ナタリー PowerPush - agraph
新鋭エレクトロニカアーティストのアニヲタ疑惑を徹底検証
円城塔との共通認識「ディスコミュニケーションって面白い」
──今回の作品には気鋭のSF作家、円城塔さんが書き下ろした短編小説が付属するというのも面白いですよね。
別にもともと円城さんと知り合いだったとかではないんです。単なる大ファンなのでブログに書いてあるアドレスから……こう正面玄関からノックする感じで。それで小説を書いていただけることになって。あれ、読まれました?
──読みました。
訳わかんないですよね!
──わはは(笑)。
僕ね、Twitterにデモ音源をアップして、みんなからいろんな感想をリプライで返してもらうのがすごく好きなんです。「この曲はこういう気持ちで作った」みたいな、自分の中で便宜的に持っている正解はおぼろげながらあるんだけど、それとは全然違う解釈をみんなが教えてくれるんですよ。そのディスコミュニケーションが、まるで僕が持ってるものをみんなで勝手に広げてるようで面白くて。円城さんの小説って例えば「Self-Reference ENGINE」にしても、こう言うとすごく失礼な言い方になってしまうかもしれないんですけど、読んでも正確に状況を理解できるようなお話ではないんですよね。
──具体的なビジュアルが頭に思い浮かばないことばかり書かれていますよね。
いろいろな解釈ができるので、僕の音楽と円城さんの小説をつながった作品として見ると、訳がわからない複素数平面のような世界観が描けるんじゃないかなと思って。
──なるほど。僕はあの小説でagraphの世界観が補完されたような気がしたんです。インストだと歌と違って言葉で説明することができないけど、これを読みながらアルバムを聴くと、歌詞カードを見ながら歌を聴いてるような感覚になるんですよ。
ええ、読みながら聴くとその世界が広がるかなっていう気持ちもありました。とは言っても円城さんが書いてくださったのは、アルバムの中身を説明しているわけじゃない、本当にどうとでも取れる小説ですからね。
──確かにそうですね。そういう小説だから楽曲のイメージが固定化されたり、解釈の幅が狭められたりはしない。僕が楽曲と小説から感じた世界観は他の人が感じるものと違うでしょうし。
かなりぶっとんだ感じになってますからね。個別に読んでもらっても楽しめると思います。
──ちなみに円城さんには会いましたか?
書いてもらう前に一度だけお会いして、コンセプティブな話とか、普段どう思ってるかみたいな話をしたんです。僕もかなり頭でっかちなタイプなんですけど、それに輪をかけて円城先生は……。やっぱり東大の大学院で複雑系を研究してた方なんで、面白いんですよ。僕と話しながらメモを取ってるんですけど、ふと先生のメモを見たらすごく難しい図形が描かれてて、「ええっ!? 今の話からその図形出てくる??」って感じで(笑)。
──スゴイなあ(笑)。
後でできあがった小説を読むと、そのときに僕が話したことが題材に使われていたりして。話してみたら2人とも「ディスコミュニケーションって面白いですよね」というのを共通認識として持っていたので、その時点でもう「これはすごいものができるな!」って確信してました。
──円城さんはアルバムの内容について何か言ってました?
小説は音源を渡して聴いてもらってから書いていただいたんですが、ご本人は「音楽のことは本当にわかんないんです」っておっしゃってたんで、たぶん苦心されたんだろうなと思います。本当にありがたいですね。でも、円城さんの小説は言葉のリズムがすごく音楽的なセンスに溢れているし、引き受けていただいたときから大丈夫だろうなと大船に乗ったつもりでいましたよ。とは言え、ここまですごいとは思いませんでしたけど(笑)。
──ちなみに牛尾さんは、円城さんの作品のほかにはどんな小説が好きなんですか?
ここ1年ぐらいはSFばかりをずっと追ってましたね。アニメの影響でSF的なガジェットにずっと興味があったので、最近ようやく重い腰を上げてSFを買うようになったんです。
──何を読まれてるんですか?
