ナタリー PowerPush - 秦基博
弾き語りアルバムが伝える秦基博の魅力と本質
昨年行なわれた弾き語りツアー「GREEN MIND 2009」。そのライブ音源を中心に大胆かつ繊細なMIXを施した2枚組弾き語りアルバム「BEST OF GREEN MIND '09」が3月3日にリリースされる。「僕らをつなぐもの」「鱗(うろこ)」「キミ、メグル、ボク」、そして最新シングル「アイ(弾き語りVersion)」など全シングル曲と代表曲の数々が収録された本作には、“アコギと歌”を基軸にしたシンガーソングライター・秦 基博の本質が色濃く反映されている。
今回は秦本人にインタビューし、本作の魅力についてあますところなく語ってもらった。彼の声とサウンドが持つ力の真髄を、このインタビューから読み取ってほしい。
取材・文/森朋之
これでもかってほど自分が出てるアルバム
──今作は、昨年のアコースティックツアー「GREEN MIND'09」のライブ音源を中心とした弾き語りアルバムですが、これまでの作品とは明らかに性格が違いますよね。
そうですね。だから、どういうふうにみんなが受け取ってくれるか、そしてどんな反応が返ってくるのか楽しみですけどね。
──例えば「秦くんはやっぱり、弾き語りが一番いいよね」って言われたら?
うれしい反面、「そんなこと言わないでくれ」って思うかも(笑)。普段はアレンジを加えて、バンド形式でライブをやってますからね。ほかの音はいらない、って言われると……。
──そんなことは言われないと思いますが(笑)、アコースティックギターでの弾き語りが秦さんのベーシックなスタイルであることは間違いないわけで。
うん、それはもちろん。そういう意味ではとことん自分らしい作品なのかもしれないですね。自分の根幹である弾き語りをとにかくたっぷり聴いてもらうっていう。これでもかってほど自分が出てるアルバムですね(笑)。
──去年のライブ音源を聴き返すことで、改めて確認できたり、新しく発見できたりしたことはありました?
去年のツアーは21本だったんですけど、その中でも進化していったところもある反面、ここは変わってないなという部分もあって。まず、会場の特性がまちまちだったんですよ。ホール、ライブハウス、芝居小屋、美術館、酒蔵、野外劇場とかもあって、音の響き方も全然違う。そうするとお客さんとの距離だったり、演奏のテンポ感も自然と変わってくるんですよね。まあ、それがツアーの醍醐味でもあるんですけど。あとね、今回のアルバムは2枚組なんですけど、1枚目と2枚目では(収録楽曲の)コンセプトを変えてるんですよね。1枚目は、より近い距離で弾き語りを聴いてもらう。2枚目はライブ感を重視していて、MIXの処理もまったく違うんです。
──あ、なるほど。
(Disc 1の)1曲目に入ってる「やわらかな午後に遅い朝食を」がひとつのきっかけになってるんですよね。自分にとっての弾き語りはまさにこれだな、と思えたのがこの曲だったんです。楽曲は常に弾き語りで作ってるんですけど、その中でもこの曲はその色が濃いと思っていて。その流れを汲んで作られているのが1枚目ですね。
アコギ1本で成立してることが自分のスタイル
──「これこそが自分の弾き語りのスタイルだ」って思えるポイントは、どういうところなんですか?
音の響きやギターのリフからメロディラインができあがってきたことだったり……。要はアコギ1本で成立してるってことですよね。「僕らをつなぐもの」もそうなんですけど。アコギで曲を作ってるときも2パターンあって、ひとつは弾き語りだけで完結できてるんですよね。で、もうひとつは頭の中でほかの楽器の音を想像してるんです。
──もちろん、弾き語りだけで成立している楽曲にもいろんなニュアンスがあるでしょうし。
そうですね。弾き語りって、静かなイメージがあると思うんですよ。でも、それだけで捉えられるのはイヤだなっていうのはいつも考えていて。それは去年のツアーの中でも重要なテーマになってたんですよね、自分の中で。アグレッシブな楽曲を含めて、アコギ1本でどれだけ盛り上げられるかっていう。
──手応えはありました?
盛り上がるまで待つ、とか(笑)。とにかく自分ひとりでやってるから、いろんなことが自由にできるんですよ。例えばイントロを弾いているときに「ちょっと反応の立ち上がりが遅いな」って思えば、そのままイントロを伸ばすこともできるし。「みんな、固いな」ってときはMCで盛り上げる……とか(笑)。結果、アルバムの内容も緩急に富んで、かなりダイナミックレンジの広い作品になったと思いますね。Disc 1とDisc 2の対比にもそれがよく出てるんじゃないでしょうか。
──確かに“アコギの弾き語り”の一般的なイメージをかなり押し広げてますよね。
そこも意識してたところなんですよね、ひとりでやるライブの幅をどこまで広げられるかって。アコギだけじゃなくて、エレキやウクレレを弾いたり、Nintendo DSで打ち込みのリズムを使ったり。小さいバスドラムを踏みながら演奏するっていうアイデアもあったんですけど、それは技術的にムリでした(笑)。
──昨年3月の日本武道館ライブを成功させた後だからこそ、“ひとりでやる”ってことに意味があったのかも。
そうですね、武道館もだけど、アルバムを出した後のツアー(※2008年秋~年末にかけての全国9都市11公演に及んだ「ALRIGHT」ツアー)では、主要都市以外まわれなかったんですよね。弾き語りってすごく身軽だし、日本全国のみんなのところに歌を届けにいくこともできるんじゃないかなって。それが21本まわった理由でもあるし。この「GREEN MIND」ツアーで僕の歌を初めて生で聴いてくれた人も多かったと思うんです。だからすごく意味があったんじゃないかな、と。
DISC 1
- やわらかな午後に遅い朝食を
- 虹が消えた日
- シンクロ
- Lily
- 君とはもう出会えない
- 僕らをつなぐもの
- 最悪の日々
- 赤が沈む
- サークルズ
- 鱗(うろこ)
- dot
- Theme of GREEN MIND ※新録
- アイ(弾き語りVersion) ※新録
DISC 2
- 朝が来る前に
- フォーエバーソング
- Halation
- プール
- ファソラシドレミ
- Baby, I miss you
- キミ、メグル、ボク
- 花咲きポプラ
- 青い蝶
- 風景
秦 基博(はたもとひろ)
1980年生まれのシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を展開。2006年11月にシングル「シンクロ」でメジャーデビュー。強さを秘めた柔らかな声と、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」がチャート・トップ5入りを記録し、ブレイク。2008年には「キミ、メグル、ボク」「虹が消えた日」「フォーエバーソング」といったヒットシングルを続けてリリースし、2ndアルバム「ALRIGHT」発売後の全国ツアーから2009年3月に行われた日本武道館公演、そして5月から7月にかけて行われた弾き語りツアーのチケットすべてを即日ソールドアウトさせた。最近では冨田ラボ×松本隆とのコラボ作「パラレルfeat.秦 基博」やTHE YELLOW MONKEYトリビュートアルバムへの参加も話題に。