音楽ナタリー PowerPush - 花澤香菜
音楽に身を委ねる喜びの歌
2012年4月、シングル「星空☆ディスティネーション」で個人名義の音楽活動をスタートさせた花澤香菜は、以降も声優として多忙な日々を送りながら、意欲的に楽曲制作とライブ活動を重ねてきた。これまでの作品でもさまざまなジャンルを取り入れながら特徴的な声を生かした音楽を作り上げてきたが、3rdアルバム「Blue Avenue」ではジャズ、フュージョン、AORといった新たなジャンルを取り込み、さらにはSwing Out Sisterとのコラボレーションにも挑戦している。ディスコグラフィとライブ経験の積み重ねに比例して、ますます音楽に対する喜びと好奇心を高めている彼女。インタビューではアルバム「Blue Avenue」の話題を軸に、音楽への思いを語ってもらった。
取材・文 / 臼杵成晃
3年間で68曲
──花澤さんの個人名義でのデビューシングル「星空☆ディスティネーション」が発売されたのは2012年の4月なので、ちょうど丸3年が経つんですよね。3年間でアルバム3枚、しかもアルバム未収録のシングルカップリング曲も多くて……数えてみたら個人名義のオリジナル楽曲はすでに68曲あるんですよね。
えー! すごい!
──2ndアルバム「25」(参照:花澤香菜「25」特集)が25曲入りだったことも大きいですが、すでに通常のフルアルバム5枚分ぐらいの作品を発表している。キャラソンなどを含めるともっとすごい数になるし、短期間でこんなにレコーディングを行ったアーティストは稀なんじゃないかと。
なんかうれしいですね。ギネス申請できるなあ(笑)。作品を重ねるごとに、それまで経験したことなかった新しい音楽に挑戦できていて。「こんな歌い方ができたんだ」みたいな幅の広がりを自分でも感じられて、充実感もあるし、どんどん鍛えられていますね。今「星空☆ディスティネーション」を聴くと、たった3年前なのに自分でもすごく初々しく感じます。
──バリエーションが拡張されればされるほど、同時に確固たる個性も浮き彫りになってきていると思うんですね。いろんなジャンルの上に乗っかっているからこそ見えてくる個性というか。
ありがとうございます。積み重ねということで言うと、自分で歌詞を書いたりとか、ライブでの経験などを通して自分と向き合う時間がすごく増えて。それはすごく、歌うことだけでなく生活する上でも自分のためになっていると思います。「PSYCHO-PASS サイコパス」的に言うと、色相がずっと安定している感じ(笑)。自分についてよく考えることで、ずっとクリアカラーが保てている感じがします。
──声優という職業はある意味逆で、自分ではない想像上のキャラクターについて深く考える職業ですよね。
そうですね。音楽活動をしているとすごくバランスがいいのかもしれない。
生活と音楽が密接したニューヨークの街
──今作のテーマは「ニューヨーク」とのことですが、なぜこのテーマを?
ニューヨークはわりと後付けなんです。アコースティックライブの「かなまつり」(参照:花澤香菜、初の女子会「かなまつり」で新曲しっとり披露)みたいな少人数でのライブを何度か経験して、少ない音と声で作り上げる空気感っていいなと思っていて。3rdアルバムの方向性を考えているときに、「あの自由に音楽を楽しむ感じを生かすなら、ジャズをやってみるのもいいんじゃない?」って意見が上がったんです。その中でニューヨークというキーワードが浮かび上がって。ジャズの街でもあるし、ほかの新しい音楽に挑戦するのにも「ニューヨーク」をテーマにすれば統一感のある作品になるんじゃない?って。
──ジャズやフュージョン、AORなどの要素が盛り込まれた楽曲はまさに「ニューヨーク」というテーマにぴったりな新機軸ですよね。グルーヴ感のあるゆったりとした横ノリでもソウルフルに歌い上げるわけじゃなく、あくまで花澤さんの声や歌い方に合った表現になっているのがいいなと思いました。さまざまなタイプの音楽をどう取り入れて“花澤香菜の音楽”に仕上げるのかが、制作陣にとって課題であり面白味だったのかなと。
あー確かに。難しいでしょうね、そう考えると。私は作ってもらった曲を自分なりにすんなり受け入れて歌っていただけなので、もしかしたら裏ではみんな苦労しているのかも。
──ちなみに花澤さん自身は、ニューヨークという街にどんな印象を持っていましたか?
