ナタリー PowerPush - Base Ball Bear
結成10周年を経て辿り着いた新境地 ニューシングル「yoakemae」制作秘話
試行錯誤の末に完成した「yoakemae」
──いや、でもみんなが今話してくれたことのフィードバックはこの「yoakemae」という強力な1曲にバッチリ表れていると思う。各パートの音の鳴りもアレンジもかなり刺激的な更新が果たされていて。小出君の原点であるニューウェイブのダイナミズムを現在進行形のモードで昇華できていると思う。これはどういう流れの中から生まれた曲ですか?
小出 3.5thを踏まえて、サウンドのイメージも含めて自分のやりたいことは頭のなかに固まっていて。いつもそうなんですけど、普段から固まってるアイデアはあるんだけど、特に何も作らずにスタジオに行って音を出してから組み立てていくという感じなんです。「yoakemae」もそんな中で始まった曲で。最初はもっとテンポが遅くてミニマルな感じだったんですね。その日のうちに1コーラスできたんですけど、どうも最初に自分が描いていたイメージと違って。で、1回ボツにしたんです。
──そうなんだ。
小出 それが去年の12月になる前で、12月になってから今度は僕がひとりで曲作りをする長めの時間ができて。「yoakemae」でしくじったと思ったから、考えすぎてなかなか作業が進まなかったんですよね。悩みながら何曲か上げて、その中からシングル候補をどうしようってなったときに、ディレクターから「あれ、『yoakemae』は?」って。「あれ良かったのに、なんで入ってないの?」って。俺は1コーラスができた時点でボツ曲のつもりだったから、そこまで深く聴き直さなかったんですよね。で、改めて聴いてみたら「なるほどな」って思って。
──悪くないじゃん、って?(笑)
小出 うん(笑)。それから、「yoakemae」ともうひとつのシングル候補曲を同時に進めることになったんだけど、そこからがまた大変で。まずシングルっぽいサビをつけたんだけど、それが強すぎて。で、元に戻ったのがこのメロで。それからバンドリハをやってサウンドを録ったんです。歌も入れて。で、これをトラックダウンしますってときになって、僕が最初から描いていた、いわゆるダンスっぽい音像の組み立て方をやってみたらサビが死んじゃって。
──それはダンスとロックのバランスというところなんですかね?
小出 そうですね。この曲の構成として、前半にダンスっぽい処理があって、バンドっぽいサビからまた曲が開けていくという展開なのに、前半の音像の処理でサビが全然おいしくなくなってしまったという。逆にバンドっぽいほうに振り切れば活きてくるのかなと思って組み立て直した結果、今度は最初のダンスパートが死んじゃったんですよ。
──ものすごくデリケートなバランスだった。
小出 で、後日行き着いた答えが、そもそもフォーマットどおりの音像処理をやっただけでは目指したいところにいけないと。ということは、これからやろうと思っていることはノウハウがないことだから、自分たちでフォーマットをイチから作らなきゃいけないということがわかって。逆にうれしいみたいな(笑)。
──またひとつ発見を積み重ねることができる、と。
小出 うん。そこで初めて自分たちのサウンドアイデンティティを見つけることができると思ったんです。また朝6時くらいのスタジオで(笑)。それで後日トラックダウンしたものが、この「yoakemae」なんです。
──なるほど。音像処理も含めて、サウンドとしてひとつ大きなものをつかめた曲になった。
小出 そうなんですけど、このあと第2弾シングルの曲を録り終えたときにさらに結実したんですよ。だから、「yoakemae」をアルバムに収録する際には、またトラックダウンし直します。
チーフマネージャーの一言がライブを変えた
──この曲は、それぞれのプレイヤビリティの向上もハッキリと感じられる。だからこそ、サウンド全体がこれまで以上の求心力をたたえていて。
小出 ありがとうございます。3.5thから「yoakemae」に至るまで、もうひとつ大きかったのは、3.5thをリリースするまでに出演した夏フェスと、前回のツアーなんですよね。夏フェスのときにメンバーやスタッフと話して、武道館を踏まえた上でのライブの在り方、ライブでの音の鳴り方をものすごく神経質に作っていったんですよ。それは、武道館直後くらいのライブ終わりでチーフマネージャーに「ライブでドキドキしなくなった」って言われたからなんですけど。
──それは重い一言ですね。
関根 それからリハですごく神経質にテンポ感とかいろいろ気にするようになって。
小出 だから年末の「COUNTDOWN JAPAN」が終わったときにやっと笑顔で「良かったね」って言ってもらうまでは、去年1年間ライブでちーっともいい思いをしなかったんですよね。
堀之内 またそういう時期に限っていろんなハプニングがバンドに降りかかってくるんですよね。「はい、これを越えていきなさい」って。「なんでそんなに全体のハードルを上げてくるの?」って思ったんですけど。だから、バンドとして経験したいろんな出来事がこの「yoakemae」の音に反映されていると思います。
小出 うん。「yoakemae」のレコーディングのときも「自分たちが今出してるグルーヴはどう思う?」とか「このグルーヴは俺が思っている感じじゃないんだけど、みんなどうなの?」とかってすごく言いましたから。精神論でも音楽論でもないところのせめぎ合いがあって。そういうことをずっとやってきたから、今やっているツアー(「10th Anniversary『SAYONARA-NOSTALGIA TOUR』」)は結構良いライブができているんですよね。チーフマネージャーが初日から「今日良かったね」って言ってくれて。
堀之内 それまでけっこうシビアに根本的な話までしたもんね。
小出 そう、俺は関根に対してもすげえキレましたし。バンド始めてから最大のキレ方で。
関根 「埼玉帰れ!」とまで言われて。
小出 湯浅に言ったこととほとんど同じなんですけどね。
関根 そういうことがあったけど、今はメンバー的にもライブがどんどん楽しくなってきていて。いい流れの中にいると思います。
Base Ball Bear(べーすぼーるべあー)
2001年、同じ高校に通っていた4人のメンバーにより、学園祭に出演するために結成。高校在学中からライブを行い、2003年11月にインディーズで初のミニアルバム「夕方ジェネレーション」を発表。その後も楽曲制作、ライブと精力的な活動を続け、2006年にメジャーデビュー。「GIRL FRIEND」「ELECTRIC SUMMER」「STAND BY ME」などシングルを連発し、同年11月にアルバム「C」をリリースした。2007年には「抱きしめたい」「ドラマチック」「真夏の条件」「愛してる」といったシングルや、アルバム「十七歳」を立て続けに発表。その後も順調にリリースを重ね、2010年1月には初の日本武道館単独公演を開催する。2010年9月、3.5thアルバムと位置付けたコンセプトアルバム「CYPRESS GIRLS」「DETECTIVE BOYS」を発表。