音楽ナタリー Power Push - 坂本真綾

20年の道のりで見つけ出した音楽

坂本慎太郎×さかいゆう×河野伸

──「かすかなメロディ」は初参加となるさかいゆうさんの作曲です。なぜ今回さかいさんに白羽の矢を?

ディレクターが前々から、さかいさんと私の世界観は合うんじゃないかと思っていたみたいで。アルバムでは誰か新しい方ともご一緒したいと考えたときに、さかいさんはどうだろうとアイデアを出してくださったんです。

──さらに作詞は坂本慎太郎さん、編曲は河野伸さんという、なかなかないクレジットで。

あまり思い浮かばない組み合わせだと思います(笑)。でも実際できあがったものは、すべての人のいいところが全部出ていて。アルバムの中でもかなり気に入っている曲ですね。

──坂本慎太郎さんは極限までシンプルに削ぎ落とした言葉で感情を揺さぶる作詞家だなと思うんですけど、近年の坂本さんの歌詞にも同じものを感じていて。坂本さん自身もトークイベントで「こういうふうに書きたいと思っていた歌詞を書く人」とおっしゃってましたよね。

奇をてらわず、言葉もどんどんシンプルにというのは自分でもここ数年目標としていたところなんですけど、そこにきて慎太郎さんの歌詞に触れたときは「まさにこういうことだよな」と思いました。でもこれは慎太郎さんだからこそ出せる世界で、私が同じようなことをやろうと思っても絶対に出ないんです。言葉は生きている時間そのものが乗るものだと思うので。影響を受けるというよりも、私の好きな世界をつむいでいる人がいるということが励みになるというか。歌ってみて言葉以上の何かが伝わってくる感じって、歌い手としてうれしいことなんですよね。

脚本を書くような気持ちで書いた「アイリス」

──アルバムのラストを締めくくる「アイリス」は坂本さんの作詞・作曲で、鈴木祥子さんが編曲のみで携わっています。鈴木さんが他人の楽曲で編曲のみを行うのはこれが初めてだそうで。

これまで自分で作曲をしたものは全部河野さんか善太郎さんにお願いしていて、この曲は普通に行けば河野さんかなあと思っていたんです。でもちょっと新鮮なことがしてみたい、ほかに誰かいるかなと考えたときに、イメージとしては祥子さんなんだけど、アレンジだけ依頼されるなんてないだろうし……と思いつつお願いしてみたんです。そしたら快く引き受けてくださって。

──なぜアレンジャーとして鈴木さんのことが思い浮かんだんでしょう。

坂本真綾

私が作ったデモは歌とピアノとコーラスだけなんですけど、ピアノはうまく弾けないから最低限できる範囲で作っていて。もっと祥子さんみたいに情熱的で、弾き語りしているかのようなピアノと歌の一体感、荒削りでもいいからパーソナルな感じが出したかったんです。祥子さんはあまり録り直しをしない、ライブ感のある録り方をする方なんですね。そういうところが合うと思ったし、歌いながら弾くピアノというものをよく知っている人だと思ったので。

──デモの段階ではどのような楽曲をイメージしていたんですか?

頭の中に映像が先にあって、脚本を書くような気持ちで書いた曲なんです。だから私の中にある漠然とした絵的なイメージを共有してくれる人がいいなと思っていて。音楽的な言葉で説明できる気がしなかったので、映像的なイメージを話して音に昇華できる人という意味では、祥子さんが一番伝えやすいかなと思ったんです。

──浮かぶ映像のイメージは聴く人によって千差万別だとは思いますが、独特な余韻でアルバムを締めくくる曲だなあと感じました。

そうですね。別にこの曲で終わらなくてもよかったんですけど(笑)、シンプルなのに妙に強い曲なので、途中に置くイメージも湧かなかったんですよね。

坂本真綾と歌

──大きなライブ、アルバム制作を経て、今度はアルバムを携えてのツアーも控えています。アニバーサリーイヤーにあわせた動きが続く中で、何か心境の変化などはありますか? 大きな変化でも、ごく些細な変化でも。

うーん、なんだろう。変えようとして変わっていることはないですね。自然と変わってきているところはあると思うんですけど……。15周年のときから作曲を始めて、また1つ自分で表現できる場が増えましたが、まだまだこのゾーンは未開拓なので、これから伸びると思える部分がすごく大きくて。そういうことがある以上は、まだまだやりたいことがなくなることはないんだろうなと思うんですよね。常に新鮮に思えるということは、価値観などいろんなものに変化を与え続けるんじゃないかと思います。曲を作るようになってから、人が作った曲に対する耳も変わってきていたりするし。

──作曲は基本的に楽しいですか?

