音楽ナタリー Power Push - fhána×アニメ「コメット・ルシファー」シリーズディレクター 中山敦史
作り手たちがのめり込む「コメット・ルシファー」の魅力
脚本の稿数に震えた
kevin 「コメット・ルシファー」はオリジナルアニメですが、最初の原案が生まれたのはどれくらい前のことなんですか?
中山 原案が作られたのは4年くらい前ですね。
一同 えー!!
中山 菊地(康仁)監督と、脚本の野村(祐一)さんがけっこう脚本を練っていたようで。脚本って手直しするたびに「1稿」「2稿」と数が増えていくんですが、ある話数の脚本には「12稿」って書いてあって……。
towana 12回も!
中山 しかもそこからまた手直ししたんですよ。コンテを発注する段階で「やっぱりこういう芝居を足そう」といったアイデアが出てくると監督が脚本をまた直して。僕はいろんな現場を担当してきましたけど、ここまで稿を重ねた脚本を見たことがなかったので震えました。
佐藤 稿を重ねたり脚本会議をする段階で、大まかなストーリーは決まっていると思うんですけど、アニメを制作していく過程で結末が変わってしまうようなことってあるんですか?
中山 「コメット・ルシファー」に関して言うと、大まかなプロットはあるんですけど、今それがすごい勢いで行ったり来たりしてる感じです。ちょうど今、菊地監督が最終話に向けてのコンテ作業を進めているところなんですが、結末が変わるんじゃないかっていう予感も少しあって……。
佐藤 ってことはアニメの放送が始まってから結末が変わる可能性はあるんですね。
中山 そうですね。脚本が遅れ気味なタイトルだと、第1話の放送が始まっても最終話の脚本を書き終わってないこともあるので、そんなに不思議なことではないと思います。
佐藤 アニメの中には、最終話で収集が付かなくて終わっちゃう作品もあって。そういうのを観たことがあったから気になってたんです。
中山 脚本や結末が定まっていないというのはオリジナルならではの現象だと思いますけどね。原作があるものだと、やっぱり原作を追う形になりますし、あまりにも変えすぎると「原作崩壊」と揶揄されてしまいますから。でも先の展開が読めないというのは決して悪いことばかりではなくて。先ほど佐藤さんがおっしゃったように僕らアニメスタッフも、“プレイヤー”の視点に立ってアニメ制作という冒険をしている感覚があるんです。本当はもうちょっと冷静になってコントロールしなくちゃいけないのかもしれないけど、のめり込んで作ってしまう、そういう力がこの「コメット・ルシファー」にはあるのかもしれないですね。
実は“毒だらけ”なアニメ
佐藤 僕がアニメを好きになるきっかけとなった作品の1つが「ふしぎの海のナディア」なんです。放送当時、僕はまだ小学生で普通に明るい冒険アニメかと思って観てたら主人公たちが乗る舟で毒ガスが漏れて、船長が大勢の乗組員を救うために、汚染区域に取り残された技師を助けずに犠牲にする話があって。その話を観たとき、グッと作品に引き込まれたんです。これは普通のアニメじゃないぞって。それから少し毒のあるアニメが心に刺さるようになって。「コメット・ルシファー」にもちょっと毒気がありますよね?
中山 皆さんには1話を最初にご覧いただいたかと思うんですが、実はそこから毒だらけとも言えるんです。
towana ええっ!?
中山 登場人物が、実はみんな毒みたいなもんですから(笑)。表面的な部分でも例えば敵のメカに乗ってる人間は昼間からお酒を飲んでいたり……。「コメット・ルシファー」は健全一辺倒な作品ではないんです。
佐藤 登場人物みんな、少しクセがあるというか。
中山 そうなんです。今後はいろいろと毒だらけになっていくと思います。
アニメにおける音楽の責任
佐藤 先ほど中山さんは「アニメにおいて音楽には力がある」とおっしゃってましたが、音楽を作っている側からすると「音楽の力ってあまりないな」って思うんです。例えば大ヒットした作品があっても、その理由が「音楽がよかったから」とはならないし、逆にあまりヒットしなかった作品に対して「音楽がダメだったからだ」ってことにもならない。僕はずっと、音楽ってアニメの中で責任が薄いのかなって思っていて。でも今回「コメット・ルシファー」に携わらせていただいて、オリジナル作品の場合、最初から絵と音楽がセットになった状態で皆さんに差し出されるからアニメと音楽がより一層リンクしてるというか、一体感が強いんだなと感じたんです。
──原作ありきのアニメ主題歌を担当するときとは、違った手応えを感じていた?
