音楽ナタリー PowerPush - 宮野真守

ロス武者修行の舞台裏&シングル全曲解説

宮野真守が通算11枚目となるニューシングル「BREAK IT!」を完成させた。今作は初の4曲入りシングルで、それぞれ異なる作家と濃密なコミュニケーションを図りながら作り上げた意欲作となった。なお彼は2曲目「Magic」で初めての海外レコーディングも経験している。声優として多忙な日々を過ごしながら、アーティストとしてさらなる高みを目指す彼の表現欲求の源はなんなのか。ナタリー5回目の登場となる今回のインタビューでは、ロスで行ったレコーディングの舞台裏と、各楽曲に込められた思いを語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃

ロス行きを決意した理由

──今回のシングルにつながる近況としては、この夏アメリカに行ってらっしゃったんですよね。

はい。アメリカは今回が初めてだったんですよ。

──のちにブログで続々と現地での写真を紹介されていましたが、絵に描いたようなアメリカで。

絵に描いたような満喫ぶりで(笑)。でも今回、ロスに行くという企画自体が僕にとってすごく深い意味がありまして。ただ単に行ってみようかなあみたいなノリではなく……2曲目の「Magic」を書いてくださったJin Nakamuraさんはデビューの頃からお世話になっているんですけど、いつもいろんなきっかけをくれる方で。僕が初めて作詞をしたのもJinさんの曲だったし、節目節目で新しい経験の場を与えてくれて、そのたび親身になって大事なアドバイスをくれるんです。アルバム「PASSAGE」でJinさんと「Identity」という曲を作ったときに(参照:宮野真守「PASSAGE」インタビュー)、Jinさんが話してくれたことが心に残っていたんです。「宮野くんの仕事は自分自身を使ってアウトプットし続けていかなければいけないものだから、どうしてもすり減ったり疲れたりすると思う。そうするとクリエイティブなものはできなくなってしまうから、上手にインプットする時間が必要だよ」って。

──なるほど。

勉強をしたり休みを取ってリフレッシュしたり、インプットの仕方にはいろんな方法がありますけど、自分がそれまで見たことのないものを見る刺激が必要だと思うんです。それは景色でも場所でもいいし、新たなエンタテインメントでもいいし、いろんなことから刺激を得て新しいアイデアを目覚めさせるというか。ちょうどJinさんが海外で活動する機会が増えてきた頃で、ロスに何カ月間も滞在したりしていて。そんな話の延長線上で、「僕が今度ロスに行くときに、宮野くんも一緒に来ない?」って誘ってくださったんです。「もちろん曲を一緒に作るのもいいし、単にリフレッシュするでもいいし、いい時間が作れるんじゃないかな」って。その話をしてくれたこと自体が、僕にとっては幸せなことだったんですよね。いろんな活動をやらせていただいている中で、Jinさんが僕のことをいちアーティストとして見てくれているんだなということが本当にうれしかったんです。

──とは言え、実際行動に移すのは難しいですよね。宮野さんには声優としての活動もあるし、スケジュールの調整が大変ですよね。

そうなんですよ。僕も時間的に難しいのかなあと思ったりしてたんですけど、僕の周りのスタッフたちはその話をその場限りのことにしないでいてくれて。Jinさんと一緒にプランニングして、長期間のロス行きを実現させてくれたんです。実際、レコーディングしたりジャケット写真を撮ったり、いろんなものを見たり……たくさんの刺激を受けて帰ってきました。

──歌手と作家の関係って普通はもう少しライトなもので、それが普通だと思うんですよ。でもJinさんの場合は宮野さんがアーティストとしてデビューした頃から携わっていて、その成長過程を見てきたからこそ、もう一段階深い助言をくれるんでしょうね。さらにはそんなJinさんの発言をすくって形にするスタッフもいる。

ええ。希有な例だと思うし、本当にありがたいことです。

丸腰で挑んだ初海外レコーディング

──滞在期間はどのぐらいだったんですか?

