FLOWメジャーデビュー20周年に生まれた「NARUTO-ナルト-」縛りのカバーアルバム

FLOWが12月6日より行っていた「NARUTO-ナルト-」シリーズ主題歌縛りのライブツアー「FLOW THE CARNIVAL 2023 ~NARUTO縛り~」が、12月13、14日に神奈川・KT Zepp Yokohamaでファイナルを迎える。

FLOWはこのツアーで、8月にリリースした「NARUTO-ナルト-」シリーズ主題歌のカバーアルバム「FLOW THE COVER ~NARUTO縛り~」の収録曲を披露している。アルバムにはアニメ「『NARUTO-ナルト-』放送20周年記念完全新作アニメーション」のオープニング主題歌「GO!!!」、エンディング主題歌「ビバ★ロック」を含む全14曲を収録。2004年より「GO!!!」をはじめ「Re:member」「SUMMER FREAK」「Sign」「虹の空」と幾度も「NARUTO」に主題歌を提供してきたFLOWだからこそ作ることができた、「NARUTO-ナルト-」愛あふれるアルバムだ。

音楽ナタリーではFLOWにインタビューを行い、「NARUTO-ナルト-」への思いや各曲のカバーアレンジ、そして今年メジャーデビュー20周年を迎えた心境について話を聞いた。また特集の最後には、原曲アーティストのAnly、いきものがかり、ORANGE RANGEのRYOによるコメントも掲載する。

取材・文 / ナカニシキュウ

すべての始まりが「NARUTO」だった

──「FLOW THE COVER ~NARUTO縛り~」は、アニメ「NARUTO -ナルト-」シリーズの主題歌に限定して選曲されたカバーアルバムになっています。この企画は、そもそもどういうふうに立ち上がったんですか?

TAKE(G) 今年はアニメ「NARUTO」の放映開始から20年、そして我々も同じくメジャーデビュー20周年というアニバーサリーのタイミングなんですよね。FLOWは19年前に「GO!!!」という楽曲で初めてアニメ主題歌をやらせてもらって、それがのちのち30曲以上もアニメ関連楽曲を手がけさせてもらう最初のきっかけになった。すべての始まりが「NARUTO」だったわけです。「NARUTO」なくして今のFLOWは存在していないなとメンバーみんな感じているので、その感謝の意を表現させてもらいたいという気持ちから今回の企画に至りました。

『NARUTO-ナルト-』放送20周年記念完全新作アニメーション」ビジュアル ©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ

『NARUTO-ナルト-』放送20周年記念完全新作アニメーション」ビジュアル ©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ

──なかなか攻めた企画というか、FLOWにしかできないことだなと感じました。

TAKE そう言っていただけるとありがたいですね。あと、所属レーベルに最近入ってきたスタッフがかなりの「NARUTO」ファンで、彼から「FLOWならやってもいいんじゃないか」と熱いプレゼンを受けたのも後押しになりました。僕らとしては恐れ多い気持ちもあったんですけど、そういう周囲のサポートもあって実現した感じですね。

──「NARUTO」関連楽曲はかなりの数が存在するわけですが、選曲はどのように?

TAKE 選曲は本当に、スタッフさんたちと話し合いながら……自分たちのアレンジがハマりそうなものだったり、逆にバンドとして新たなチャレンジになりそうなものだったりというのを想像しながら選曲させてもらいました。

──最初にその想像がついた曲は?

TAKE 最初は「CLOSER」かな。井上ジョーくんはもともとFLOWとは深いつながりのあるアーティストで、英語詞のプロデュースや、「World Symphony」という楽曲の編曲をしてもらったりしていて。それに、「CLOSER」自体が個人的に好きな楽曲でもあったから、そういう意味で想像しやすかったというのはあると思います。

──わりとストレートカバーに近い曲と、大胆なアレンジを施している曲の両パターンがありますけど、その線引きはどういうところで?

TAKE 基本的にはインスパイアなんですけど……例えばアジカンの「遙か彼方」とかKANA-BOONの「シルエット」のような、「NARUTOといえば」くらいの感じで世界的に親しまれている曲に関しては、そこまで大きくアレンジを変えるという選択肢は最初からなかった気がします。

──なるほど。

TAKE あとORANGE RANGEの「ビバ★ロック」に関しては、このカバーが決まった段階で「アニメ縛りフェス」(参照:デビュー20周年のFLOW「アニメ縛りフェスティバル」は「まるで百人組手」、レンジやロデオら登場)に彼らが出演してくれることが決まっていたので、そのステージでこの曲をコラボしたいという構想がすでにあったんですよ。であれば、彼らにとっても演奏しやすいようにオリジナルに近い形でやったほうがいいだろうと判断しました。結果的にはそのほうがFLOWらしかったっていう。

KEIGO(Vo) 2組の共通点が曲の中に最初からあったというかね。

TAKE うん。同じデビュー年で、ほぼ同世代でもあるから、そういうところで自然とフィットする部分はあったのかなと。自分たちの曲かのようにレコーディングしました(笑)。

