音楽ナタリー Power Push - 南壽あさ子特集

「つながり」続けたその先に

7月にヤマハミュージックコミュニケーションズへ移籍し、同月より3カ月連続でシングルを配信リリースしている南壽あさ子。昨年末から今年にかけ、鈴木惣一朗(ワールドスタンダード、Soggy Cheerios)との新ユニット・ESTACIONとしてアルバム「少女歳時記<冬>」をリリースしたほか、防災・防犯アプリ「ココダヨ」にCMソング「ここだよ」を提供するなど、幅広い活動を展開している。

音楽ナタリーでは3回にわたり南壽あさ子の特集を展開予定であり、第1回目となる今回は彼女がかつてアルバイトをしていたという縁の深い場所でインタビューを実施。レーベル移籍後の心境や3カ月連続配信シングルについて話を聞いた。またアプリ「ココダヨ」のサービス展開を行う株式会社ゼネテックの上野憲二社長を招いての対談も行い、2人の出会いや楽曲「ここだよ」のコンセプトについて大いに語ってもらった。

取材・文 / 高橋拓也 撮影 / 塚原孝顕 取材協力 / NEWBURY CAFE

南壽あさ子 ソロインタビュー

個性を認めてもらえたような感じ

──突然のレーベル移籍の発表で驚きました。南壽さん自身は前々から移籍の話を聞いていたんですか?

実は突然決まったことで、急ピッチで話が進んでいき、移籍発表の時にはまだヤマハのディレクターさんと直接会えていないくらいだったんです。こんなに早く展開するものだとは思っていなかったので驚きました。

──これまでの南壽さんの活動をレーベルの方がご存知だったからこそ、スムーズに移籍の話が進んだんでしょうね。

南壽あさ子

すでに私の音楽性や活動のことなどを理解してもらえたのはありがたいです。個性を認めてもらえたような感じですね。

──さらに移籍発表と同時に、3カ月連続でシングルを配信リリースすることも決定しました。第1弾として配信中の「エネルギーのうた」は「東京ガス」のラジオCMソングです。

1stアルバム「Panorama」(2015年6月発売)で帯コメントを書いてくださった、武田さとみさんからのオファーでCMソングを作ることになったんです。武田さんはCMのコンセプトをわかりやすく伝えるための歌を作りたかったそうで、私が歌うこと前提で60秒尺の詞を先に作ってくれて、オファーの際に一緒に送ってくれたんです。原稿用紙に手描きで書かれたものをスキャンしてお送りいただいて、すごく温かみがあって素敵な歌詞だったのでぜひ、と喜んで受けしました。

──CMありきで制作された楽曲ですが、当初楽曲の長さはどれくらいだったんでしょうか?

もともとはサビだけの短い曲だったんですけど、作っていくうちに1つの曲として完成させたいと思ったし、ライブでも歌ってみたくなったんです。それで武田さんと相談して、共作という形でフルバージョンを作りました。ただその際にCMで使った部分をどこに盛り込むかに悩みまして。歌詞に出てくる「東京ガスのエネルギー」という言葉が、最初のサビに出てくるのは早いと思ったんです。何について歌った曲か、最後にわかる形がいいかなって。

──確かに「東京ガスのエネルギー」という歌詞が出るまで、具体的に何について歌っているのかわからない展開になっています。

「企業のための楽曲」という色が強すぎると、聴く人も引いてしまうと思ったんです。だから、例えば出勤時の電車に揺られているときに聴いてその人の1日の活力になるような、日常に寄り添ったイメージで詞を書きました。

──歌詞の中には「あかりになろう」「ひかりになろう」といった言葉のほかに「人間にはなれない」というフレーズも出てきて、どことなく物悲しさが漂う詞だと感じました。

「今日はなにになろう」というところは武田さんが考えてくれたんですけれど、なかなか思いつかないフレーズですよね。小さい頃だったら「将来何になろう」って言うことはあると思うんですけれど、大人になったらなかなか口にしないことですから。「人間にはなれない」という言葉も、東京ガスのエネルギーということがわからなければ、ペットとか、いろいろ想像を掻き立てられますよね。「130年ずっとそばでささえてきた」っていうところからは身近にあるものを想像できるし、そこから自分を支えてくれるものってなんだろう、って考えてもらうのも1つの狙いなんです。

楽曲の温かさを伝わりやすくするアニメ

──CMでは若井麻奈美さんがアニメーションを担当されています。こちらはガスを擬人化した映像作品になっていて、歌詞とリンクしてますね。

CMのお話を紹介してくれた武田さんが、以前から私と若井さんのアニメは合うと思っていたようで。楽曲を渡す前に若井さんの作品を観させていただいたとき、想像力やものを見る目が長けてる方だなって感じて。だからアニメの制作をお願いするとき、あえて曲のイメージは伝えなかったんです。

──ひとまず楽曲だけ渡したと。

純粋に感じてもらったことをそのまま描いてもらいたかったので。アニメにはガスを点けたり、明かりを点けたりするかわいいキャラクターが出てくるんです。子供が観ても楽しめると思いますし、アニメが付いたことにより、楽曲のイメージや温かさが伝わりやすくなったんじゃないかなと思います。

──パステル調の柔らかい若井さんの作風と、温かい南壽さんの歌声は非常にマッチしています。武田さんはこんな組み合わせをイメージしていたんだな、と納得しました。

武田さんは人同士を引き合わせることに喜びを感じるんだと言っていました。彼女はもともと、私のライブのお客さんで。ある日お手紙を送ってくれて、コピーライターとして活動していることを教えてくれたんです。それから彼女が携わったCMを観せていただいたりして、武田さんがどういう感性を持っている方で、どういうお仕事をしているのかを知りました。その後「Panorama」の帯のコピーを書いてもらいまして。そこから今につながり、人との出会いを広げるきっかけにもなっているんです。

南壽あさ子特集 Index
第1弾 「つながり」続けたその先に
第2弾 歌とゲーム、それぞれが描く「旅」
第3弾 南壽あさ子×鈴木惣一朗 2人が再び冬を描いた理由
配信シングル「エネルギーのうた(弾き唄いVer.)」/ 2016年7月28日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ
「エネルギーのうた(弾き唄いVer.)」
通常配信 itunesへ
通常配信 レコチョクへ
通常配信 moraへ
ハイレゾ配信 moraへ
収録曲
  1. エネルギーのうた(弾き唄いVer.)
  2. エネルギーのうた(Piano Instrumental)
配信シングル「八月のモス・グリーン」/ 2016年8月10日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ
「八月のモス・グリーン」
通常配信 itunesへ
通常配信 レコチョクへ
通常配信 moraへ
ハイレゾ配信 moraへ
収録曲
  1. 八月のモス・グリーン
ゼネテックpresents「南壽あさ子 × ココダヨ」プレミアムフリーコンサート
2016年12月3日(土)
東京都 東京グローブ座
南壽あさ子(ナスアサコ)
南壽あさ子

1989年千葉県佐倉市出身のシンガーソングライター。幼少の頃からピアノを始め、大学時代に軽音部に所属。その後音楽活動を本格的にスタートし、2010年より東京を中心にライブ活動をスタートした。2012年6月には湯浅篤をプロデューサーに迎えたシングル「フランネル」でインディーズデビュー。2013年10月にはシングル「わたしのノスタルジア」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューを果たした。2016年7月に所属レーベルをヤマハミュージックコミュニケーションズへ移籍することを発表。同月より「エネルギーのうた(弾き唄い Ver.)」を皮切りに、3カ月連続で配信限定シングルをリリースしている。


2016年11月28日更新