なんかもう、ポリス!って感じ(笑)。街のいたるところにポリスがいる! 怖い!みたいなイメージでした。実際はそんなことなかったんですけどね。
──ジャケット撮影や何曲かのオケのレコーディングはニューヨークで行ったんですよね。実際に目にしたニューヨークはポリス!ではなかったと。
実際はすごく安全な街でしたし(笑)、こんなに音楽と密接した場所なんだな、というのは行ってみて初めて実感しました。いたるところにジャズバーがあって、みんなTシャツに短パンで気軽に遊びに行くような雰囲気で。ポテト食べながら演奏を聴いて、ミュージシャンに話しかけて楽しむという時間が自然にあって、根付いてるんですよね。
──生活に密着した音楽がそこかしこにある。鳴ってる音楽に身を委ねるアコースティックライブでの経験を膨らますテーマとして、確かに「ニューヨーク」というテーマはぴったりかもしれませんね。
はい。街中に音楽があふれていたし、住んでいる人たちみんなが音楽を身近に感じてるんだなあって実感しました。
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- ニューアルバム「Blue Avenue」 / 2015年4月22日発売 / アニプレックス
- 初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 4104円 / SVWC-70064~5
- 通常盤 [CD] / 3240円 / SVWC-70066
CD収録曲
- I ♥ NEW DAY !
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:北川勝利 / ホーンアレンジ:村田陽一] - ほほ笑みモード
[作詞:岩里祐穂 / 作曲・編曲:Studio Apartment] - Nobody Knows
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:北川勝利 / 編曲:北園みなみ、北川勝利] - ブルーベリーナイト
[作詞・作曲・編曲:宮川弾] - Trace
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:mito] - こきゅうとす
[作詞・作曲:ティカ・α / 編曲:やくしまるえつこ、山口元輝] - Night And Day
[作詞・作曲・編曲:北川勝利 / ホーンアレンジ:北園みなみ] - タップダンスの音が聴こえてきたら
[作詞:花澤香菜 / 作・編曲:北川勝利] - We Are So in Love
[作詞・作曲・編曲:矢野博康] - プール
[作詞:花澤香菜 / 作曲:北川勝利 / 編曲:zakbee & Hatayoung、北川勝利] - Dream a Dream
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:Andy Connell、Corinne Drewery(Swing Out Sister)/ 編曲:Andy Connell / Produced by Swing Out Sister] - マジカル・ファンタジー・ツアー
[作詞・作曲・編曲:中塚武] - 君がいなくちゃだめなんだ
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:北川勝利 / ストリングスアレンジ:宮川弾] - Blue Avenue を探して
[作詞:西寺郷太 / 作・編曲:奥田健介]
初回限定盤Blu-ray収録内容
- Special Avenue(ドキュメンタリー)
花澤香菜(ハナザワカナ)
1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。同年12月に発売された5thシングル「恋する惑星」に続き、2014年2月には25曲入りの2枚組アルバム「25」を発表。4月からは4都市を回る初の全国ツアー「花澤香菜 live 2014 "25"」を行った。2015年2月には通算8枚目のシングル「君がいなくちゃだめなんだ」をリリースし、同年4月には3rdアルバム「Blue Avenue」を発表。5月からは初の東京・日本武道館ワンマンを含むライブツアー「花澤香菜 live 2015 "Blue Avenue"」を行う。