ナタリー PowerPush - 堂島孝平

芸歴20年目の第一歩

デビュー20年目に突入した堂島孝平が、通算15枚目のオリジナルアルバム「フィクション」を完成させた。2004年リリースの8thアルバム「First Beginning」以降は常にセルフプロデュースで作品を生み出してきた彼だが、今作では同世代の盟友・石崎光にプロデュースを一任。6/8拍子に乗せて朗々と歌い上げる「俺は、ゆく」、ミュージカルを連想させる「フィクションの主題歌」など、これまでになかった要素が数多く取り入れられた意欲作となった。ナタリーではアルバム完成直後の堂島に話を聞き、全曲の解説とアルバムに込められた真意をたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 小坂茂雄

 
mixiチェック

ワクワクしなくなるのが怖いんですよ

堂島孝平

──2012年には「A.C.E.」、2013年には「A.C.E.2」と、固定のバンドメンバーを迎えたアルバムが続けてリリースされましたが、この2作品はそれまでのキャリアとは一線を画すチャレンジの多いアルバムだったと思います。そして今回は石崎光さんと密にタッグを組んだ作品と、ここでまた大きく変化しましたね。流れを追ってきた人は「こう来たか」と驚くんじゃないかなって。

やっぱり「新しい表現の獲得」が大きなテーマだったんですよ。僕、来年でデビュー20周年なんですけど、この期におよんでまだ新しくなりたいっていう(笑)。でも根本的にそこが僕の肝でもあるし、今回に限ったことではないんです。生きている上での自分のテーマなんですよね。自分の音楽は基本的にセルフプロデュースの極みだと思うんです。曲を書く人、詞を書く人、歌う人が全部同じだからシンガーソングライターと言うんですけど、僕の場合は変な話、それぞれが分かれてる。最近は自分が歌いたいからこういう曲を書く、みたいな域からはちょっと抜けていて。自分がシンガーとしてどんな曲を歌うといいか、パフォーマーとしてどんな曲をやると面白く見えるかというのを自分の外側から判断するような、一種の……。

──多重人格みたいな(笑)。でも今作ではあえてジャッジを下すプロデューサーを自分以外に立てたと。

振り返ると僕は2004年ぐらいからセルフプロデュースを始めてるので、ちょうど10年ぐらい経っていよいよセルフプロデュースもやりつくした感じがあって。それをつまらなく感じたんです。たぶんね、ワクワクしなくなるのが怖いんですよ。「A.C.E.」「A.C.E.2」がめっちゃ楽しくて刺激が強かっただけに、じゃあ次は何をやろうと思うと、この10年でやってきた方法の延長ではワクワクできないなと。「A.C.E.」「A.C.E.2」はキャラクターとしての自分をデフォルメして楽しんだところがあったので、逆に次は「自分は何者でもない」というところに脳を転化させたかったんです。何者でもなくなったときに、何にでもなれるんじゃないかなって。

──ワクワクしなくなる恐怖って、どんな気持ちから生まれてくるものなんですかね。

僕はね、「新作いいね」ってすげー言われたいんですよ(笑)。それが大事なんだよなあ。音楽を作る気持ちの持ちようとして「こんな音楽がやりたい」というよりも、新しいものを発見したい、発明したいという欲求が、たぶん異常に強いんです。セルフプロデュースという手法すらも「自分にとって新しくない」という判断で今回は破りたかった。……ここが極端なところなんですけど、光くんというパートナーに付いてもらったら、もう自分で作るとか作らないとか大した問題じゃなくなってくるんですよね。なんでも極端なんですよ。性格的にもやり方的にも。

アメリカンだけじゃなく深煎りも

──新しいワクワクを生むためのパートナーに石崎さんを選んだのはなぜですか?

堂島孝平

光くんは自分に近いところを挙げるとすると、同じようにトンガった考え方ができることと、そういう精神を持って叩き上げでここまで来ていること。僕も同じでエリートではないんです。あとは音楽的な相性として……彼は自分のスタジオを「LONDON studio」と名付けているぐらいで、同じ晴れの景色を描いたとしても彼の場合は若干スモーキーなんですよ。少し大人っぽくて、どんよりしている。僕は「A.C.E.」「A.C.E.2」を通して、タームとして一点の曇りもないとこまで行ってたので(笑)。

──あはははは(笑)。

自分の声質や音楽に対して、スウィートに思われすぎてしまうことをどうにかしたいと本能的に考えてしまっていて。光くんと組むことで、それをビタースウィートにすることができるんじゃないかと。これから新しい表現を手に入れるためにも、苦さとか、焦げついた雰囲気を必要と感じたんだと思います。アメリカンコーヒーだけではなく、深煎りまで淹れられるようにならないといけない。

──客観視できるプロデューサーを迎えたことで、曲を書く人、詞を書く人、歌う人、それぞれの自分に変化はありましたか?