僕はA型なんで、ちゃんと昔から追おうと思って最初にアーサー・C・クラークを読んで。
──あはは、歴史順に(笑)。
まず70年代だと思ってジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」を読んだら、昔から理論物理とかが好きだったこともあって、そういうハードSFも全然イケるなって。それでSFファンの先輩方に「ホーガン読めるんだったら次はグレッグ・ベアの『ブラッド・ミュージック』で80年代のSF押さえて、次にグレッグ・イーガンに行きなさい」って言われたんで、ベアまで読んでこの間イーガンを大人買いしたとこです。最近は日本のSFにも興味が出たから大森望さんの短編集も買い始めたら、2007年のSF年鑑からまたそろえたくなっちゃって(笑)。ラノベも読まないといけないし、まだ読んでない本が大量にたまっちゃってるんですよねえ。
フルチンでライブやったらUNDERWORLDのブログに載るぜ
──先日のUNDERWORLD来日公演でのオープニングアクトは大抜擢でしたね。Zepp Tokyoでライブをやってみてどうでしたか?
最近、ミキちゃん(フルカワミキ)のライブのサポートで大きいステージにも立たせていただいているので、まあそんなにどうってことないやい……と思ってたけどやっぱ足はすくみましたね(笑)。自分の前に3000人弱くらい人がいてビックリしちゃって。四つ打ちのキック入れたり普段とは違うハードな感じで盛り上げていったので、UNDERWORLDへのバトンタッチはできたかなあって感じです。
──ああ、普段のスタイルとは変えてライブに挑んだんですね。
そのおかげで、今後はそういうライブもできるかなあ、って気持ちにはなってきました。2年前に1stアルバムを出したときにすごく困ったんですけど、あの方向性だとライブがやりたくてもなかなか居場所がないんですよね。
──いやいや(笑)。
これを機にいろいろなライブができるようになりたいですね。2作目を作り終えたばかりでまだわかんないんですけど、次は歌や朗読が入ったり、ダンスっぽくしたり、あるいは全然違う方向に向かっていったりするのかな、とぼんやり思っています。
──UNDERWORLDには楽屋などで会ったんですか?
はい。すごく気のいい人たちで、ライブが終わったらカール・ハイドがハグしてくれて、リック・スミスは「すごい良かった! 最後のほう超踊っちゃったよ! Keep on Techno!」って言われて。
──うわーっ!
あと、僕がUNDERWORLDと話してるときに、なんかダレン・プライスのお知り合いだとかで、近くで布袋寅泰さんが話してたんですよ。「わっ! 布袋さんだ!!」ってビックリして、すかさず自分のCDを渡しました。聴いていただけたらすごくうれしいなと思って。
──相変わらず行動的ですねえ(笑)。
あとピエール瀧さんにもいらしていただいていたんですけど、ライブ前にステージの袖で緊張してたら「お前もう出ろよ!」って後ろからずっと押されて(笑)。
──わははははは!(笑)
瀧さんには「お前、今日フルチンでやれよ!」って言われました。「フルチンでやったらUNDERWORLDのブログに載るぜ!『今日のオープニングアクトがさ~』って!」
CD収録曲
- lib
- blurred border
- nothing else
- static, void
- nonlinear diffusion
- flat
- a ray
- light particle surface
- while going down the stairs i
- while going down the stairs ii
- lib (remodeled by alva noto)
agraph(あぐらふ)
牛尾憲輔のソロユニット。2003年よりテクニカル・エンジニアとして石野卓球、電気グルーヴ、RYUKYUDISKO、DISCO TWINSの音源制作やライブをサポート。2007年に石野卓球主宰レーベル・platikから発表されたコンピレーションアルバム「GATHERING TRAXX VOL.1」にkensuke ushio名義で参加。agraphとしては2008年12月3日リリースのアルバム「a day, phases」が初の作品となる。