ナタリー PowerPush - 清竜人
ありふれた日常が愛おしくなる 生活密着アルバム「PEOPLE」誕生
「いのちのミュージアム」をきっかけに生まれた「ぼくが死んでしまっても」
──なんかまだユラユラしますね……。でも、伺いたいことがまだあるので、インタビューを続けさせてください。あの、6曲目の「ぼくが死んでしまっても」はどんなきっかけで作られたんですか?
その当時、ニュースを見る機会が多かったりして、思ってる以上に……凶悪犯罪とかが当たり前なものになっていて、改めて衝撃を受けたんですけれど。そのさなかにたまたま「いのちのミュージアム」という犯罪被害者の遺族の方が作られた展示施設を見つけて。そこで見たものとか、聞いたものっていうのが、自分にとって衝撃的だったので、そういう経験も踏まえて歌詞を書きました。
──展示されていた人たちの思いや言葉が入ってきた?
そうですね。変な話、ちょっと実感したいと思ったんですよね。遺族の方たちと同じように感じるのは無理なんだけれども、できるだけ自分も悲しみを感じられたら、と思った結果、こういう曲ができたというか。
──だからといって暗い曲ではないし、立場が逆の人からの視点が入っているし。自分の大切な人が殺されたら、神様が許さなくても復讐するぐらいの気持ちになるはずなのに、自分が殺されたらそれはしてほしくないと歌ってる。
なるべく憎しみだとか、悲しい感情ではなくて、良い感情に向けていけたらいいなという、そんな願いや祈りを込めた歌詞ではありますね。でも当事者の方は死を割り切れないだろうし、そこを「割り切ろう」というふうには歌いたくはなかった。双方の視点から描きたいっていう思いから、こういう形になったんです。
聴く人の幸せの力添えができるような作品に
──そして、どの曲も思いはあふれているけど、結論は歌ってないんですよね。
はい。感情を抑えられない部分は昔のほうがあったかもしれないですね。人間的に……自分の中で、ですけど、落ちついたというか。昔はもっと衝動的だったし、すごく感情的な人間だったので、それを歌にぶつけるっていう気持ちがあったかもしれない。それは今も変わってないんですけれど、昔のほうがより強かった気がします。
──怒りや憎しみという感情ですか?
そうですね。負の感情がもたらすエネルギーみたいなものが大きかったと思うんですけど、今回は逆に陰じゃなくて陽のメッセージがふんだんに盛り込まれてると思うので(笑)。次のアルバムはまた違ってくるかもしれないんですけど、今回はそういう時期だったかな、と。
──偶然が必然に思えたり、当たり前のことが素晴らしかったりっていう表現は、ポジティブなエネルギーに満ちてますよね。
ホントにすごくエネルギッシュなものになってると思いますし、簡単に言うと“元気が出るようなアルバム”にしたかったというか(笑)。それは自分も含めて、聴いてくださる皆さんが元気が出るような、問いかけをするんじゃなくて、それを聴いたことによってお風呂で思わず鼻歌が出たりとか(笑)。
──一緒に口笛吹いてたりとか?
はい(笑)。僕のライブがデートスポットになったりだとか。いや、わかんないですけど(笑)。そういうちょっとした幸せの力添えみたいなものができるようなアルバムになればいいかな、と思ってたので。今回はそういう作品が作れたかなと思います。
──誤解を恐れずに言えば、日用品というか?
そうですね。ホントに日用品ですね。
──こういう音楽を作るようになるとは2年前に想像できましたか?
いや、ホントに全然。今とは性格が違うので。例えば「プリーズリピートアフターミー」とか、自分がこういう曲を書くなんて思ってなかったです。けど、ちょっと書いてみたいっていう気持ちがあったんだと思うんですよね、どこかに。それが今回は出し切れたので、一旦このアルバムで自分に対して「おつかれさま」かな。
──(笑)。ニュートラルな感情を歌っているラストナンバーの「ホモ・サピエンスはうたを歌う」は、旅人が荷造りをして、また次の場所へ旅立つ感じですもんね。
うん(笑)。納得のいく第一幕のエピローグを描けたかなと思ってます。
CD収録曲
- ぼくらはつながってるんだな
- プリーズリピートアフターミー
- ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング
- パパ&ママ愛してるよ!
- おとなとこどものチャララ・ララ
- がきんちょのうた
- ぼくが死んでしまっても
- イザベラ
- きみはディスティニーズガール
- うつくしい
- ホモ・サピエンスはうたを歌う
初回限定盤DVD収録内容
- Morning Sun
- ジョン・L・フライの嘘
- ヘルプミーヘルプミーヘルプミー
- 痛いよ
- ぼくらはつながってるんだな
- プリーズリピートアフターミー
- ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング
清竜人(きよしりゅうじん)
1989年生まれ、大阪府出身の男性シンガーソングライター。15歳でギターを手にし、作曲を始める。16歳のときには早くも自主制作盤を発表。そのクオリティの高さが音楽関係者の間で話題となる。2006年には「TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2006」でグランプリを受賞し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2006」に出演を果たす。映画「僕の彼女はサイボーグ」への挿入歌提供を経て、2009年3月にシングル「Morning Sun」でメジャーデビュー。同曲はau Smart SportsのCMソングに起用され、スモーキーな歌声とみずみずしいメロディがメディアやお茶の間の注目を集めた。同月発表の1stアルバム「PHILOSOPHY」では、自身の持つ音楽性の幅広さを証明した。その後もシングル、アルバムを精力的に発表し、ライブツアーも定期的に開催。情感豊かなサウンドが幅広く支持されている。