音楽ナタリー PowerPush - 大森靖子

これがノスタルジックJ-POP メジャー1stアルバム「洗脳」

大森靖子がエイベックスと契約し、メジャーデビューを決めたというニュースが世間に流れてから約8カ月。その間、彼女はメジャー1stシングル「きゅるきゅる」でアッパーかつポップな世界を見せつけながら躍進を続け、ついにメジャー初アルバム「洗脳」を完成させた。

アルバムは、おなじみとなった弾き語りスタイルのイメージを大きく裏切る意欲作。彼女は多数のアレンジャーとのタッグに挑戦し、アーティストとしての芯をしっかりと保ったまま、メジャー感にあふれた傑作を作り上げた。

大森靖子は今何を考え、どこに向かおうとしているのか。本人にじっくりと話を聞いた。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 上山陽介

ライブと音源の違い

──「洗脳」は、カラフルなサウンドアレンジが印象的です。弾き語り主体だった初期作品とはずいぶんイメージが変わりましたね。

大森靖子

そうですね。

──前回の取材時に「これまで弾き語りで映えないメロディは採用していなかったけど、メジャーに行ってからそういうものも生かすようになった」と話してくれましたが、このアルバムを聴いて「なるほど、こういうことか」と実感できました。(参照:大森靖子×峯田和伸(銀杏BOYZ)対談

うん、言葉とかも、弾き語りのときは聴いてる人が飽きないようにずっと必殺技を使ってるみたいな感じがあるんですけど、今回はちょっと余裕を持って甘めにとってます。

──でもメロディも言葉も、その甘さがあることでむしろ心地よさが増していますよね。そもそも曲の書き方から違うんですか?

書き方は基本同じで、iPhoneで打つんです。歌詞とメロディを一緒に考えて、ドとかミとか、伸ばす棒とか、そういう自分の楽譜みたいなのを歌詞の上に打ち込んでいく。だからどこでも作れるんです。

──じゃあギターやピアノは使わずに?

基本ないです。ギターで作る曲もあるんですけど、手癖で作っちゃうからあんまり凝ったメロディや新しいメロディにはならないですね。普通のいい曲になっちゃう(笑)。

──これまで大森さんはライブで演奏することを前提に曲を作ってきたと思うんですが、今回のアルバムはそうではない曲もあるわけですよね。ライブと音源制作ではどこが一番違いますか?

大森靖子

ライブは全部私が作れるし把握できるけど、音源はそうじゃないから。どんな環境で聴くかは相手に委ねることになるし、そのときどう聴いてもらうかを考えたら、アコギ1本じゃないでしょそりゃ、っていうことですよね。目の前にいる人に話すのと、メールで伝えるときの距離感の違いみたいな感じで。

──ライブの延長線上ではなく、不特定多数に届けることを意識したアルバムであると。

直接ライブに来られない地方の人とかにも届くっていうのが音源の最大の利点で、そこにどう届けるかみたいなことは考えましたね。ライブに来てる人の中には「弾き語りのほうがいい」って言う人もいるんですけど、音源とライブを一緒にすると絶対どっちかが破綻しちゃうから。

──音源として作り込むことを選んだわけですね。

メジャーに行くとき、当たり前にそうしようって考えてました。でもプロデューサーの直枝(政広)さんとかが一緒にそれをやってくれたのは面白かったですね。あんなふうにずっと好きな音楽にまみれて生きてる人が、「大森さんはメジャーなんだから、ここはこういうわかりやすいのを入れなきゃいけない」とか、そういうふうにちゃんと答えを出してきてくれたんですよ。そこが一番感動しましたね。

有名になりたい理由

──メジャーデビューした今、売れたいとか有名になりたい、という気持ちもありますか?

うん、有名になってお客さんを増やしたい。じゃないと別にメジャーでやる意味ないなって思ってます。

──それはどうして?

大森靖子

やっぱり“自分みたいな人間がマイノリティじゃない”ことを証明しなきゃっていう気持ちがすごくあるから。私が好き放題やってみせることで、みんなも好き放題やっていいんだって思ってほしい。じゃないと「自分はイカレてるから死ななければならない」って人が増えると思うんですよ。今の社会で生きづらい人が死ぬほどいるから、そこを一度壊さないとまずいぞ、っていうのはありますね。

──じゃあ派手なパフォーマンスで話題を集めるのもそういう意図があってのこと?

んー、でも、がんばって名前売ろうって思って行動してたんですけど、そしたら「大森靖子どんなもんじゃい」みたいな感じでライブに来る人が増えちゃって。そういうことしたいんじゃないんだけどなあっていうのはあります。自分が撒いた種なんですけど、別に勝負したいわけじゃなく、ただこの音で遊びたいとかコミュニケーションしたいっていうだけだから。そこで音楽が良質だとかギターがうまいとか言われても自分にとってはどうでもよくて。ギターは手段だから、ヘタって思われてたほうが気持ちいい。

──そういうものですか(笑)。

すごいがんばって練習してますけどね。でも「あんな適当にぐちゃぐちゃかき鳴らしてるのカッコいいな」みたいに思われたい(笑)。簡単にやってるように見せたいし、そしたら「これなら自分もできる!」みたいなことにつながっていくし。

──今の時代に閉塞感を感じていますか?