佐藤 そうですね。中山さんがおっしゃった「アニメだけだと弱い」っていうのは音楽も一緒で。全員が同じものを見聞きしているわけではないから、音楽だけだと感情が共有できないと感じるんです。でもアニメの主題歌やアニメ音楽は、“共通の物語”を体験した上で触れてもらえる。「主題歌のメロディを聴いたらストーリーを思い出す」っていう感じで。そうやって人と人との気持ちをうまくつなげる潤滑油みたいな存在に音楽はなれると思うし、そういうパワーがオリジナル作品のほうが強いと思ったんです。今回「コメット・ルシファー」の主題歌とイメージソングを担当させてもらえてすごく気合いが入ったし、音楽の立場からこのアニメが広がっていく手助けになればなって思っています。
- メジャー1stシングル「TOY」2015年10月28日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD+DVD]1944円 / COZA-1089
- 通常盤 [CD]1296円 / COCA-16999
アーティスト盤収録曲
- コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
[作詞:林英樹 / 作曲:佐藤純一 / 編曲:fhána] - c.a.t.
[作詞:林英樹 / 作曲:yuxuki waga / 編曲:fhána] - コメットルシファー ~The Seed and the Sower~(Instrumental)
- c.a.t.(Instrumental)
アニメ盤収録曲
- コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
- コスモスのように
[作詞:林英樹 / 作曲:佐藤純一、加藤達也 / 編曲:fhána] - コメットルシファー ~The Seed and the Sower~(Instrumental)
- コスモスのように(Instrumental)
- テレビアニメ「コメット・ルシファー」 / 10月より放送開始
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青く輝く鉱石ギフトジウムに覆われた惑星ギフトと、そのギフトジウムの採掘で栄える街ガーデン・インディゴを舞台に繰り広げられる少年少女の冒険譚。ガーデン・インディゴの少年ソウゴ・アマギやその仲間たちと、鉱石の中から現れた謎の少女フェリアとの出会いと、それがもたらす若者たちの成長と絆を描く。
メガホンを取るのは菊地康仁。「マクロスF」など、本格的なメカバトルと音楽を効果的に使った演出で知られる監督作とあり、巨大ロボット・ガーディアンらを巡る戦闘シーンと、ストーリーの進行にあわせてフェリア役の声優・大橋彩香が歌うエンディングテーマが変化する点も注目ポイントとなっている。
fhána(ファナ)
佐藤純一(FLEET)、yuxuki waga(s10rw)、kevin mitsunaga(Leggysalad)という3人のプロデューサーと、女性ボーカリストtowanaによる4人組ユニット。それぞれ個別に活動していた佐藤純一、yuxuki waga、kevin mitsunagaの3人が2009年に出会い、ボーカリストを固定しないユニットとして始動した。2012年秋にはゲストボーカルの1人だったtowanaが正式加入。「僕らはみんな河合荘」「ウィッチクラフトワークス」「ぎんぎつね」「有頂天家族」「天体のメソッド」といったアニメ作品でテーマソングを担当して高い評価を集めた。さらにChouChoや相沢舞のプロデュース、さよならポニーテールやDECO*27の楽曲のリミックスなども行っている。2015年2月には1stフルアルバム「Outside of Melancholy」を発表。翌3月には初のワンマンライブ「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」を開催した。同年10月、アニメ「コメット・ルシファー」とのタイアップ曲を収めたニューシングル「コメットルシファー ~The Seed and the Sower~」をリリース。