俺、この声しか出せないし

──全般的に、各曲のアレンジはリズムパターンを軸に固めていったのかな?という印象を受けました。「この曲にはこのリズムがハマる」という発想から始まっていそうというか。

TAKE ああ、わかりますわかります。メロディが変わらない以上、バックトラックの化粧がどう変わるかというところで、一番強く印象に影響するのがリズムだと思うので。

──ほぼオリジナルに忠実なカバーの曲でも、リズムパターンに関してはいろいろ工夫を加えていますよね。

IWASAKI(Dr) そこがやりがいでもあり、難しいところでもありました。曲によって、わりと自分たちのテイストに近いものもあれば「これは初めてやる」みたいな曲調もあったりするので、がっつり歌に寄り添うのか、ドラム中心で考えるのか、原曲のエッセンスをどの程度忠実に踏襲するのか……いろいろ考えながらやってたんで。それは面白い作業だったし、いい機会をもらえたなと思いましたね。

GOT'S(B) すでに完成された楽曲が存在する中で新たにアレンジを施すというのをそんなにやったことがなかったんで、改めて原曲を聴き込んで「こういう正解があるんだな」と確認しつつ、自分のプレイに落とし込んでいく作業があったんですよね。ある種、アマチュア時代に好きな曲をコピーしてベースの弾き方を身に付けていったことにも近い感覚があったというか。それがけっこう新鮮でした。

──ボーカルのお二人はどうでした? カバーならではの苦労などは。

KOHSHI(Vo) ボーカル的には、「アニソンをカバーする」というよりは「普通にほかのミュージシャンの曲をカバーする」みたいな感覚に近かったんですよね。「NARUTO」の楽曲って、いわゆるアニソンと呼ばれるものよりもミュージシャンシップにのっとった楽曲が多かったりするんで、それがすごく楽しい作業でした。俺はもともとカラオケが好きだったりして、いろんな曲を歌いたいタイプなんですよ。カラオケでFLOWの曲は歌いたくないじゃないですか。

──そういうものですか。

KOHSHI そう(笑)。人の曲をカバーさせてもらうことで新しく吸収できる部分があったり、勉強にもなったりするのが楽しいんですよ。

KEIGO 歌詞ひとつ取っても、FLOWにはない言葉が使われていたりね。特に女性アーティストの歌はそうですけど、そういうのがすごく新鮮だった。さっきGOT’Sが言ったのと同じように、オリジナルという明確な正解があるところで自分なりの歌に落とし込んでいく、みたいな作業がね。

KOHSHI そういう意味では、ボーカルが一番厳しい立場にいるよね。オリジナルの声っていうものがあるじゃん。

KEIGO そうだよね。どうしても「この曲はこの人のこういう声」というイメージが聴く人の中に強くあるから。

KOHSHI だからもちろん厳しい意見もあるだろうなとは思うけど、俺、この声しか出せないし。

KEIGO どうあがいてもシビレサス(nobodyknows+のノリ・ダ・ファンキーシビレサス)の声は出せないので(笑)。

KOHSHI モノマネになっちゃうのもまた違うでしょ。オリジナルに寄せるのか、あくまでFLOWの色を貫くのか……そのさじ加減は、やっぱりボーカルが一番気を使うところだと思いますね。

──ちなみに、曲順はどう決めたんですか?

TAKE これは完全に時系列になっています。アニメ「NARUTO」を彩ってきた曲を発表順で並べることによって、聴く方が「NARUTO」の物語を追体験できるような構成にしたかったんで。そこはこだわったポイントでもあります。

──なるほど! でも、そのやり方でこんなにキレイに並ぶものなんですね。

TAKE そうなんですよ。もちろん曲順を意識しながらアレンジを進めた部分もあるんですけど、いろんな偶然が重なったことで、たまたま既発音源である「ブルーバード」がちょうどド真ん中に置けたり、ラップ曲がたまたま連続で並んだりして……(曲目リストを改めて眺めながら)よくできたアルバムだなあ、これ(笑)。

1曲ラクさせてもらっちゃったな

──アルバムをひと通り聴かせていただいた中で、個人的にすごく驚かされた曲が2曲ありまして。

TAKE おお、それはうれしい。

KOHSHI どれだろう?

──まず1つ目は「Sign(Piano Ballad ver.)」なんですけど……なんならこれが一番FLOWっぽくないというか。

一同 あはははは!

KOHSHI 自分たちの曲なのに(笑)。

TAKE なんせギター、ベース、ドラムがいないからね。

──そうなんですよね。果たしてこれを“FLOWの録音作品”と呼んでいいのかという心配もありつつ、僕の解釈としては「3人はずっと休符を弾いているのだ」という……。

KOHSHI はははは! すごい理屈(笑)。

TAKE もはや哲学。

GOT’S いや、でも本当にそうなんですよ。

TAKE 嘘つけ(笑)。

GOT’S ベースの世界ではよく「休符もプレイのうちだ」と言いますから。

──でも実際問題、バンド名義でリリースする曲に自分の音が入っていないのって納得できるものなんですか?

