ナタリー PowerPush - LOVE PSYCHEDELICO

日常を輝かせるスイッチ 2年半ぶりアルバム「ABBOT KINNEY」

2人同時に絵を描いてるマンガ家みたい

──ところでKUMIさんは今回のアルバムで特にお気に入りの曲ってありますか?

KUMI うーん、その時々で変わっちゃうけどね(笑)。

NAOKI 今日はどうよ?(笑)

KUMI 今日は「Abbot kinney」かなあ。なんかこういう明るい感じっていうかね、そこが好きかな。呑気とは違うんだけど、平和な感じっていうか。

NAOKI 10人いたら10人それぞれのハッピーの感じ方があると思うけど、この曲には10人分のハッピーが詰まってるっていうか。だから聴いてると、俺もすごくハッピーになれる。

KUMI それこそこの曲はフックもないし、ただEのコードが鳴ってるロックな曲で。ずっと同じテンポで同じ世界観で終わっていくっていう、ホントに平凡な曲なんだけど、いいんだよね。そういう曲が作れたっていうのはうれしいよね。

NAOKI それは大きいね。

──それにしても2人きりでやり取りしながら、録った音を聴いてまた録ってっていう作業を繰り返して煮詰まらないっていうのが驚きです。

KUMI そうだねえ、たまにもちろん煮詰まるというか、イメージしてる音があるのに、なかなかたどり着けなくって、3日ぐらいずっとその音を求めて作業してて、「あー、またできない」ってなると煮詰まるけど、2人でやってること自体に煮詰まっちゃうっていうことは、あまりないかな。

──逆に第三者の脳があるほうがやりにくい?

NAOKI うん。(第三者の)言ってることはわかるけど、自分たちが気にしてることと全然違ったり。やっぱり美意識が近いっていうのはやりやすい。だからゆでたまごや藤子不二雄じゃないけど、マンガ家に例えたら、LOVE PSYCHEDELICOは割と2人ともペン持ってる感じになるよね? どっちかがストーリーを考えて、どっちかが絵を描いてっていう作業じゃなくて……。

KUMI 同じキャラを半々ずつ。

NAOKI ちょこっとずつ描くっていう(笑)。

KUMI もう、歌詞なんてどこの部分、どっちが書いたかわからないぐらい、パートによっては融合してるから。

NAOKI お互い、あんまり誰が何をやったっていうことに対するこだわりはなくて、こだわりは作品に向かってるから。ある意味、楽曲が第三者だね、そういう意味ではね。

KUMI うん。そういうトライアングルかもしれない。

音楽を愛するピュアな気持ちをサンタモニカで確認

──今回のアルバム制作の前にはアメリカで過ごした何カ月っていうのがあったわけですが、改めて影響はありましたか?

KUMI あったよね!?

NAOKI あったねー(笑)。

KUMI

KUMI しかも音楽的に影響を受けたかな。向こうに3カ月いたんだけど、ホントに音楽ばかりやってるような毎日で。ライブハウスもいっぱいあるし、音楽聴きに行ける場所があるから毎晩のように行って、そこでミュージシャンと友達になってセッションして。で、ライブやったな、一緒に。

NAOKI それが日常だった(笑)。

──場所はサンタモニカですよね。2008年のアメリカ国内の空気ってどんな感じだったんだろう?と思うんですが。

KUMI 私たちがいたところは、みんな「不景気だ」とは言ってたけれども、そんなに殺伐とはしてなかったよね?

NAOKI うん。まあ、でもレコード業界は大変だったと思う。アメリカの不景気に関係なく、インディーズがバタバタ潰れていく時期だったから。

──でも、そういう状況と、サンタモニカのミュージシャンの心の持ちようっていうのは……。

NAOKI それはあんまり関係ないと思う。それぐらい彼らにとって音楽が身近というか。楽器があってお互い音楽が好きだったら、もう何の問題もないんだよね。

KUMI すごいシンプルに暮らしてたよね。

NAOKI 常に“会えばセッション”みたいなミュージシャンの心の純粋さから、一番大きな影響を受けたかな。

KUMI みんな音楽をピュアに愛してて楽しんでるから、「ミュージシャンって、やっぱりそれでいいんだ」と思えた。その気持ちで生活して、音を鳴らせば気持ちいいものができるんだ、って。

NAOKI 「この空気を持って帰ろう!」って言って作ったんだよね。

──ああ、このアルバムの雰囲気ってそれなんですね。なんというか、2人にはこれまでのキャリアもあるし、アメリカで演奏してごはん食べてるミュージシャンとは、また違うプレッシャーももちろんあるんでしょうけど、原点はそういうピュアさなのかな、と思いました。

NAOKI そうだね。“好き”だけで作るみたいな。そうかもしれない。言われてハッとするね(笑)。

普通の日常も気持ちひとつで楽しくなる

──このアルバムは、言い方が安易かもしれないけど、“気持ちの持ち方でこんなに変わるよ?”っていうことを感じさせてくれますね。

KUMI うれしい。どこにいても世の中がどんな状況でも、気持ちひとつで毎日は楽しくなるんですよ。

NAOKI 結局さ、世の中を変えるとか言っても、それって人の心のスイッチを押してあげることぐらいしかできないじゃん、ねえ? 人の心にスイッチがあるんだったら、音楽でそれをピッて押してあげることはできるから、その先はその人が自分の足で歩いて外に出るかどうかなんだよね。そこはみんなのイマジネーションを信じるというか。

KUMI そう、普通の毎日でも楽しい。特別じゃなくても。

──うんうん。でも、そういう部分を、2人が天然な人だからできるんだと思ってる人もいると思うんですよ。

KUMI あー、それわかる。ポジティブでお気楽な人たちって思われてたりね(笑)。

──でも他の人同様、元気のないしょぼい現実ももちろんあるわけですよね。

KUMINAOKI うんうん。

──それでも闘ってる人の明るさっていうのかなあ?

KUMI そう言ってもらえるの、うれしい。

──そう生きたいから、こんなアルバムになるというか。

KUMI それはあるね。そんな日常を信じてるというか、それを諦めないからたどり着けたっていうのはあるかもしれないね。

NAOKI だからさっき話した“ストイックに”っていうのはレコーディングの作業だけじゃなくて生きることも同じなんだけど、それはあえて伝えたくない。緊張感を持って生きてるってことは伝えないで、ハッピーな感触だけ伝わればいいなって思ってます。

ニューアルバム『ABBOT KINNEY』 / 2010年1月13日発売 / 3045円(税込) / Victor Entertainment / VICL-63480

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CD収録曲
  1. Abbot Kinney
  2. Beautiful days
  3. Here I am
  4. Secret crush
  5. Shadow behind
  6. I'm done
  7. Hit the road
  8. Bring down the Orion
  9. Happy birthday
  10. This way
  11. Dr. Humpty Brownstone
  12. Have you ever seen the rain?
LOVE PSYCHEDELICO(らぶさいけでりこ)

1997年に結成された、KUMI(Vo,G)とNAOKI(G,B,Key)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、音楽ファンの間で大きな話題になる。流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルがシーンに衝撃を与え、2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続けている。