9つの声質を操る“カメレオンボイス”の持ち主、9Lanaとは何者か?

9つの声質を操る“カメレオンボイス”で話題のアーティスト・9Lana(クラナ)。2020年よりインターネット上に“歌ってみた”動画を投稿し、昨年末よりオリジナル曲も発表している歌い手だ。そんな“歌役者”の彼女が配信シングル「Let me battle」を4月19日にリリースし、ソニー・ミュージックレーベルズからメジャーデビューした。

「Let me battle」はテレビアニメ「ポケットモンスター」のエンディングテーマ。Adoのヒット曲「踊」「唱」で知られるGiga & TeddyLoidが楽曲プロデュースを手がけた、エキゾチックなエレクトロナンバーだ。音楽ナタリーでは彼女の魅力を9Lanaの発言をもとに紐解いていく。

取材・文 / 森朋之

とにかく歌うことが好きだった幼少時代

楽曲のサウンドによって表情を変える多彩なボーカリゼーション、歌詞の主人公に憑依するような表現力。次世代の音楽シーンの旗手になり得る、圧倒的なポテンシャルを持った歌い手が登場した。彼女の名前は9Lana。活動スタートから約3年でSNS総フォロワー13万人を超えるなど、着実に注目度を高めている。彼女は吐息交じりの声、エッジーな声、ダウナーな声、がなり声など、計9つの声を自在に使い分け、楽曲の魅力を最大限に引き出す。その原点は歌うことが大好きだったという幼少期にさかのぼる。

「子供の頃から、アニメやミュージカルなど、キャラクターが歌って踊る子供向けの映画をたくさん観ていました。毎日観ながら自分も歌っているうちに、自然と音楽に興味を持つようになって、HoneyWorksさんだったり、いろんなアーティストや歌い手の方を聴き始めて。ずっと1人で口ずさんでいて、とにかく歌うことが好きなんです」

アニメ、マンガ、映画といったさまざまなカルチャーに興味を持つようになった9Lana。そんな中、彼女はその中で“歌い手”の存在、“歌ってみた”の文化を知り、「自分もやってみたい」と思ったことをきっかけに独学で録音やミックスを始めたという。

「パソコンや機材のことは詳しくないし、今もわからないことばかりなんですが、録音やミックスをやっている方々とつながって、いろいろと教えてもらいながら試行錯誤しています。プラグインによって歌の感じが変わって、曲に馴染んでいくのが楽しくて。理論などもさっぱりなんですが、実際に機材を触りながら『この感じはいいな』というのをメモしながら少しずつやっている感じです。動画編集もやってるんですけど、今のところスマホでしかできないんですよ。ちゃんとパソコンを使ったほうがクオリティが高くなるんだろうなと思いつつ、ちょっとずつ勉強してるところです」

“カメレオンボイス”を習得するまで

これまでの活動は“歌ってみた”動画の投稿が中心。かわいさと妖しさを共存させた歌声が印象的な「Loveit?」(biz×ZERA)、「私じゃ駄目ですか」というフレーズに憂いと切なさを滲ませた「ダーリン」(須田景凪)、触れた瞬間に消えてしまうような儚さを表現した「燈」(崎山蒼志)など、さまざまなジャンルの楽曲をカバーすることで、彼女のボーカル表現の幅は確実に広がり続けているようだ。

「歌い方の種類が増えてきたのは、本当に最近なんです。最初の頃は音程を合わせるのに精一杯で、淡々と歌っていて。練習していく中で少しずつピッチを取ることに慣れてきて、やっと歌い方やニュアンスに意識が向くようになってきたんですよね。今は『こんなふうに歌ったらどうだろうな?』と試したり、『こういう声色、初めて出せたな』ということも多くなって。実際に歌って、録って、それを確認しながら歌い方を増やしている感じです。カバー曲を歌うときは、そのアーティストの方の意図を大事にしています。『この曲では何を表現したかったんだろう?』と自分なりに考えて、それに沿うように歌いたい。本家様あってのカバー曲だと思っているので」

オリジナル曲で見せた新しい表現

2023年12月からはオリジナル楽曲を続々と配信。記念すべき最初のオリジナル楽曲は、アコースティック調のミディアムチューン「右ポケット」(作詞:ZUMA、Matt Cab、Tamami、BBY NABE、Linus / 作曲:ZUMA、Matt Cab、Kazuki Isogai)。好きな人と手をつないだときの“温かくて寂しい思い”を描いたラブソングだ。

「『右ポケットでずっと震えたのに』というサビがすごく耳に残って。メロディの上がり下がりがかなり激しいので、歌うのは難しかったんですけど、いいものになったと思ってます。歌い方としては、好きな人を思っているような歌詞なので、なるべく切なさを感じられるように意識しました。『もし自分がこの立場だったら、どんなふうに思うかな』と考えながら解釈していきましたね」

さらに2月には、エキゾチックなサウンドに乗せて挑発的な歌声が広がる「BALALAIKA」(作詞:Tana.H、芦田菜名子 / 作曲:Marchin、Tana.H、芦田菜名子)、3月にはシックなダンストラックとやるせない感情を反映したメロディが響き合う「GAME」(作詞・作曲:higma)をリリースした。

「『BALALAIKA』は最初にデモを聴かせてもらったときからすごく好きな曲です。タイトルはカクテルの名前で。『恋は焦らず』という“酒言葉”を持つカクテルなので、そのことを踏まえて自分なりに歌詞を解釈して歌いました。挑発的な歌い方が似合う曲で、曲調やリズムがかなり変化するのも楽しかったですね。リズミカルなところよりも、ゆったりと歌う『コイセヨ… アイセヨ… コガレロ…』というフレーズに苦戦しました。『GAME』はもともと私が好きだったボカロPのhigmaさんが作ってくださったんです。デモ音源のデータをいただく前から『絶対に好きな曲だろうな』と思っていたんですが、実際に聴いてみたらやっぱりすごく好きでした(笑)。私に合うようにイメージして作ってくださったらしくて、本当にありがたいなって。歌詞ではゲームみたいな恋愛が描かれていて。感情をしっかり込めるというより、リズムに乗ることを意識してました」

また、9Lanaは音楽プロジェクトMAISONdesの歌い手として、今年1月から放送されたテレビアニメ「うる星やつら」の第2期エンディングテーマ「雷櫻 feat. 9Lana, SAKURAmoti」を担当したことも話題を集めた。

「題名にもあるように、春らしくて優しい楽曲だなって。アニメ『うる星やつら』の楽曲ということも踏まえて、サウンドやメロディに合うように試行錯誤して歌わせていただきました。オンエアの日はテレビの前でリアタイして、1人で拍手しながら観ていました(笑)。すごくうれしかったです」