GOT’S まあ、20年やってきていろいろ経験しましたからね。できあがったものを聴いたときは「ホントにいい曲だな」と素直に思えたし、スッと受け入れられた。

IWASAKI バンドを長くやってきたからこそ「自分の音がそこにないことが正解」みたいな判断もできるようになった、というのはありますよね。これが例えば5年目くらいだったら「いやいや、ドラム入れさせてくれよ」みたいな話になってたかもしれないですけど。

GOT’S 今はむしろ「1曲ラクさせてもらっちゃったな」くらいのノリですね(笑)。

TAKE あと実はこれ、歴史的な流れも汲んだ1曲だったりするんですよ。2010年に「Sign」をシングルとしてリリースしたとき、初回盤のカップリングに「FLOW×NARUTO -Time machine Special Mix-」という楽曲を入れたんですけど、それが「GO!!!」「Re:member」「Sign」のアレンジバージョンのミックスだったんですね。その中で「Sign」のピアノバラードアレンジをもうすでにやっていて、そのときから「いつかこれをフル尺で作りたい」とはずっと思ってたんです。

──13年前の伏線をようやく回収した形なんですね。

TAKE ついにその時が来たなっていう。今回、nishi-kenさんにアレンジをお願いして吉田宇宙ストリングスさんに仕上げていただいたんですけど、デモを聴いたときはマジで「やっとできあがった!」と思いましたね。

やってみて初めてわかるnobodyknows+のすごさ

──で、もう1曲びっくりしたのが「Hero's Come Back!!」です。これはちょっと……やりすぎですよね(笑)。

一同 ガハハハハ!

KOHSHI まさかインタビューでお叱りを受けるとは(笑)。

──原曲では同じコード進行が延々ループする楽曲構造がキーポイントになっていると思うんですけど、今回のカバーではそれを全無視していて。

TAKE そうそう(笑)。このアイデアはすぐに浮かびましたね。ラップって基本的にはコード感に左右されない歌表現だから、トラックは自由じゃないですか。ヒップホップの文脈的な意味でもやりすぎたほうが面白いんじゃないかということで、自分たちが通ってきた2000年代初頭のラップメタル……Limp BizkitやRage Against The Machineあたりのエッセンスを持ち込んで、“バンドがやるラップ音楽”として再構築することを意識しました。

──結果、最初からこういう曲として作られたかのような説得力も感じますし、“FLOWの曲”として違和感なく聴けるものになっています。原曲とはまったく異なる魅力を引き出しているという意味で、個人的にはけっこう歴史に残る名カバーなんじゃないかとすら思いますね。

TAKE それ、太字でお願いします。

一同 (笑)。

TAKE 実はこれ、最初は選曲の候補に入ってなかったんですよ。ほかの楽曲が出そろってくる中で、もっとゴリゴリにラップしている曲……「流れ星~Shooting Star~」がすでにあったとはいえ、さらに振り切ったラップメタル曲もあったほうがよりFLOWらしいアルバムとして完成度が上がるんじゃないかなというところで、本当に最後の最後に足した感じですね。

──確かにこの1曲があるのとないのとでは、アルバムの印象がまったく違うものになるでしょうね。

GOT’S ベースもずっとスラップしている感じで、懐かしのミクスチャーロック感は意識していて。FLOWのアルバムにはだいたいこういう曲が1曲は入ってたりするんで、そういう意味でもすごくFLOWっぽいアルバムになったんじゃないかな。

IWASAKI 原曲のリズムセクションは完全にメカニカルな打ち込みベースのもので、それに対してこちらは人力でいく感じというか。サウンドメイクからビート感から、ヒューマンなテイストにすることはけっこう意識しました。

──その、リズム隊に血が通っている感じがまた“FLOWの曲”感を強調していますよね。もちろん、歌っているのがKOHSHIさんとKEIGOさんだというのも当然大きいんですけど。

KEIGO でもこれ、かなり難しかったんですよ。

KOHSHI 原曲はゴリゴリ4人のラップなんだけど、それを2人でやるわけでしょ。一番苦戦しましたね。マンパワー半分でやるわけだから。

KEIGO それと、人それぞれに固有のライムがあるじゃないですか。それをマネするのではなく、自分の中に落とし込む作業がなかなか大変でした。しかも彼らは群を抜いて個性的だから……。

KOHSHI クセしかない(笑)。東海エリアのクセというクセが集結した見本市みたいな4人だからね。

KEIGO あと「ここ、息継がねえんだ?」とか。

KOHSHI だいぶブレスがないんだよなあ。

KEIGO すごかったっすね。やってみて初めてわかるnobodyknows+のすごさがたくさんありました。