楽しいです。そんなに追い込んでいないからかも。今回は3曲、前にはフルアルバム1枚分を作りましたけど、ほかのこともいっぱいある中で楽しめる範囲でやっている気がします。もっといい曲を書いてくれる人は周りにいっぱいいるし、トリッキーな曲やゴージャスな曲は人に任せて、自分は自分で好きな世界を突き詰めていけばいいだけなので。そういう意味でも両方あるのはすごくいいですね。これが常に、自分でシングル曲も作って、タイアップ曲も作って……となったら、楽しくなくなってくるかもしれません(笑)。

──作曲がつらいと感じるようになったときに、また新しい何かが見えてくるかもしれないですね。

確かに。作詞はもう100曲くらいやっていて、苦しいところはありますよ。もうたいがい言ってきたような気がするし。でも自分では案外、同じことをずっと言い続けている人、やり続けているアーティストが好きだったりするので、無理に曲げてまで新しいことをする必要もないかもしれませんけど。

──では歌に関してはどうですか? ソングライターとしてではなく、歌い手として20年重ねてきた現在の自分について。

歌うことは……いい意味でもう特別なものじゃない、当たり前に生活の中にあるものになっちゃいましたね。デビューした頃は、マイクの前で歌うことは自分にとってある種非日常で、すごくスペシャルな仕事だったわけですよ。昔はまだ「うまく歌わないと」という気持ちが強くて、それが緊張につながって満足いかずに、苦しいだけのときもあったんです。でも今は、もちろん上手なほうがいいけどそれだけじゃない、大事なものを自分の中から出せるようになって。そう思えてからはより歌うことが楽しくなりましたね。いつだって難しいなとは思いますけど。今回のアルバムも難しい曲が多いんですよ。難しいと思えることも、また楽しさの要因になっていますね。

ライブ情報

坂本真綾 LIVE TOUR 2015-2016 "FOLLOW ME UP"

  • 2015年11月21日(土)神奈川県 ハーモニーホール座間 大ホール
  • 2015年12月4日(金)宮城県 イズミティ21 大ホール ※
  • 2015年12月5日(土)埼玉県 大宮ソニックシティ
  • 2015年12月11日(金)新潟県 新潟市民芸術文化会館・劇場(りゅーとぴあ)
  • 2015年12月13日(日)北海道 わくわくホリデーホール ※
  • 2015年12月27日(日)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2015年12月30日(水)東京都 東京国際フォーラム ホールA ※
  • 2015年12月31日(木)東京都 東京国際フォーラム ホールA<カウントダウン公演>
  • 2016年1月9日(土)大阪府 オリックス劇場 ※
  • 2016年1月11日(月・祝)静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
  • 2016年1月16日(土)香川県 香川県民ホール アルファあなぶきホール 小ホール
  • 2016年1月17日(日)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
  • 2016年1月24日(日)福岡県 福岡市民会館 ※

料金:前売 6800円 / 当日 7300円
チケット一般発売日:2015年10月31日(土)
※印は終演後「坂本真綾20人のための1曲だけのプレミアムライブ」あり

ニューアルバム「FOLLOW ME UP」2015年9月30日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] 4212円 / VTZL-120 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3132円 / VTCL-60420 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. FOLLOW ME
    [作詞・作曲:坂本真綾 / 編曲:渡辺善太郎]
  2. Be mine!
    [作詞:坂本真綾 / 作曲:the band apart / 編曲:the band apart・江口亮 / ストリングス編曲:江口亮、石塚徹]
  3. さなぎ
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:北川勝利 / ストリングス編曲:牧野洋司]
  4. SAVED.
    [作詞・作曲:鈴木祥子 / 編曲:山本隆二]
  5. 東京寒い
    [作詞:坂本慎太郎 / 作曲・編曲:小山田圭吾 / performed by 坂本真綾 コーネリアス]
  6. アルコ
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:菅野よう子]
  7. 幸せについて私が知っている5つの方法
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:ラスマス・フェイバー]
  8. はじまりの海
    [作詞・作曲:大貫妙子 / 編曲:森俊之]
  9. これから
    [作詞・作曲:坂本真綾 / 編曲:河野伸]
  10. Waiting for the rain
    [作詞・作曲・編曲:ラスマス・フェイバー]
  11. ロードムービー
    [作詞:岩里祐穂 / 作曲・コーラス編曲:かの香織 / 編曲:渡辺善太郎]
  12. That is To Say
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:h-wonder]
  13. レプリカ
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:内澤崇仁(androp)/ ストリングス編曲:内澤崇仁、石塚徹]
  14. かすかなメロディ
    [作詞:坂本慎太郎 / 作曲:さかいゆう / 編曲:河野伸]
  15. アイリス
    [作詞・作曲:坂本真綾 / 編曲:鈴木祥子 / 木管編曲:鈴木祥子、山本拓夫 / コーラス編曲:坂本真綾、鈴木祥子]
初回限定盤DVD収録内容
  • はじまりの海(Music Video)
  • レプリカ(Music Video)
  • Be mine!(Music Video)
  • 幸せについて私が知っている5つの方法(Music Video)
ライブDVD / Blu-ray「坂本真綾20周年記念LIVE "FOLLOW ME" at さいたまスーパーアリーナ」2015年11月25日発売 / FlyingDog
「坂本真綾20周年記念LIVE "FOLLOW ME" at さいたまスーパーアリーナ」
Blu-ray Disc / 7560円 / VTXL-25 / Amazon.co.jp
DVD2枚組 / 6480円 / VTBL-29~30 / Amazon.co.jp
坂本真綾(サカモトマアヤ)

坂本真綾

1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年4月にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2015年春からはデビュー20周年を記念したさまざまな企画を実施。4月にはトリビュートアルバム「REQUEST」をリリースし、埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演「坂本真綾 20周年記念LIVE “FOLLOW ME”」、5月には広島・嚴島神社高舞台にてスペシャルライブ「第26回JTB世界遺産劇場 -嚴島神社- 坂本真綾 20th Anniversary Special Live Open Air Museum 2015」を開催した。9月には通算9枚目のオリジナルアルバム「FOLLOW ME UP」をリリース。