Love
  2. Pretty Good
  3. Rocket
  4. 機械食べちゃいました
  5. DNA Junction
  6. Kagayake
  7. ポニーとライオン
  8. ありがとう
  9. イロトカゲ
  10. Mind Your Head
  11. Digital Coffee
  12. Boys & Girls
  13. Blue Noise
  14. Dry or Wet
DVD収録内容(初回盤のみ)

POLYSICS WORLD TOUR OR DIE 2008!!!! ~KARATE HOUSE!!!!~FINAL JUNE.2 日比谷野外大音楽堂

  1. ワトソン
  2. PLUS CHICKER
  3. サイボーグ彼女
  4. Tei! Tei! Tei!
  5. ハードロックサンダー
  6. AT-AT
  7. COMMODOLL
  8. PEACH PIE ON THE BEACH
  9. BUGGIE TECHINICA
プロフィール

POLYSICS(ポリシックス)

2007年で結成10周年を迎えた、日本が世界に誇るニューウェイブロックバンド。そのユニークなキャラクターと、ニューウェイブの神髄を自身のスタイルに昇華させたサウンドは海外からも熱烈な支持を受け、過去にも数回にわたるツアーを大成功させている。ボーカル・ギターのハヤシは飛び道具的魅力を持ったDJとしても引っ張りだこ。