音楽ナタリー Power Push - 坂本真綾

20年の道のりで見つけ出した音楽

北川勝利の“やさぐれ”感、菅野&岩里コンビの20周年感

──「さなぎ」は作・編曲がROUND TABLEの北川勝利さんだし、演奏メンバーのクレジットから想像するにポップな楽曲なのだろうと思っていたら、意外にもエッジィでヒリヒリするようなロックでした。

北川さんはいつも必ず私にフィットする曲を書いてくれるんです。今回もアルバムのために何曲もデモを聴かせてくれて、そのどれもが素晴らしかったんですけど、この曲はなんとなく「いつもの北川さんっぽくないな」と感じて。そこが新鮮でいいなと思ったのと、このアルバム全体で見ても意外とないラインだったのでこの曲を選びました。北川さんは根っからのいい人で、それが音楽にも出ていると思うんです。常にポジティブ感が伝わってくる。だけどこの曲は、ちょっとやさぐれているというか。

──やさぐれている。

その感じがすごく好きで。アレンジを進めるときも「もうちょっと汚れた感じで」「もっとすさんでてもいいと思う」って言い続けてたんですけど(笑)、それでもやっぱりさわやかさを感じる曲になっていて、それってやっぱり北川さんの人柄なのかなあって。

──「アルコ」は先ほど少しお話いただきましたが、タイアップのためアルバムに取りかかるより前に制作に入っていたと。

去年の年末ぐらいかな。菅野さん、岩里さんとご一緒したのは「モアザンワーズ」(2012年7月発売のシングル)以来でしたけど、「コードギアス」の監督やスタッフがどんな曲を求めているかをみんなで会議して作ったので、私のためというよりも完全に作品に捧げるために作った曲ですね。

──アルバムに入れることを想定していたわけではなかった。

はい。でもこのラインナップの中に菅野よう子、岩里祐穂という連名が入っていると、すごく20周年感が出るというか(笑)。結果として「アルコ」がアルバムに入ることで据わりのいい構成になったなと思います。

「ロードムービー」のコーラスは「みずうみ」の倍

──「これから」は20周年ライブでも披露されましたが、この曲はアニメ映画「たまゆら~卒業写真~」のために書き下ろされた曲ながら、坂本さん自身が20周年の節目に歌う曲としてもぴったりの内容ですよね。

「たまゆら」のための曲ではありつつも、さいたまスーパーアリーナのステージで歌うことをイメージして作ったんです。1番をピアノのみで歌って、2番で過去の映像を出してというところまで。

──そこまで具体的に。

はい。それが実現できたのもよかったし、自分にとって過去と今後をつなぐ曲になったので、すごく気に入っています。

──そしてラスマス・フェイバーさんによる「Waiting for the rain」と。これはテレビアニメ「学戦都市アスタリスク」のエンディングテーマですね。

今年の5月に彼がBillboard Live TOKYOでライブをやったときにゲストで出演させてもらったんですけど、そのあとに彼が劇伴をやるアニメのエンディングを歌わないかというお話をいただいて。

──坂本さんのほうから「こういう曲にしたい」というリクエストは?

坂本真綾

いえ。もう私のことはすっかりわかってくださっているし、このアニメは彼が劇伴で深く関わっている作品なので、曲も歌詞もお任せしました。

──「ロードムービー」はひさしぶりのかの香織さんとのコラボで。「雨が降る」(2008年10月発売のシングル)、「みずうみ」(2011年1月発売のアルバム「You can't catch me」収録)に続く3曲目ですね。

アルバムのためにいろんな方からデモをいただいた中で、最初に「これはアルバムに入れたい」と決めたのがこの曲なんですよ。大人っぽくて女性的で、今の自分の年齢感にフィットする感じがあったのと……どこか不思議な感じがしたんです。明るいとも暗いとも言えないムードで、歌うのが難しそうなところに惹かれて。サビに向かって盛り上がるのに、キーは低いところに行くんですよね。

