音楽ナタリー PowerPush - ASIAN KUNG-FU GENERATION

4人に立ち返ったアジカンが描く「Wonder Future」

郷に入っては郷に従え

──実際のレコーディングはどういう形で進めていったんですか?

一応、日本で録る曲を絞って、サウンドプロダクションもガチっと決めてからアメリカに行きました。でも、実際に行ってみたら思った以上にドラムの音が大きくて。ギターの音が薄いと物足りないと思って、急遽バッキングのギターを2本重ねて録ったり。しばらくギターを重ねるスタイルは封印してたんですけどね。だから現地でアレンジを変えた曲もあるし、歌詞もロスで書いたものもあるし。

──レコーディングにかかった期間はどれくらいだったんですか?

16日かな。で、帰ってきてから諸々録りこぼしを整理して。実際に稼動してる期間は3週間くらい。1年かけて曲作りをして、1カ月でレコーディングした感じです。

──皆さんにとって新しい経験になったと思いますが、いかがでしたか?

ASIAN KUNG-FU GENERATION(Photo by Malia James)

とにかく環境を含めてすべてが新しかったですね。スタジオが大きいし、あらゆるものがダイナミックなんで、音も自ずとそうなったところがあります。あとは現場にいるエンジニアたちの影響が大きいですね。スタジオ自体に漂っている雰囲気がよくて。とにかくみんなポジティブなんですよ。マイナスなことを探すのではなくて、よくするためにどうするか、という話し合いをひたすらするんです。だから現場の空気が濁らない。その日その日のレコーディングを楽しめましたね。

──聴き手としてはレコーディングに集中できる環境だからこそ、開放的なサウンドができたのかなとも思いました。

そういうのはあるでしょうね。それとエンジニアの人たちは「これでいいと思う?」ってうかがってくる感じではなくて、「これが最高!」っていうスタンスで作業するんですよ。そういう態度は信頼できますよね。そういう部分になるべく委ねて、あまりこちらの趣味を全面に出したり、メンバー個人がこういうプレイをしたいといった変なこだわりはいらないっていう考えになった。郷に入っては郷に従えじゃないけど、そうじゃないとアメリカに行った意味がないし。またいつもの音像になってしまうので。

──化学反応を求めたと。

そう。人と音楽を作っている以上、細部まで自分だけの思い通りにはならないですよね。そもそも、100%自分の思い通りに作ることができた音楽がそんなに面白いのかという疑問もあるし。その思いは最近より強まっていて。だったら、関わる人にもちゃんと入ってきてもらうことにしてます。

人との交わりの中で生まれる変化=音楽の魅力

──後藤さんの場合、自分の思い描く音を具現化しているわけではない?

後藤正文(Photo by Rui Sato)

ではないですね。もちろん譜面みたいなものはたまに書きますけど、音楽って精密には設計図は引けないものだから。自分の頭の中で鳴ってる音と、現実に鳴る音をばっちり合わせることなんてできないから。その場の空気とかで変わっちゃうものだし、現場でつかまえた音を大事にしたいし、現場で起きるハプニングもエネルギーにしていきたいから。自分以外の誰かに、自分の思ってもみなかった部分を見つけてもらうのが音楽を作る喜びだし。人と人との交わりの中で生まれる変化っていうのが、音楽の魅力の1つだと思いますし。

──なるほど。

レコーディングだけじゃなくて、ライブもその日のメンバーのメンタルや体調、関係性が音に出ますから。そういうのをひっくるめて楽しむのがいいと思うんですよね。今日はあの2人仲悪いなとか(笑)。

──今回のアルバムは、4人のコンディションのよさや、音楽を奏でる楽しさがにじみ出てる気がします。

なるほど。自分としては、音楽を楽しくやりたいとは思ってますけどね。ただアジカンはある種の使命感もあるし、役割の大きいバンドだから、やるってなったら気合いが入りますけど。

──楽しんでいるだけではダメだと。新しい音を提示することだったり、後輩に対する道筋を示すといったことでしょうか。

まあ、「期待してないよ」っていう声もあるでしょうけど、これだけ大きくなった以上はそういう責任もある程度負わなきゃとは思いますね。それは引き受けるべきことなんで。

ニューアルバム「Wonder Future」 / 2015年5月27日発売 / Ki/oon Music
初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / KSCL-2587~8
初回限定盤 [CD+DVD] / 3996円 / KSCL-2587~8
通常盤 [CD] / 3146円 / KSCL-2589
アナログ盤 [アナログ] 3780円 / KSJL-6182
CD収録曲
  1. Easter / 復活祭
  2. Little Lennon / 小さなレノン
  3. Winner and Loser / 勝者と敗者
  4. Caterpillar / 芋虫
  5. Eternal Sunshine / 永遠の陽光
  6. Planet of the Apes / 猿の惑星
  7. Standard / スタンダード
  8. Wonder Future / ワンダーフューチャー
  9. Prisoner in a Frame / 額の中の囚人
  10. Signal on the Street / 街頭のシグナル
  11. Opera Glasses / オペラグラス
初回限定盤 DVD収録内容
  • 「Easter / 復活祭」ミュージックビデオ
  • 「Standard / スタンダード」ミュージックビデオ
  • アルバム「Wonder Future」のレコーディングに密着したドキュメンタリー映像
ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアンカンフージェネレーション)

1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年には、2002年にインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」をキューンレコードから再リリースし、メジャーデビューを果たす。同年メジャー1stアルバム「君繋ファイブエム」を発表。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の日本武道館ワンマンライブを行った。

2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招き、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースした。2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年5月にロサンゼルスでレコーディングしたニューアルバム「Wonder Future」を発表した。