音楽ナタリー Power Push - 秦 基博
自らの手で描ききった「青の光景」
秦 基博が前作「Signed POP」以来約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「青の光景」を12月16日にリリースする。
本作は映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌として大ヒットを記録した「ひまわりの約束」をはじめ、映画「あん」主題歌の「水彩の月」、映画「天空の蜂」主題歌「Q & A」、ハウス「北海道シチュー」CMソング「聖なる夜の贈り物」など13曲中7曲がタイアップ曲。そして収録曲すべてのアレンジを秦自身が手がけており、「青」を音で表現したサウンド面のコンセプトで統一されていることも本作の魅力だろう。
今回音楽ナタリーでは秦にインタビューを実施。初の完全セルフプロデュース作品となった「青の光景」の制作についてたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類
細部にまで自分の音を張り巡らせたい
──ニューアルバム「青の光景」は、シンガーソングライター・秦 基博の最高傑作だと思います。すべての楽曲を秦さん自身がアレンジしたことを含めて、これまでの作品とは違った手応えがあるのでは?
そうですね。具体的なアレンジを自分でやることで、「歌」以外の楽器のアンサンブルの中にも自分のメロディがたくさん入りました。そのぶん楽曲の世界や自分のイメージが具現化されていると思うし、どこを切っても“自分の音”になっているのは今までのアルバムとは違うかなって。これまでは自分のイメージをサウンドプロデューサーやアレンジャーの方と相談しながら形にしていくという作業が主だったんですけど、3枚目(2010年発売の「Documentary」)くらいから徐々に「自分でアレンジしたい」という意識が芽生えてきて、ようやくすべてアレンジまでできるようになったということでしょうね。
──前作「Signed POP」をリリースした時点で「次は全部1人でやる」と決めてたんですか?
はい。「Signed POP」にも自らアレンジした曲が入っているし、その後のシングル「言ノ葉」からは全部自分でやってます。単純に「できるんだからやってみよう」って思ったのと、細部に至るまで自分の音を張り巡らせたいというのもあったし。
──制作の過程としては、まずデモ音源を作って?
そうですね。その楽曲全体の音像やイメージはもちろん、楽器パートごとの具体的なフレーズを形にしてから、それをミュージシャンやエンジニアの皆さんに聴いてもらって、「この曲では、こういうことがやりたい」という話をして。デモで考えたフレーズをもとに演奏してもらうんですが、ミュージシャンの皆さんがさらに発展させてくれることもあるし、その通りに弾いてもらうこともあるっていう感じですね。音色に関しても、エンジニアの方から「こういうやり方もあるよ」っていう提案をしてもらって、実際のレコーディング現場で1つひとつ判断していきました。
とにかくこのメンバーじゃないと
──最近のライブでもおなじみの皆川真人さん(Key)、鈴木正人さん(B)、あらきゆうこさん(Dr)ほか、参加しているミュージシャンもすごいキャリアの方ばかりで。こういう方々と対等に仕事をするには、かなり経験が必要ですよね。
名うての方ばかりですからね。皆さん、これまで一緒に音を出してきて、僕のやりたいことをより明確に具現化してくださる方ばかりなんですよ。今回もデモを聴いてもらって「1回やってみましょう」というときから「カッコいい!」ということがほとんどだったので、かなりスムーズでしたね。自分でアレンジする段階から「この曲のドラムはあの人」という感じで曲ごとにミュージシャンのイメージがあるんですけど、ありがたいことに全部オファーを受けてもらえて、スケジュールもうまくいって。
──すごい! 贅沢ですね。
そうですね(笑)。まあ無理やりスケジュールを合わせてもらったこともあって。例えば「Q & A」は、自分が理想とするメンバーがそろうのがレコーディング日の夜7時以降だったんです。普通は午後イチくらいから始めるんですけど、「とにかくこのメンバーじゃないと」というのがあったので。
──イメージを形にするためには、レコーディングの参加メンバーはすごく重要ですからね。そして楽曲によってアレンジの方向性はさまざまですが、どの曲も秦さんの歌がしっかり真ん中にある印象を受けました。
うれしいです。“詞と曲と歌”というか、“シンガーソングライターである”というのが一番大切だし、そこを聴いてもらいたいのはずっと同じです。歌を届けるためにアレンジもやるし、サウンドの細かい部分にもこだわっているんです。
アルバムのカラーとタイアップとの関係性
──本作は「ひまわりの約束」「Q & A」をはじめタイアップ曲も多いですが、アルバム全体のトーンがしっかりキープされているのが印象的でした。
アルバム全体の音像というか「こういう雰囲気のアルバムにしたい」というのは「ダイアローグ・モノローグ」(2014年4月リリースのシングル)の時点でおぼろげながら存在してたんですよね。その流れの中に「ひまわりの約束」も「水彩の月」も「Q & A」もあったし、シングル以外の曲も「5枚目のアルバムではこういう世界を作る」という前提で制作して。
──まず秦さん自身のやりたいことがあり、その上でタイアップの依頼に対応していたと。
アルバムのことだけでもタイアップのことだけでもなく、両方考えてました。「今の自分はこういうモードにある」ということを踏まえた上で、楽曲のオファーをいただいたら「だったら、こういう曲が作れるんじゃないか」と提案して。だからどの曲もアルバムの世界から外れてないんですよね。
──そのイメージが「青」だったというわけですね。どうして「青」に?
