吉柳咲良が3rdシングル「Bad Gyal」を配信リリースした。
本作は1stシングル「Pandora」と2ndシングル「Crocodile」に引き続き、吉柳、プロデューサーのRyosuke "Dr.R" Sakai、作詞家のYui Muginoの3人で制作された。テーマは“色気”と“強さ”。音楽ナタリーでは吉柳がこの曲の歌詞、サウンド、そして50人のダンサーが出演するミュージックビデオを通じて表現したかったという彼女自身の内面に迫る。
取材・文 / 宮崎敬太撮影 / 梁瀬玉実
色気と強さを掛け合わせた楽曲にしたい
──前作「Crocodile」のインタビューで「実は新たな曲も制作中でして」とお話しされていましたが、それが今回の「Bad Gyal」だったんですか?(参照:吉柳咲良「Crocodile」特集)
そうです。ある程度録り終わっていて、ブラッシュアップしている段階でした。毎回曲作りはRyosuke "Dr.R" SakaiさんとYui Muginoさんからテーマになるワンフレーズを聞かれるところから始まります。「Pandora」のときは「Low」で、「Crocodile」の時は「攻め」。今回は「色気」をテーマにしたいとお話ししました。でも強気な気持ちはなくしたくなくて。色気と強さを掛け合わせた楽曲にしたかったんです。
──去年インタビューした時点で、吉柳さんは20歳でした。
20歳になってから私が考えていたのは、自分の人生に手を差し伸べてくださった人たちの存在でした。よくも悪くも私の人生に影響を与えてくれました。大事なのは実際に私の人生が大きく変わったという事実で、そのとき私はどう変わりたかったのか、つまりいろんな人と出会う中で、最終的な責任は自分にあるということを書けたらいいなと思っていました。
──自分の人生に自分で責任を取る強さと色気、ということですね。で、Gyal(=ギャル)。
これは母の影響が大きいと思います。母は1990年代の最盛期にルーズソックスを履いたギャルとして生きていて。まあ、強い人なんですよ。母を見ていて思うのは、ギャルは何歳になってもギャルなんだなって。どちらかというと私よりもファンキーかもしれません(笑)。
──自分の人生に自分で責任をとってファンキーに生きているという意味で、「Bad Gyal」ですね。作詞家のMuginoさんは歌詞を制作する前、いつも吉柳さんにインタビューされるそうで。
Muginoさんには今話したような方向性をお伝えしたのと、ワードとしては「蝶」という言葉を最初に出しました。さなぎから成長して飛んでいく。蝶になって羽ばたく姿はきれいだけど、さなぎってすごく美しい見た目をしているわけではない。でも、さなぎから成虫に抜け出していくことは美しいと思う。美しさとは目に見えるものだけじゃないという意味の象徴として蝶を思い浮かべていました。ちなみに、この段階ではまだ「Crocodile」のMVを撮ってなかったんです。
──「Crocodile」のMVには蝶が出てきますよね。
「次の匂わせみたいになっているね」って話してました(笑)。ちょっと夢見がちかもしれないけど、小さい頃から蝶になってみたいと思うことが多くて。きれいだし、自由にどこにでも飛んでいける羽根を持っている。でも攻撃力がある虫じゃないから、蜘蛛に捕まっちゃったり。そういう強さと弱さを持つ蝶の目線で歌いたいです、とMuginoさんにお伝えしました。
──印象に残っているMuginoさんからの質問はありますか?
質問というより、私が一方的に話していたかも(笑)。そこからMuginoさんが「ここはこういうニュアンスかな」と問いかけてくださって、その流れで世間話になっていくんですけど、そのときに話したニュアンスをそのまま汲み取ってくださっているんですよ。会話から私という人物を捉えてくださっている感覚がありました。
──その会話は録音されているんですか?
いや、まったくです。そのときの会話の内容を忠実に覚えていてくださって、それがそのまま歌に反映されているという感じです。
「この曲は“Bad”であってほしい」とアドバイスをいただきました
──作詞にはプロデューサーのSakaiさんも参加されていますが、Sakaiさんはどのように関わっているのでしょうか?
作詞の大まかな流れとしては、さっき話した会話に加えて、Muginoさんに私が書いた殴り書きのテキストを歌詞にしていただくんですね。それに対してSakaiさんは「ここにもっと強いワードが欲しい」「違う言い方で、もっと前にいけるようなワードが1つ欲しい」みたいな提案をしてくださいます。
──音楽的に欲しいワードを提案されると。逆にMuginoさんから音楽的な提案を受けることもある?
はい。毎回ディレクションしていただいています。「Bad Gyal」はサビをすごく高いキーで出しているんですけど、「声をきれいに出せば出すほど、歌詞のニュアンスが変わっちゃうんだよね。この曲は“Bad”であってほしい」とアドバイスをいただきました。
──吉柳さんはミュージカルもやられているから、高いキーでもきれいに声を出せてしまうんですね。
普段、高い音を出す際は、(喉の奥を指さして)ここに声が当たるように意識しています。でも、「もともと持っている声の低さのニュアンスを軽減しないように」ということも「Pandora」のときから言っていただいています。
──ミュージカルで役を演じるようにきれいに歌いこなすのではなく、吉柳咲良の声の魅力を大切にすべき、という意味ですね。
はい。そこはかなり徹底してディレクションしてくださっています。「Bad Gyal」に関しては、サビ以外はわりと低いキーで歌っていて、サビで声帯のポジションをすごく高いところに持っていきます。
──「Bad Gyal」で吉柳さんの声域の広さに驚かされました。
今回は低いポジションを守りつつ高音のニュアンスを意識しているというか……ラクに出しているというよりは、声を張ってるんですよね。“下に引っ張られながらも伸びようとしている”ような声の出し方を意識しました。ものすごく感覚的なものなので、わかりづらいとは思うのですが。なんだろうな……上から振りかぶってボールを投げているというよりは、ゴムを引っ張っている感覚を持ちながら歌っています。私はレコーディングのときに感情が出ていないと声が変わらないらしいんです。ニュアンスが抑えられてしまう。そういう部分も、Muginoさんには見抜かれますね。自分で歌いながらちょっと気になった箇所があったとき、そのまま歌ってしまうとバレる。だから毎回「自分の納得いくように歌ってみなさい」と言っていただいています。
──Sakaiさんからはどんなボーカルディレクションが入るんですか?
ちょうど昨日もレコーディングしていたのですが、Sakaiさんからディレクションいただくのは技術面よりも楽曲全体のクオリティに関することが多いです。「この箇所は伸ばさず、リズムに合わせてパッと切ったほうがきれいにハマる」とか。
──レコーディングが大変そうです……。
大変は大変です。でも、Sakaiさんは本当にいろんなことを知っているんです。例えば、レコーディングブースの中のCO2濃度が何%を超えたら換気しないと音が悪くなるとか(笑)。
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固定観念からの解放