音楽ナタリー PowerPush - BOOM BOOM SATELLITES
“生きた証”の作り方
何をやっても冒険になる
──本当に、BOOM BOOM SATELLITESはあとにも先にも似たような存在がいない場所に立っていますよね。
中野 だから、何をやっても冒険になっちゃうんですよ。これまであまりにも正直に生きてきたので(笑)。同じようなことをしそうになると、いつも「それはもうやったから」って思ってしまう。
──もしかしたらその理由の1つは、0から100まで全部自分たちだけで音楽を作っているからじゃないですか? 毎回土台から全部作っているからこそ、土台は同じで、その上に違うものを乗せるだけのようなことができないという。
中野 ああ。
川島 それはあるかもしれない。
中野 まあ、今回の“冒険”もちゃんとこうして着地できたし、「なんとかできるもんだな」って(笑)。
この世から去る前に何が残せるのか
──川島さんの脳腫瘍の再発はあったけれど、その前から決めていたリリースの予定からズレることはなかったと聞いて、とても驚きました。
中野 今回は迷いようがなかったんですよね。もちろん、1日の中での迷いは毎日のようにあったけど、アルバムを完成させる上でのビジョンがブレるようなことは一度もなかったですね。正確に言うと、それどころじゃなかった。
──川島さんは、アルバムの制作過程の一時期は、「これが人生で最後のアルバムになるかもしれない」という思いで作っていたと聞いているんですけど、ちょっとその心境というのが自分には想像ができなくて。無神経な質問で恐縮ですけど、その当時の心境がどういうものだったのか教えてもらえますか?
川島 アルバムの制作をスタートさせた直後に再発の告知をされたんですが、それでも僕はどうしてもこのアルバムの制作に戻りたくて。確かに、途中で精神のバランスを崩すこともあったんですけど、それも1日の中の数分で、あとは作品を仕上げることに夢中になっていたから。この世から去る前に自分に何が残せるのか、何を伝えることができるか。それだけを考えてましたね。
──考えてみると、そういう思いで作られた作品って、少なくともポピュラーミュージックの世界においてはほとんど例がないと思います。そして、そのことは確実にこの作品の核の部分に反映されていると感じられる。
中野 作っているときは集中しているんですけど、ふとしたときに目線をずらすと、そこに恐怖があって。でも「ああ、これを作ったら川島くん死んじゃうのかな」とか考えても、どうしようもないから。とりあえずそれは置いておいて、今は目の前の作業に集中しようっていう。音楽以外のことはほとんど考えないという、そういう日々でしたね。
川島 うん。
中野 手が止まったときのほうが怖いんですよ。手が止まると、不安と恐怖に支配されてしまう。音楽を作ることで、なんとか精神のバランスを取っていた感じでした。
──それはそのまま、この作品の強度として表れていると思います。
中野 そうかもしれないですね。「恐怖に打ち勝つためにがんばった」っていうのではなく、音楽に集中することで恐怖から視線を外すことができた。それは今こうして思い返すと、とても貴重な時間でした。
どの曲も僕らが生きた証
──インタビューを読んでいる人が心配になるかもしれないので改めてここで確認をしておくと、現在は川島さんの治療の経過も良好で、BOOM BOOM SATELLITESはこれからもライブを精力的にやっていくし、今後、新しい作品に取りかかっていくわけですよね。
中野 はい。今回の「SHINE LIKE A BILLION SUNS」は非常にモニュメンタルな作品になったと思うし、聴いた人たちがこれまで以上に強い思い入れを持ってくれているという反応からも強く感じていて、それはすごくよかったと思っているんだけど。ただ、今の自分たちにとってこの作品は記念碑のような作品かもしれないけど、いつかはこれも通過点になっていてほしい。BOOM BOOM SATELLITESの未来にずっとワクワクしていたいと思っています。アーティストとして、この先にまた希望を見出していきたい。ずっと手を動かしていきたい。
川島 あまり重くは受け取めてほしくないんですけど、この「SHINE LIKE A BILLION SUNS」という作品は、どの曲も僕らが生きた証だから。この作品を、サバイバルグッズを身に付けるように、いつも心のどこかに携えてもらいたい。それで、誰かを勇気付けることができたり、誰かが悲しんでいるときに力になることができたらなって。今はただ、そうなることを願っています。
- ニューアルバム「SHINE LIKE A BILLION SUNS」2015年2月4日発売 / Sony Music Records
- 初回限定盤 [CD+CD-ROM] 3780円 / SRCL-8688~9
- 通常盤 [CD] 3240円 / SRCL-8690
CD収録曲
- SHINE
- ONLY BLOOD
- COMPLICATED
- A HUNDRED SUNS
- VANISHING
- BACK IN BLACK
- THE MOTH(attracted the flame)
- BLIND BIRD
- OVERCOME
- STAIN
- EMERGENCE
初回限定盤CD-ROM収録内容
- SAMPLING DATE DISC A HUNDERED SUNS -STEM-
BOOM BOOM SATELLITES(ブンブンサテライツ)
中野雅之(Programming, B)、川島道行(Vo, G)によるロックバンド。エレクトロニックサウンドとロックを融合させた独自の音楽性で、類をみないオリジナリティを誇示している。1997年にベルギーのレーベルからマキシシングル「JOYRIDE」を、1998年には初のフルアルバム「OUT LOUD」を発表。日本国内だけでなく海外でも絶大な人気を集めており、海外ツアーを開催するほか、著名なフェスティバルにも多数出演している。2013年1月にはオリジナルフルアルバム「EMBRACE」を発表。自身の楽曲のパーツを提供し、リミックスコンテストを開催するなど型にはまらない活動を展開するも、川島の脳腫瘍治療のため5月の日本武道館公演までライブ活動を休止。11月に同公演の模様を収めたCD+DVD / Blu-ray「EXPERIENCED II -EMBRACE TOUR 2013 武道館-」をリリースした。2014年3月はワンマンツアー「TOUR 2014 STARTING OVER」を実施。その後4度目の発症となる川島の脳腫瘍の治療と並行し、数々のフェスやライブイベントに出演。2015年2月には2年ぶりのオリジナルアルバム「SHINE LIKE A BILLION SUNS」をリリース。3月にレコ発ライブをEX THEATER ROPPONGIにて開催し、5月には全国ツアー「FRONT CHAPTER Vol.4」を展開する。