ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN

「FINAL FANTASY」制作陣との信頼から生まれた“日常を歌う”曲

ホントに自動的にこうなったという感じ

──資料によると、「ゼロ」の楽曲制作に入る前に、藤原さんと「零式」制作チームとのミーティングがあったということで。そこではどんな会話を交わしたんですか?

藤原 えーっと、どんな話をしたかな……まず資料を見せていただいて、開発中の「零式」の画面も見せていただきましたね。資料も5、6ページくらいのもので。文章よりもイラストが大きく載っているようなものでした。キャラクターだったり、イメージカットが。先方から「こういう曲にしてほしい」とか「テンポはこのくらいで」とか具体的な要望は特になかったんですよね。ああ、任せていただけるんだと思って。

──先方からの具体的な要望がない中で、どういうイメージを持って作曲をスタートさせたんですか?

藤原 まず、ミーティングのときに見せていただいたイラストのイメージがとても大きかったと思います。それは「零式」のキャラクターが一堂に会しているものなんですけど。あとはもう、作曲用に録ってもらったスタジオのブースに入って、イラストのイメージと自分がミュージシャンとして、BUMP OF CHICKENとして表現したいことを曲にしていくといういつもと同じ流れでしたね。

──「零式」のストーリーを思い浮かべたりすることは?

藤原 いや、特になかったと思います。強いていえばキャラクターのイラストと戦争の歴史を追っていくようなストーリーであること、というくらいかな。ブースに入ってギターを持つと、自然と意識がニュートラルになるんです。だから、そこで特に改まるようなことはなくて。気付いたら曲が書けているような感覚でした。ギターをバンバン弾いて、バンバン歌って、言葉をちょっとずつ書いていく。こういう曲にしようという明確なイメージを心に抱くということはなかったですね。

──「ゼロ」は、生命と生命の交わりとその終わりを深遠な筆致で焼きつける、魂の歌だと思いました。サウンドは全体的に荘厳かつシリアスなムードをたたえているけれど、音、メロディ、言葉の連なりが皮膚感覚に近いものとして迫ってくるような感動があって。「零式」の世界観の核心を想起させながら、その実やはりBUMP OF CHICKEN然とした歌になっている。

藤原 ありがとうございます。これは……ホントに自動的にこうなったという感じなんですよね。特別真新しい何かにチャレンジしているわけでもないし……。

──テーマ的にも、藤原さんが、BUMPが、これまでもずっと描いて鳴らしてきたことですよね。

藤原 僕もそう思うんです。で、「零式」の制作チームのみなさんもそういうものを求めてくれていたと思うので。それゆえにありがたいご依頼だったんですけど。ホントにね、最近は曲を作るぞってギターを持つと、本能的というか、無自覚な作業になってくるので。こういう答え方しかできないんですけど、大丈夫ですか?

──大丈夫(笑)。ますます作曲という行為が言語化しづらいものになっているという感じですか?

藤原 そうですね。気付いたらできていました、みたいな。気付いたらブースで何時間か経っていて、ある程度できていましたみたいな感じですね。

──「COSMONAUT」以降、特にそういう感じが強まっている?

藤原 ああ、それはあるかもしれないですね。

曲を書くときはどうあがいても、自分が生きている現実に意識が行く

──話しづらいところを食い下がるようで申し訳ないんですけど、確かにテーマはこれまでも一貫して描いてきたことだと思う。ただ、この「ゼロ」という曲は、過去の楽曲群を鑑みても、命の在り方や魂の気配を曲に刻みつける筆致が強いと思うんです。

藤原 うんうん、確かに。僕の曲の中でもそういう成分が強い曲だと思います。そうですね……最初にいただいた「零式」の設定資料に十数人の主要キャラクターが描かれていて。そのバックの背景は赤黒い感じで、あれは燃えているんだと思うんですけど。

──戦火ですか?

藤原 うん、戦火だと思います。そこに十数人のキャラクターがそれぞれ武器を持っていて。戦いを予感させるようなイラストですね。その記憶が曲の全体像に作用しているのかなと思うんですけど。ただ、曲を書くときはどうあがいても、自分が生きている現実に意識が行きますので。最終的にはメンバーのことや家族のこと、そしてずっと僕らの音楽を聴いてくれているリスナーのみなさん、ライブを観に来てくれる人たち……そういうところに向けての歌になっていくんですよね。だから、この曲も僕にとっては日常を歌っているものでもあって。

──日常で感じていること。

藤原 そう、日常で感じていることを歌っていますね。僕は今32歳ですけど、32年間生きてきたことを書いている。それをどう捉えるかは、受け取ってくれたリスナーの皆さん一人ひとり次第だと思うので。うん、そういうことですね。

──壮大で、陰影豊かなメロディはどのように生まれましたか?

藤原 メロディはコードが呼び寄せたものですね。メロディが先にあってそこにコードがついていくパターンもあるし、メロディとコードが同時というパターンもあるんですけど。今回はコード先行型だったと思います。最初から自分の中でマイナー調からはじまり、サビでメジャー展開になると感じていて。ギターを持ったときらそうなっていたというか。メロディも僕の意識のあずかり知らないところで決まっていったような感覚がありますね。Aマイナーの、流れの中でDコードが出てきて。で、サビはCで歌うことが最初から決まっていたような……。おかしなことを言ってるようですけど、そういうものなんですよね(笑)。

ニューシングル「ゼロ」 / 2011年10月19日発売 / TOY'S FACTORY / LONGFELLOW

  • 初回盤[CD+DVD] / 1500円(税込) / TOY'S FACTORY / LONGFELLOW / TFCC-89349 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. ゼロ
  2. Smile
  3. ゼロ (“FINAL FANTASY零式” オープニングver.)
DVD収録曲
  1. ゼロ (“FINAL FANTASY零式” 特別編集MV)
  2. ゼロ (“FINAL FANTASY零式” オープニングver.ダイジェストMV)
通常盤[CD] / 1500円(税込) / TOY'S FACTORY / LONGFELLOW / TFCC-89350 / Amazon.co.jpへ
収録曲
  1. ゼロ
  2. Smile
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)

アーティスト写真

藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。

その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンを中心に熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させた。

2009年11月に両A面シングル「R.I.P. / Merry Christmas」を発表したあとは、精力的なペースで楽曲をリリース。2010年4月にシングル「HAPPY」「魔法の料理 ~君から君へ~」を、10月にシングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」を発売。12月には宇宙飛行士を意味する単語をタイトルに冠したアルバム「COSMONAUT」をリリースした。

さらに2012年2月には「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~」の主題歌として書き下ろした「友達の唄」をシングルとして、5月には東日本大震災被災者を支援する「復興支援ポータルサイト」のテレビCMソング「Smile」をチャリティシングルとして発表。10月に、PSPゲームソフト「FINAL FANTASY 零式」テーマソングとして書き下ろした「ゼロ」をシングルリリースし、12月からは約3年半ぶりの全国ツアー「BUMP OF CHICKEN 2011-12 TOUR『GOOD GLIDER TOUR』」に乗り出す。