前作が自分なりのポップスを形作ったものだとすれば、今回はもっと深みのある、いろんな味わい方ができるものにしたかったんです。そこで今の自分の表現における理想形に突き進んでいくときに「青」という色が持つ表情がマッチしたんだと思います。「青」と言っても、いろんなバリエーションがありますよね。さわやかな空の青もあるし、深い海の青もある。それに「ブルー」という言葉が持っている悲哀みたいなものも表現したくて。「ダイアローグ・モノローグ」のときはまだイメージが漠然としてたんですけど、アルバムの制作が進めば進むほど音像がさらに具体的になってきたんですよね。
次のページ » 「こういうアルバムにしたい」から生まれた楽曲
- ニューアルバム「青の光景」 / 2015年12月16日発売 / アリオラジャパン/AUGUSTA RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 4500円 / AUCL-192~3
- 通常盤 [CD] / 3240円 / AUCL-194
CD収録曲
- 嘘
- デイドリーマー
- ひまわりの約束
- ROUTES
- 美しい穢れ
- Q & A
- ディープブルー
- ダイアローグ・モノローグ
- あそぶおとな
- Fast Life
- 聖なる夜の贈り物
- 水彩の月
- Sally
初回限定盤DVD収録内容
- ドキュメンタリー映像「Behind of“青の光景”~interview, recording & live~」
- 「Q & A 」「ひまわりの約束 」LIVE映像(世界遺産劇場 -縄文あおもり三内丸山遺跡-)
- 「言ノ葉 -Makoto Shinkai / Director's Cut-」MUSIC VIDEO
秦 基博「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016」
- 2016年3月5日(土)福岡県 福岡サンパレス
- 2016年3月11日(金)岡山県 岡山シンフォニーホール
- 2016年3月12日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
- 2016年3月19日(土)秋田県 秋田県民会館
- 2016年3月30日(水)京都府 ロームシアター京都
- 2016年4月3日(日)北海道 ニトリ文化ホール
- 2016年4月10日(日)香川県 アルファあなぶきホール 大ホール
- 2016年4月17日(日)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2016年4月24日(日)新潟県 新潟県民会館
- 2016年4月28日(木)神奈川県 神奈川県民ホール
- 2016年5月3日(火・祝)宮城県 仙台サンプラザホール
- 2016年5月11日(水)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
- 2016年5月18日(水)大阪府 オリックス劇場
- 2016年5月19日(木)大阪府 オリックス劇場
- 2016年5月26日(木)石川県 本多の森ホール
- 2016年6月3日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2016年6月4日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
秦 基博(ハタモトヒロ)
オフィスオーガスタに所属する、1980年生まれ宮崎県出身のシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を開始し、2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。柔らかな声と叙情豊かな詞、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」が支持を集め、2009年3月に初の東京・日本武道館公演を実施。2011年には自身3度目の武道館公演を全編弾き語りで成功させた。2013年10月に自身が選曲したセレクションアルバム「ひとみみぼれ」をリリース。そして2014年8月発表の3DCGアニメ映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」は100万ダウンロードを超える大ヒットを記録し、10月発売の弾き語りベスト「evergreen」も今なおロングセールスを続けている。2015年7月に青森県の縄文遺跡群の魅力を伝える「あおもり縄文大使」に任命され、三内丸山遺跡での野外公演は4000人を動員。新曲「聖なる夜の贈り物」のミュージックビデオは縦型と横型の2タイプを同時発表し話題を呼んだ。12月には全曲セルフプロデュースの5thアルバム「青の光景」をリリースする。