ナタリー PowerPush - じん(自然の敵P)
一大メディアミックスのサイドストーリーを告白
僕は完璧にただの窓口係
──CDデビューの話があったのはいつ頃ですか?
たぶん去年の9月から12月くらいの間ですね。
──「たぶん」って?
「アルバムを作ろう」っていう話が直接あったわけじゃなくて、デビューに向けていろいろなことが動き始めたのが、だいたいその時期なんですよ。というのも「カゲロウデイズ」がランキング1位になった頃、今所属している1st PLACEのIA PROJECTレーベルから「今度『IA -ARIA ON THE PLANETES-』っていうボーカロイドライブラリをリリースするから、デモソングを作ってくれないか」ってオファーをもらって「ヘッドフォンアクター」を提供したんです。同時期に同人でCDを出すときにプレス業者を紹介してもらったり、付き合いが続くようになって。
──その縁でアルバム制作を?
いや、これがさらに複雑で。ちょうどその1st PLACEの楽曲提供の話があった頃、ブックウォーカーとメディアファクトリーからほぼ同時に「『カゲロウデイズ』の歌詞の世界を短編小説、短編マンガにしたいんだけど」というお話が来たんですよ。
──さすがランキング1位! 乙一さんだけじゃなくて、レコードレーベルや出版社までもがじんさんの曲をチェックするようになっていた、と。
ただ「カゲロウデイズ」は連作の中のひとつの楽曲に過ぎなくて、それだけを小説化したりマンガ化したりしても、アニメの第3話だけを放映するような中途半端な感じになっちゃうんですよ。なので「僕の楽曲は連作になっていて」「裏にはこういう大きなストーリーが流れていて」っていう話を両社にしたら、どちらも「それは面白い。じゃあ長編小説、長期連載のマンガにしよう」って言ってくれて。アルバムの話はそのあと。「とはいえ、僕は小説やマンガをやってるわけじゃなくて、音楽をやってるわけだし」ということで、1st PLACEに「連作を1枚にまとめたアルバムを作りたい」って相談させてもらったんです。で、1st PLACEとブックウォーカーとメディアファクトリーそれぞれに僕から「実は今、別の企画も動いていて」って話をして、アルバムの「メカクシティデイズ」と、ブックウォーカーの小説版「カゲロウデイズ -in a daze-」と、メディアファクトリーの「コミックジーン」でのマンガ版連載のコラボ企画が始まった、と。
──ひとりメディアミックス状態(笑)。まさにボカロP=プロデューサーって感じじゃないですか。
そんな立派なものじゃなくて、完璧にただの窓口係でしたけどね(笑)。なぜか全部の話が僕個人のところに集まっちゃったから、僕が担当者全員と連絡を取りつつ、顔合わせの席のセッティングまでしてましたから。
時系列どおりに並べないことによって単体で成立させる
──これまで小説を書いたことはあったんですか?
「カゲロウデイズ -in a daze-」が完全に処女作です。ただ、曲の連作を始める段階でこういうキャラクターたちが出てくる群像劇で、それぞれがどこで出会ってどんなふうになっていくっていう大まかなストーリーは固めていて。楽曲のほうでは「こんなことが起きました」「○○くんと××さんが出会いました」と直接的に歌ったりはしないし、ニコニコ動画の投稿順やアルバムの「メカクシティデイズ」の曲順もあえてバラバラ。曲ごとに描かている世界やテーマはそれぞれどこかのポイントでつながってはいるけど、それを時系列どおりに並べないことで、1曲ずつ単体できちんと成立するようにしてるんです。なので、小説のほうではその楽曲ごとの時間軸を整理しつつ、具体的なエピソードを織り込んで、ストーリーを展開させてみた感じですね。あと、章のタイトルとその章で語られることを歌った楽曲の名前を揃えてるんですけど、見比べてもらえればわかるとおり、アルバム収録曲全部の名前を使ったわけじゃなくて。
──つまり、アルバムの内容全てを「カゲロウデイズ -in a daze-」1冊に収録したわけではない、と。
ええ。だからアルバムと小説両方を手にしていただいた方なら「あっ、小説では具体的には書かれてなかったけど、あのシーンの裏ではこの曲で歌われているようなことが起きてたのかも」なんて想像できる作りにはなっています。で、実際そんなエピソードも入っている2冊目は現在絶賛執筆中。「ブックウォーカーさん、ごめんなさい」って感じのスケジュールでがんばって書いてます(笑)。
ニューシングル「チルドレンレコード」/ 2012年8月15日発売/ 1st PLACE / IA Project
- 「チルドレンレコード」初回限定盤
- 「チルドレンレコード」初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 MHCL-2110~2112
- 「チルドレンレコード」通常盤 [CD+DVD] 1575円 HCL-2113~2114
収録曲
- チルドレンレコード
- 群青レイン
- チルドレンレコード(Instrumental)
- 群青レイン(Instrumental)
DVD収録内容
- チルドレンレコード(Music Video)
- 如月アテンション(Music Video)
【初回生産限定盤】スペシャルブック付、スーパーピクチャーディスク仕様
1stアルバム「メカクシティデイズ」
収録曲
- ロスタイムプロローグ
- カゲロウデイズ
- ヘッドホンアクター
- 空想フォレスト
- エネの電脳紀行
- デッドアンドシーク
- 人造エネミー
- 透明アンサー
- 如月アテンション
- メカクシコード
- コノハの世界事情
- シニガミレコード
- カイエンパンザマスト
じん(自然の敵P)(じん しぜんのてきぴー)
1990年10月20日生まれ、北海道利尻島出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でボカロPとしてデビュー。瞬く間にニコ動ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。楽曲に登場するキャラクターの物語を小説化した「カゲロウデイズ -in a daze-」で、小説家としてもデビューした。2012年8月に1stシングル「チルドレンレコード」をリリース。