ナタリー PowerPush - THE NOVEMBERS
さらに強度を増した音と精神 ニューアルバム「Misstopia」完成
20曲ぐらいが連続で、同時進行でできていく
──またアルバムの話に戻るんですけど、今回、結果的にキャッチーだなと思われたと。その変化の理由って思い当たりますか?
変化していったきっかけとか理由っていうのは、うまく思い浮かばないんですけど。でも音楽を作っていく過程は今までと少し違っていて。前作の「paraphilia」って作品は、僕の中に完成形のイメージがちゃんとあって、それに対して4人で近づけていくっていう作業だったんですね。でも今回はコンセプトとかイメージとか、そういうのをまったく持たないまま、好奇心や音楽的な快感の趣くままにどんどん好きに作っていったんです。生き生きと楽しくやってたんじゃないかと。だからそういう意味ですごく刺激とか触発とかもあって充実してたし。だから各々の気持ちが「開かれていた」ってことなんじゃないですかね。
──確かにそういう印象があるんですよ。で、シンセとかエレクトロニックな上モノはあまり聴こえなくて、いろんなギターアンサンブルが聴けるアルバムになってるなと。
あー、はい。
──タイトルチューンの1曲目「Misstopia」は、すっごいソリッドなリフで始まるんですけど、途中から全然違う展開に突入するし(笑)。
ははは。
──これにはちょっと驚かされました。例えばこの曲は、どういう風に曲作りを進めていったんですか?
それはセッションで、5分ぐらいで基本的な曲のキモみたいなものができたんですけど、そこから明るくしようとか暗くしようとかは特に考えなくて。具体的に曲の構成とかを詰めていくだけなんです。で、漠然と曲ができていく。20曲ぐらい連続で、同時進行でできていく、みたいな。
──20曲が同時進行で?
そうですね。そして必然的に11曲ぐらいがいつの間にかまとまっていて……そんな感じです(笑)。
壊しにいきたいものはある意味では自我かもしれない
──その制作方法は面白いですね。じゃあ歌詞やタイトルは後から付けるんですか?
後のときもあるし、途中で付くときもあるし、タイトルが先のときもあります。
──今回、タイトルが先だった曲は?
いちばん最後の「tu m'」っていう曲とか、あと「I'm in no core」とかは、わりと早い段階でタイトルが付いてました。「tu m'」は、マルセル・デュシャンっていうシュールレアリストの作品名で、フランス語だったと思うんですけど、「あなたは私に何々させる」っていう意味なんです。
──では、歌詞が先にできていた曲はありますか。
えっと、1曲目の「Misstopia」の最後の歌詞、「もう僕の場所じゃない」とか「ここから先に壊しにいこう」とか。
──“ここにいづらい”人なんですけど、能動的なんですよね(笑)。
あー、ははは(笑)。
──「先に壊しにいこう」っていうフレーズは「パラダイス」にも出てきますね。
なるほど……。
──誰より先に何を壊しにいきたいんでしょう?
壊しにいきたいものは……そうですね、ある意味では自我な気もしますし、自我以外のもののような気もしますね。でも、なんだろうな。僕は別にスピリチュアルなこととか、そんなに意識しないほうですけど、今の時代って、何が心で何がシステムで何がデザインなのかっていうのをすごく意識してない時代だと思うんですね。
──境界線が曖昧だと?
境界線っていうか、モノ=心だと思っちゃうことがあったりして。僕は自分なりにリアリティがないものを壊しにいきたいっていう気持ちが正直あるんですけど、壊すこと自体は目的じゃない。どちらかと言うと、その、壊すことで自分たちっていうか自分が持ってるものとか大事なものとか、それを“取り残して”新しいところで勝手に幸せになる。そういう価値観を持ってる気はします、今。ホントになんとなくそう思うだけですけど。
──“取り残す”って、どういうことでしょう。
例えば、“いづらい人”って言葉がさっき出ましたけど、それってどこかしら取り残された感とか、おいてけぼり感を感じてる人がもらす言葉だと思うんです。ネガティブな意味で。でも例えば二者がいてどちらかが結果的に取り残されたとして、どうして自分が取り残されたのか? とかそういうのって、はっきり言って理由がないんですよね。それは心の持ちようだったり、物事への触れ方だったりする。で、僕はすごくそういうことに対して自分なりに自分を肯定してるので、どこにいようと自分のいる場所が“ここ”だし、自分がどこに行ったとしても“ここはここ”だと思ってる。常に肯定してるっていうのは、そういうことだと思うんですよね。
──自分の価値観があればいいっていう風に考えると、答えは実は簡単なのかもしれないですね。
うん。
CD収録曲
- Misstopia(ミストピア)
- Figure 0(フィギュア ゼロ)
- dysphoria(ディスフォリア)
- pilica(ピリカ)
- パラダイス
- sea's sweep(シーズ スウィープ)
- Gilmore guilt more(ギルモア ギルトモア)
- I'm in no core(アイム イン ノー コア)
- Sweet Holm(スウィート ホルム)
- ウユニの恋人(ウユニノコイビト)
- tu m'(チュム)
THE NOVEMBERS(ざ・のーべんばーず)
小林祐介(Vo,G)、ケンゴマツモト(G)、高松浩史(B)、吉木諒祐(Dr)からなるロックバンド。2002年に小林と高松によって前身となるバンドが誕生。2005年3月に前身バンドが解散し、同時にTHE NOVEMBERSとしての活動がスタートする。2007年11月にバンド名を冠した1stミニアルバム「THE NOVEMBERS」をリリース。退廃的な歌詞と、鋭利さと重厚さをあわせ持つエモーショナルなサウンドがインディーズシーンで話題を集める。オーディエンスを圧倒する激しいライブパフォーマンスが熱い注目を浴びる中、2008年6月に初のフルアルバム「picnic」、2010年3月に2ndアルバム「Misstopia」をリリース。