結構長い時間滞在させていただきました。レコーディングなど音楽制作の作業はロスで、ジャケット撮影ではカリフォルニアの内陸にある砂漠地帯まで足を伸ばして。

──アーティストとしての一面のみならず、役者としての刺激も大きそうですよね。

そうですね。ハリウッドにも行きましたし、ミュージカルも観ることができました。やはりエンタテインメントの中心地はすごいなと肌で感じることができました。

──レコーディングはいかがでしたか? 「海外レコーディング」というと、空気が違う、機材が違う、電圧が違う……みたいな情報を漠然とは聞くのですが、実際どうなんだろうなと。

宮野真守

もちろん空気も機材も違うと聞こえ方は違うとは思うんですが、そういうエンジニア的な知識がない僕に何か得るものがあるかというと……ものすごく大きなものを得ることができました。そのきっかけをくれたのもやっぱりJinさんなんです。プリプロが終わってごはんを食べているときに「こっちはいい意味でフェアだよ。いいものはいい、悪いものは悪い。すごくわかりやすいんだ」という話をしてくださって。実力主義の国だから、作品さえよければ日本人だってフェアに評価してくれる。「こんな挑戦しがいのある場所はない」というJinさんの言葉は、Jinさんが身をもって感じたからこそ出てきたものだから、すごく重みがあって。それを肌で感じさせてもらえただけでもロスに来た意味があったなと思ったし、僕もそういう場所で戦っていきたいという前向きな気持ちになれました。実際、求められるものはすごくシンプルなんですよ。

──実際のレコーディング作業も、日本とは勝手が違ったり、戸惑うところなどありませんでした?

日本の制作現場だとものすごくやりやすい環境を整えてくださるんですよ。キューボックス1つで何チャンネルもあったり。でも、ロスでは求められるものがすごくシンプルで。声の音量をチェックするときに「とりあえずアカペラで歌ってみて」って言われたんですよ。難しい曲だし、初めての海外レコーディングにすごく緊張していて、ちょっとビビってる中「アカペラで」って言われたからドキーッとしちゃって(笑)。でもそれは試されてるわけでも高いものを求められてるわけでもなくて、ここでは当たり前なんだろうなと。それは自分にとって大きいチャレンジだったし、刺激的でしたね。

──「宮野真守」という名前も記号でしかなくなるというか。おそらく向こうの方は日本での宮野さんの活躍は関係なく、1人のアーティストとしてフェアに対峙していたということですよね。

そうなんです。日本人アーティストがここにレコーディングをしに来た、という事実だけで。

──日本武道館のようなステージをこなしたあとで、言わば丸腰みたいな体験ができたことは貴重かもしれませんね。

日本に戻ってきても向き合い方が変わりましたね。環境の問題ではなく、同じものに向き合うにも思考回路が行く前と今とでは違っているというか。それは自分の中でもすごく大きくて。

MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2015
~AMAZING!~

2015年2月14日(土)
静岡県 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
2015年2月22日(日)
宮城県 仙台サンプラザホール
2015年2月28日(土)
福岡県 アルモニーサンク 北九州ソレイユホール
2015年3月7日(土)
愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2015年3月8日(日)
大阪府 グランキューブ大阪 メインホール
2015年3月14日(土)
東京都 日本武道館
2015年3月15日(日)
東京都 日本武道館

料金:前売 7000円(全公演共通)
一般発売:2015年1月11日(日)予定

宮野真守(ミヤノマモル)

1983年6月8日、埼玉県生まれの声優、俳優、歌手。7歳から劇団ひまわりに所属し、子役として活動を始める。声優としてのデビューは2001年放送のNHK海外ドラマ「私はケイトリン」グリフェン役。以降はアニメ、ゲーム、洋画吹替など幅広く活躍し、2003年にはミュージカル「『テニスの王子様』 Remarkable 1st Match 不動峰」でも高い評価を集めた。ミュージカルや出演アニメのキャラクターソングで歌手としての実力も発揮し、2008年にシングル「Discovery」でアーティストデビュー。2009年3月には1stアルバム「BREAK」を発表した。ライブ活動も積極的に行っており、2013年10月には初の日本武道館公演「MAMORU MIYANO SPECIAL LIVE 2013 ~TRAVELING!~」を大成功に収めた。2014年11月に通算11枚目となるニューシングル「BREAK IT!」をリリース。2015年2~3月には日本武道館2DAYSを含むライブツアー「MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2015 ~AMAZING!~」を行う。