「自分は何者でもない」というところに身を置いたことで、歌う人、シンガーとしての表情はかなり豊かだと思います。作詞家としても、今までやってきたことを大事にしながらもさらに一歩踏み込んだ歌詞が、縁取り濃く書けたような気がしていて。それは光くんという人のボトムがしっかりしているからこそで。

──確かに作詞家・堂島孝平の変化はすごく感じました。ユーモアと整合性みたいなところで、まさに「縁取り濃く」という表現がしっくりくるような。

「A.C.E.」「A.C.E.2」辺りからコピーライター的な感覚で歌詞を書くという感じがありましたけど、ホントに「こんな歌あったらオモロいのにな」と思うものを全力でやってるみたいな。気持ちの中で半分ぐらいノベルティに足突っ込んでるみたいなところはありますね。

自分なりの「マイ・ウェイ」を

──ちなみに今回のアルバムで最初にできた曲はどれですか?

堂島孝平

シングルとしてもリリースした「シリーガールは振り向かない」でしたけど、光くんと一緒に作り始めたのは「俺は、ゆく」なんですよ。先にこっちのアイデアが浮かんだんだけど「これは大事な1曲になるな」という予感がして、一旦止めておいたんです。光くんと組むことで起きている変化の種を、もうちょっと撒いてからのほうがドーンと行くタイプの曲だと思ったので。

──これまでの堂島作品にはなかったムードを持つアルバムだけに、どの曲を起点にこのアルバムが形作られたのかが気になってたんです。それが「俺は、ゆく」だったというのは、なかなか興味深いですね。

そのときはまだ歌詞もなくて「俺は、ゆく」というタイトルとアイデアだけだったんです。光くんと「堂島くんは6/8のリズムでスローバラードを歌うの似合うと思うんだけど」「それはシナトラで言う『マイ・ウェイ』ってこと?」「そうそう!」って盛り上がって。20周年でもあるし、俺はこの道を歩いてきた、I Must Go On、みたいな曲を作ろうかと。今、急に布施明さんみたいな男っぽい世界を作るのはめっちゃオモロいなって(笑)。で、「俺は、ゆく」というタイトルが浮かんで。

──おそらく堂島さんのファンはみんな、デビュー曲「俺はどこへ行く」(1995年2月発売の1stシングル)を思い浮かべたと思うんですよ。あのときさまよってた青年が道を見つけたぞ!と(笑)。

うん(笑)。あとアルバム制作よりもっと前にマネージャーから、「25才」(2002年1月発売の16thシングル「冬が飛び散った / 25才」収録)のように、今37歳にして思うことを書いてみるのはどうですか、と言われたことを思い出して。言われたときは全然ピンと来てなかったんですけど、「俺は、ゆく」の話をしている最中に「確かに25歳のときに思っていなかった気持ちが今はあるな」って気が付いて、それがだんだん「俺は、ゆく」のアイデアにつながっていったんです。

──「自分なりの『マイ・ウェイ』をやる」って発想は、少し前なら絶対になかったですよね。

そうなんですよ。一番大胆な振り幅から制作がスタートしたことは、このアルバムにとって確かに大きいですね。

ニューアルバム「フィクション」2014年3月26日発売 / IMPERIAL RECORDS
ニューアルバム「フィクション」
初回限定盤 [CD+DVD] 3675円 / TECI-1396
通常盤 [CD] 2940円 / TECI-1397
CD収録曲
  1. 俺は、ゆく
  2. フィクションの主題歌
  3. 嘘だと言ってくれ
  4. OH!NO!
  5. 誰のせいでもない
  6. 透明になりたい
  7. シリーガールはふり向かない
  8. トワイエ
  9. いとしの第三惑星
初回限定盤DVD収録内容
  • 「堂島孝平ノンフィクション 2013.10~12」
堂島孝平(どうじまこうへい)
堂島孝平

1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。2012年3月21日にはImperial Records移籍第1弾オリジナルアルバム「A.C.E.」、2013年1月にはその続編となる「A.C.E.2」をリリース。2004年以降はセルフプロデュースで作品を発表してきたが、2014年3月には石崎光をプロデューサーに招いた通算15枚目のアルバム「フィクション」を完成させた。