うん、やってるうちに「思ったより社会っていうのは了見狭いぞ」「だからこんなに何回も炎上するのか」って気が付いた(笑)。やっぱり孤独な人が増えていくのが怖いんです。ちっちゃいとき、なんで私はあんなに寂しかったんだろうって考えると、共感できる芸術みたいなものがなさすぎたのかなって。だから私がメジャーな存在にならないとって思うんです。

──確かにメジャーデビュー後も大森さんはすごく自由に、好き放題にやっているという印象があります。

大森靖子

そういうふうに見せたいんです。純度を下げたくない。いかに本質を残したままやるかっていうのをすごい意識してるんで。そこをガラッと変えちゃうと、それこそ「メジャー行ってダメになったね」とか言われるわけだし。決まり文句だしそう言われるのは別にいいんですけど。でも本質を曲げないための計算はすごくしてます。

──じゃあ芯の部分はメジャーでも変わらないですね。

別にいろんな余計なことはしなくても音楽はできるし、音楽的であり続けて、自分なんていずれ音楽っていう概念になって消えてしまえば最高だなみたいな感じでずっと生きてきてる。それは全然変わってないです。

メジャー1stアルバム「洗脳」2014年12月3日発売 / avex trax
type■ 洗脳CD+DVD(ピントカライブ) / 5184円 / AVCD-93072/B / Amazon.co.jp
type★ 洗脳CD+DVD(モリステ特大号) / 4104円 / AVCD-93073/B / Amazon.co.jp
type▲ 洗脳CD / 3024円 / AVCD-93074 / Amazon.co.jp
CD収録曲(※全タイプ共通)
  1. 絶対絶望絶好調
  2. イミテーションガール
  3. きゅるきゅる
  4. ノスタルジックJ-POP
  5. ナナちゃんの再生講座
  6. 子供じゃないもん17
  7. 呪いは水色
  8. ロックンロールパラダイス
  9. 私は面白い絶対面白いたぶん
  10. きすみぃきるみぃ
  11. 焼肉デート
  12. デートはやめよう
  13. おまけ♡~スーパーフリーポップ~
ピントカライブDVD(※type■のみ)
  • 2014.10.3大森靖子&THEピンクトカレフ「2日間で
    超楽しい地獄をつくる方法」東京キネマ倶楽部ライブ
    映像ver.(約60分収録予定)
モリステ特大号DVD(※type★のみ)
  1. 絶対絶望絶好調(Video Clip)
  2. ノスタルジックJ-POP(Video Clip)
  3. スタッフクソキノコによる大森靖子メジャーデビュードキュメンタリー「一生無双モードって言ったじゃん!せいこはつらいよ'14」ver.(約60分収録予定)

※「type■」の初回盤には写真家・佐内正史によるニューヨーク撮り下ろしの80ページのフォトブック付き

大森靖子全国ツアー♥爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー♥
  • ~ノスタルジック 松山 キティホール~
    2015年3月8日(日)愛媛県 松山キティホール
  • ~ノスタルジック 広島 ヲルガン座~
    2015年3月14日(土)広島県 音楽喫茶 ヲルガン座
  • ~ノスタルジック 岡山cafe moyau~
    2015年3月15日(日)岡山県 cafe moyau
  • ~ノスタルジック 名古屋 CLUB QUATTRO~
    2015年3月27日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • ~ノスタルジック 鳥取 三朝 ニューラッキー~
    2015年3月29日(日)鳥取県 三朝ニューラッキー
  • ~ノスタルジック 札幌 コロニー~
    2015年4月3日(金)北海道 COLONY
  • ~ノスタルジック 仙台 enn 2nd~
    2015年4月4日(土)宮城県 enn 2nd
  • ~ノスタルジック 秋田 ゴマシオキッチン~
    2015年4月5日(日)秋田県 gomashio-kitchen
  • ~ノスタルジック鹿児島 大津倉庫~
    2015年4月10日(金)鹿児島県 大津倉庫
  • ~ノスタルジック 福岡 ROOMS~
    2015年4月11日(土)福岡県 ROOMS
  • ~ノスタルジック 大分 別府 永久劇場~
    2015年4月12日(日)大分県 永久別府劇場
  • ~ノスタルジック 大阪 梅田 AKASO~
    2015年4月16日(木)大阪府 umeda AKASO
  • ~ノスタルジック 中野サンプラザ~
    2015年4月26日(日)東京都 中野サンプラザホール
大森靖子(オオモリセイコ)

大森靖子愛媛県生まれのシンガーソングライター。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2012年4月にミニアルバム「PINK」をリリース。2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」を発表し、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施。レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ大成功に収める。その後12月には直枝政広(カーネーション)プロデュースによる2ndフルアルバム「絶対少女」をリリース。レコ発ツアーファイナル公演を2014年3月、東京・LIQUIDROOMにて開催する。同年9月にはシングル「きゅるきゅる」でエイベックスからメジャーデビューし、12月にメジャー1stアルバム「洗脳」を発表。自身がボーカルを務めるロックバンド、THEピンクトカレフでの活動も継続中。