ナタリー PowerPush - aiko

「君の隣」で歌うということ

これから先に進むための希望をみんなにもらった

──昨年はデビュー15周年記念ツアーということで、200人規模のライブハウスからアリーナクラスの会場まで、会場の規模もセットリストも演出も異なる4つのツアーを同時期に開催しました。実際にやってみてどうでしたか?

本当にすごかったです。ライブに対する思いが強ければ強いほど、緊張もするしいろいろ考えこんでしまうし、ライブをすればするほど比較するものが増えてくるので「もっとこうできるんじゃないか、こうなんじゃないか」って思ったりしてました。それでもライブを嫌だと思ったことは一度もないし、やりたくて仕方がなくて。本当にやれてよかったなあと思います。

──ツアーが始まる前は、このツアーを通して初心に返りたいと話してくれましたよね(参照:aiko「Loveletter / 4月の雨」インタビュー)。

はい。4つのツアーをやって、初心に返ろうっていう原点回帰みたいな思いはあったけど、でも、やっぱり“今”でした。昔には戻っていなかった。今の自分が昔ライブをした場所をたどったけど、お客さんも違ったし、あのときから15年経ったんだなあと改めて感じました。同じ場所でライブをしてみて、“今”を感じるライブでした、すごく。

──例えば初期の頃ならaikoさんのほうから一生懸命お客さんに話しかけていましたが、今はもうお客さんが本当によく話すというか(笑)。15年経ったからこそのお客さんとの関係性の変化も感じました。

本当にそうでしたね。もうね、私がお客さんのことを大好きすぎるって本当に思った(笑)。小さいライブハウスでやったファンクラブ限定のライブのときは本当にファンの人と顔がすごく近いから、頭をなでられたり靴下を直してくれたり(笑)。その距離感が、本当に愛おしかったんです。だから本当にやれてよかったなあって。大変やったけど、すごい糧になりましたね。これから先をちゃんと進んでいくための希望を、本当にみんなからもらいました。

アレンジを変えて歌いたかった「恋人」

──それぞれのツアーのセットリストはどうやって決めていったんですか?

自分がやりたい曲をばーって出していって、みんなで話し合いながら決めました。

──セットリストを見ていると、例えば1stアルバムの1曲目である「オレンジな満月」の入る場所は一番初めかもしくはラストになっていて、そういうところにこだわりがあったのかなと思いました。

そういうこだわりはありましたね。「オレンジな満月」については、やっぱりツアーの最初はこの曲から始まろうとか、大きい会場では最後はこれで終わろうって思ってました。最初と最後は一緒にしようと。

──そして印象的だったのが小さいライブハウスでのツアー「Love Like Rock vol.0 ~パンツの替えは持って来いよ~」と、大阪城ホールと日本武道館で行われた「Love Like Pop vol.16.5 『15周年、本当にありがとうございまし』」で歌っていたロッカバラード風にアレンジされた「恋人」でした。

「恋人」はもともとはバラードの曲なんですけど、けっこう前から今回みたいなアレンジでやりたいと思ってたんです。でも「そのアレンジは難しい」って却下されてて。それでもやっぱりやりたくって、もう一回プロデューサーに伝えて、やっとやることができました。

──「恋人」の歌詞に出てくる「あの人の歌を聴いて心が落ち着いちゃうように あたしの存在もあなたにはそうでありたい」というフレーズを今このタイミングで歌うということが、aikoさんの意思表明のように感じられて、アレンジを変えたことでこのメッセージがより強く響いたように思いました。

そうですね。あのフレーズを歌うときは本当にすごい力が入ってました。伝えたくて仕方がない、みたいな。曲を作ったときの気持ちを今の自分が歌っても、そのときと同じように感極まって「うわーっ」ってなるんです。昔の曲だからファンクラブ限定のライブ用にアレンジをしたんですけど、どうしても大きいところでもやりたくって。アレンジを変えてライブでやれて本当にうれしかった。またやりたいですね、この曲は。

3階の一番後ろの人にまで届けられるように

aiko

──大阪城ホールと日本武道館のステージはaikoさんにとって初めての360度どこからも見渡せるセンターステージでのライブでした。「君の隣」を初めて披露したのも大阪城ホールでのライブでしたね。

あのときは(ロッテ「ガーナミルクチョコレート」の)CMで流れていただけの状態でまだCDになっていなかったから、早く聴いてほしいと思って歌いました。あと、あんなにお客さんが前も後ろも右も左も入ってる状況が、自分が昔観たドリカムのコンサートみたいで「うわー!」って(笑)。こんなことができると思ってなかったから特別だったし、だから最初にあのライブで「君の隣」を歌いました。

──センターステージでのライブは、いつものアリーナよりもずっと距離が近いように感じました。

近いです。感覚として全然違いましたね。私、初めてアリーナでライブをしたときは絶対無理だと思ったんです。「自分はここに立っちゃいけない。立つ人間じゃない」って思って、緊張しすぎて1曲目で「ガン!」ってマイクを落としたほどで(笑)。そういうことがあったからこそ「悔しい。もっとがんばりたい」って思って、どうしたら3階の一番後ろの人にまで届けられるんだろうってその方法を必死に探した結果が、花道を端まで伸ばしたりするやり方だったんです。お客さんに少しでも近付けるようにって。そういうことを理解してくれたスタッフの皆さんがライブの構成や演出、照明とかも全部考えてくれていて。それはもう「ああ15年ってこういうことか」っていう、時を重ねてきた結果なんです。

aiko(あいこ)

1975年大阪出身の女性シンガーソングライター。1998年にシングル「あした」でメジャーデビュー。その後「花火」「桜の時」「ボーイフレンド」などのシングルがヒットを記録し、2000年に「NHK紅白歌合戦」初出場を果たすなど、トップアーティストとしての人気を不動のものとする。2011年には初のベストアルバム「まとめI」「まとめII」を2枚同時発売し、2012年6月に10thオリジナルアルバム「時のシルエット」をリリース。2013年春にはライブ映像作品集「15」、同年7月にシングル「Loveletter / 4月の雨」を発表し、2014年1月に通算31枚目となるシングル「君の隣」をリリース。女性の恋心を綴った歌詞とユニークかつポップなメロディで幅広いファンを獲得し続けている。