──あと前作の「みずうみ」も同様でしたが、お2人の連名になっているコーラスアレンジがかなり凝っていますよね。

「みずうみ」のコーラスが気持ちよかったので「今回もあんな感じでたくさん入れたいですね」と言ってたんですけど……たぶん「みずうみ」の倍ぐらいコーラスを重ねてるんですよ。本当にすごい量で、コーラスだけに2日かけたのは初めてでした(笑)。

h-wonder=和田弘樹との再会

──「That is To Say」は冒頭で坂本さんがおっしゃっていた唯一の節目を意識した人選、h-wonderさんの書き下ろし曲ですね。

20周年ライブのときに作ったパンフレットの中で、h-wonderさんと対談したんです。それが今年の初めで。そこで「あのときはどうだった」と昔を振り返る話をいっぱいしたときに、今の私がh-wonderさんと一緒に曲を作ったらいいものができそうだなと思ったんです。h-wonderさんも2曲作ってきてくださって、もう1曲は「ループ」(2005年5月発売のシングル。デビューから携わってきた菅野よう子のプロデュースを離れて最初にリリースされた楽曲)や「スピカ」(2006年6月発売のシングル「風待ちジェット / スピカ」収録)の延長にあるような、ミディアムのかわいい感じの曲で。すごく安心感のあるものだったんですけど、こちらは少し意外で「あ、こう来たか」と驚いたし、シンガーソングライター和田弘樹さんの世界だったんですよ。

──作曲家・h-wonder以前の世界観。

これが私の知っている和田さんのイメージなんですよね。それを私にぶつけてくれたのがうれしかったのと、やっぱり今の年齢になったからこそ歌える歌ってあるよなあと思って、こちらを選びました。

──北川さんの「さなぎ」もこの「That is To Say」も、選択肢がある中で“ぽくない”ものを選んでるんですね。

昔やったことをなぞるのはあまり意味がないし、はじめましてのときにやれない曲が今はできると思うので。それに、アルバムだからこそできる冒険や挑戦があると思うんですよね。

ニューアルバム「FOLLOW ME UP」2015年9月30日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] 4212円 / VTZL-120 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3132円 / VTCL-60420 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. FOLLOW ME
    [作詞・作曲:坂本真綾 / 編曲:渡辺善太郎]
  2. Be mine!
    [作詞:坂本真綾 / 作曲:the band apart / 編曲:the band apart・江口亮 / ストリングス編曲:江口亮、石塚徹]
  3. さなぎ
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:北川勝利 / ストリングス編曲:牧野洋司]
  4. SAVED.
    [作詞・作曲:鈴木祥子 / 編曲:山本隆二]
  5. 東京寒い
    [作詞:坂本慎太郎 / 作曲・編曲:小山田圭吾 / performed by 坂本真綾 コーネリアス]
  6. アルコ
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:菅野よう子]
  7. 幸せについて私が知っている5つの方法
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:ラスマス・フェイバー]
  8. はじまりの海
    [作詞・作曲:大貫妙子 / 編曲:森俊之]
  9. これから
    [作詞・作曲:坂本真綾 / 編曲:河野伸]
  10. Waiting for the rain
    [作詞・作曲・編曲:ラスマス・フェイバー]
  11. ロードムービー
    [作詞:岩里祐穂 / 作曲・コーラス編曲:かの香織 / 編曲:渡辺善太郎]
  12. That is To Say
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:h-wonder]
  13. レプリカ
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:内澤崇仁(androp)/ ストリングス編曲:内澤崇仁、石塚徹]
  14. かすかなメロディ
    [作詞:坂本慎太郎 / 作曲:さかいゆう / 編曲:河野伸]
  15. アイリス
    [作詞・作曲:坂本真綾 / 編曲:鈴木祥子 / 木管編曲:鈴木祥子、山本拓夫 / コーラス編曲:坂本真綾、鈴木祥子]
初回限定盤DVD収録内容
  • はじまりの海(Music Video)
  • レプリカ(Music Video)
  • Be mine!(Music Video)
  • 幸せについて私が知っている5つの方法(Music Video)
ライブDVD / Blu-ray「坂本真綾20周年記念LIVE "FOLLOW ME" at さいたまスーパーアリーナ」2015年11月25日発売 / FlyingDog
「坂本真綾20周年記念LIVE "FOLLOW ME" at さいたまスーパーアリーナ」
Blu-ray Disc / 7560円 / VTXL-25 / Amazon.co.jp
DVD2枚組 / 6480円 / VTBL-29~30 / Amazon.co.jp
坂本真綾(サカモトマアヤ)

坂本真綾

1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年4月にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2015年春からはデビュー20周年を記念したさまざまな企画を実施。4月にはトリビュートアルバム「REQUEST」をリリースし、埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演「坂本真綾 20周年記念LIVE “FOLLOW ME”」、5月には広島・嚴島神社高舞台にてスペシャルライブ「第26回JTB世界遺産劇場 -嚴島神社- 坂本真綾 20th Anniversary Special Live Open Air Museum 2015」を開催した。9月には通算9枚目のオリジナルアルバム「FOLLOW ME UP」をリリース。