音楽ナタリー Power Push - AWA×音楽ナタリー My Music History

Case 3:木村カエラ

流行の音楽が自分の作品に与えるもの

──ここまで1990年代のメジャーシーンど真ん中の音って感じでしたが、The Raptureは2000年代のUSインディーシーンのバンドですね。

木村カエラ

20代前半の頃、世の中的にポストロックが流行り始めてたんですけど、The Raptureはその筆頭の人たちですね。私はこの頃「リルラ リルハ」(2005年発表)をリリースした頃だったので、忙しさで「ワーッ!」ってなってる感じと彼らの音楽のせわしない感じがちょうど重なったんです。自分の気持ちと音楽がマッチするっていうのはひさびさで。その影響から私も「Circle」(2006年発売の同名アルバムの表題曲)みたいに打ち込みの音をやり始めて。

──リリー・アレンの曲はThe Raptureと同時期に?

そうですね。で、この曲には歌詞にガツンとやられたというか。かわいく歌を歌ってるし、サウンドもすごく面白いのに歌詞は「Fuck You」って。かわいいだけの世界に反発して、違和感をぶち込む感じがなんか素敵だなって思ったんです。そんな彼女の音楽をすごく聴いてたから「HOCUS POCUS」(2009年発売の同名アルバムの表題曲)がそういうモードになって。あの時期はこういうおもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドが好きで、自分もまさにそのモードだったんです。

──The Raptureやリリー・アレンの曲を聴いたときにはカエラさん自身もアーティストとして活動をしていたんですね。そして同時代の音楽を聴くことで自分の音楽性も更新したと。でもカエラさんの作品性はそのときそのときのものに流されることなくインディロックやパンクっていうものが根っこにあってブレてない気がします。

うん、それは変わらないかな。変わらないものがあるっていうその上でサウンドが表面的に変わることはありますね。

木村カエラのアンテナ

──The B-52'sのこの曲自体は古いけど、カエラさんが知ったのは最近なんですね。

木村カエラ

はい。「ROCK」ってコラボカバーアルバムを作るときに1970、80年代の音楽シーンにどういうアーティストがいたのかってのを調べて出会いました。とはいえ、もともと私が小学生の頃によく聴いてた「フリントストーン」実写版の映画主題歌(「(Meet) The Flinstones」)も歌っていたのは彼女たちなんですよね。今回プレイリストを作るときにThe B-52'sと「フリントストーン」の曲を両方入れたいと思っていて、そこで同じ人だと気付きました(笑)。だから好きなものって昔から変わらないんだなあ、ブレてなくてよかったって。声とかノリとか、たまらないですよね。

──その一方でThe Chainsmokersの楽曲っていう最近のヒットナンバーもプレイリストには入っています。

そう、ラジオでかかってるのを聴いて「今っぽい、新しい音楽だな」って思ってすぐチェックしました。リリー・アレンやM.I.A.みたいに打ち込みだけどヌケのいい生音も入ってる感じ。それで「この曲何?」って。

──カエラさんはいつも新しい音楽とどういう形で出会っているんでしょうか。The Chainsmokersのようにラジオとか?

ラジオもそうだし、テレビの音楽番組で観たミュージックビデオからっていう場合もあります。

──意識して新しい音楽に触れようとしている?

以前ラジオでレギュラー番組をやってたときには新しいものがどんどん自分のところに入ってきましたけど、最近はそんなに。曲を作ってるときなんかは特に人の曲を聴かないようにしてます。やっぱり記憶に残っちゃうし、そこに影響を受けると歌詞も自分の言葉で本当に書きたいものが書けなくなっちゃうんですよね。曲作りが一段落したら移動中の車とかでまた聴き始めます。

自分につながる音

──こうやって8曲並べるとバラバラのように見えて、不思議とどれも木村カエラにつながる要素があるラインナップになってましたね。

木村カエラ

ね。自分の好きなものがちょっとずつあるというか。

──ちなみにカエラさんが初めて買ったCDは?

小学生のときなんですけど、とんねるず「ガラガラヘビがやってくる」か、ディズニーのいろんな映画の曲が入ってるコンピレーションアルバムですね。ディズニーのほうは小学生のときにお年玉で買ったもので、それを繰り返し聴いてて。当時の私はその世界で生きてたようなもので、アルバムを聴きすぎるあまり木は動くものだと思ってたし、風もしゃべれると思ってたので(笑)。モダンチョキチョキズの「エケセテネ」とかが好きだってところもディズニーアニメの不思議な世界観と共通しているのかもしれません。

──ああ、そのアバンギャルドな感じも今のカエラさんにつながる(笑)。

テレビで観て「えっ、こんなふざけた感じで歌っていいんだ?」っていう衝撃を受けましたからね。

「人の心を打つものが何か」わかるサービス

──カエラさんはAWAを使ってみましたか?

はい。自分でプレイリストを作れるっていうの、すごくいいですよね。みんながどういうものが好きで、どんなものを聴いてるのかっていうのがわかる。

──個人で曲のリストを公開できるっていうのがいいですよね。

うん。人の心を打つような音楽って昔はもっと大きな広がり方をしたと思うんだけど、今はそんなに広がらない気がしていて。心に秘めてる人が多くなったからなんじゃないかなって思うんです。リストっていう形は新しい音楽情報の得方だなって思いました。

──カエラさんの8曲も何かの入り口になりそうですね。

うん。そうなってくれるといいなって思います。

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木村カエラ ニューシングル「EGG」/ 2015年9月2日発売 / ELA
「EGG」
初回限定盤 [CD+DVD]1944円 / VIZL-855
通常盤 [CD]1296円 / VICL-37088
CD収録曲
  1. EGG
  2. SHOW TIME
  3. オバケなんてないさ
  4. EGG(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
木村カエラ ライブハウスTOUR2015 「MITAI KIKITAI UTAITAI」 at 下北沢Shelter 2015.6.23 ライブ&ドキュメント
  1. sonic manic
  2. c'mon
  3. Satisfaction
  4. Level 42
  5. one more
  6. TODAY IS A NEW DAY
木村カエラ(キムラカエラ)
木村カエラ

1984年生まれ、東京都出身の女性シンガー。テレビ番組「saku saku」への出演をきっかけに、2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビュー。2005年3月発売の3rdシングル「リルラ リルハ」が大ヒットを記録し、一躍全国区の人気を獲得。2006年には再結成したサディスティック・ミカ・バンドにボーカルとして参加した。2007年6月に初の東京・日本武道館公演を成功させたほか、2009年7月に神奈川・横浜赤レンガパーク野外特設ステージにてデビュー5周年記念ライブを行い約2万2千人を動員。同年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場し、ヒット曲「Butterfly」を披露した。2013年からはビクターエンタテインメント内にプライベートレーベル「ELA」を設立し、コラボカバーアルバム「ROCK」を発表。デビュー10周年となる2014年6月には横浜アリーナで2DAYSの大規模ライブを行い、同年12月にオリジナルアルバム「MIETA」をリリース。2015年9月にシングル「EGG」を発表する。